『asatte FORCE』小泉今日子さんインタビュー

「今しかできないこと」

この記事は約6分で読めます by 常松心平

小泉今日子さんが代表を務める「明後日」による『asatte FORCE』が、10月18日まで東京・本多劇場で開催中です。上演される内容は、演劇、朗読、ライブなど多種多様。10月4日には「えほんのろうどく 長田真作さんの本」と題して、今夏303BOOKSから『ほんとうの星』『そらごとの月』を出版した長田真作さんの作品が、小泉今日子さんと瓜生和成さんによって朗読されました。第2回目は「asatte FORCE」について、コロナ禍でも挑戦を続けることについて、小泉今日子さんにお話をうかがいました。

小泉今日子(こいずみきょうこ)
1982年に歌手デビュー。女優として映画、舞台などにも多数出演。エッセイなど執筆家としても活躍中。2015年より株式会社明後日の代表を務め、プロデューサーとして舞台制作を手掛ける。

「FORCE」を発信し続ける

「asatte FORCE」サイト

今回の『asatte FORCE』の企画は、どのように生まれたんでしょうか。

心平

当初はこの時期に、別の舞台を予定していました。それがこのコロナ禍で中止になってしまって、今回の企画に切り替えたんですね。劇場はすでに予約していて、キャンセルすることもできたんですが、もし公演をやれば少しでもなにかプラスが生まれるかもしれない。そういう希望を持っていたかったんです。

小泉

もとはひとつの舞台の予定だったのが、大きく方向転換をして、毎日違う公演をするというこの企画になったんですね。

心平

そうですね。今年の春以降は、表現者もスタッフもみんな職を失った数ヶ月で、誰もがつらかったと思います。それでいっそ、フェスみたいな場所を作って盛り上げたいと思って。表現の場所を失った人たちが多いので、「うちでやりませんか?」と声をかけさせてもらいました。

小泉

『asatte FORCE』という名前には、どんな思いが込められているんでしょうか?

心平

映画「スターウォーズ」に出てくる「フォース」は、念力やテレパシーのような超常的な力ですよね。演劇や音楽などの文化芸術には、それに近い力があると思うんです。ステージ上で人間が発するエネルギーが、観客に伝わって心の糧になる。今こそそんな不思議な力を発信していきたくて、「asatte FORCE」という名前にしました。

小泉
『なりたいのは』(絵本塾出版)

エンタメの世界では、このコロナ禍でまだ動き出せていない人たちも多いですよね。今こうしてイベントをされるというのは、相当な覚悟があったんだろうなと感じます。

心平

絶対に黒字にはならないだろうな、とも思いながらやっていますね。それでもやっぱり発信し続けることが大事だと思います。我々にとっても、お客さんにとっても、劇場に足を運ぶというリハビリテーションが必要なんじゃないかと。

小泉

我々は出版社ですが、こういうときだからこそ、発信を続けることが大事だと思っています。だって発信するために、僕たちはいるわけですからね。

心平

このコロナ禍で、ある学者さんが「利他的に生きることが大事になる」と言っていて。その言葉で、それだ!と目の前が明るくなりました。公演をしてもし金銭的に損をしたとしても、きっと後にすごい財産が生まれる。企画はこれからも生きていくから、きっとどこかで取り戻せると思うんです。

小泉

手を繋いで、仕事をつくる

小泉さんは10代のころから大きな事務所で、大きなビジネスの中心にいましたよね。「明後日」という会社を立ち上げて、ビジネスを作る側に回られてからは、やはり感覚は違いますか?

心平

そうですね。本当にやりたいこと、やるべきことをやっていくために、明後日が必要だったんですね。頑固かもしれないけど、「自分らしく生きるため」だったなと、そう思っています。

小泉

仕事をする上で、大切にしていることはありますか?

心平

みんなで手を繋ごう、助け合おうという気持ちはありますね。今はアーティストでも独立して活動している人がたくさんいる。そういう人たちと手を繋いで、純粋にいい作品を作って、それを多くの人に見てもらうということを試してみたいんです。

小泉

『asatte FORCE』でも本当にたくさんの方が出演されていて、人と人の繋がりを感じます。

心平

明後日をつくってから、人と繋がることに臆さないようになりましたね。昔でいえば、ご近所でお醤油を貸し借りするみたいに、知人に声をかけてイベントに出てもらったり、音楽を作ってもらったり、今度はそのお礼で自分が仕事を手伝ったり。世の中も、そういう繋がりを大事にする世界に戻っていく気がします。

小泉

誰でも劇場に足を運んで

『ぼくのこと』(方丈社)

『asatte FORCE』は10月18日まで続きますが、残りの公演にかける思いはありますか?

心平

昨日までの公演を終えて、だいぶお客さんに楽しんでもらえたと実感しているので、このバトンをどんどん繋いでいきたいですね。

小泉

これからも演劇やライブ、朗読やDJイベントなど、面白そうな企画が並んでいますね。

心平

後半では完全に私の趣味で、沢村貞子さんと殿山泰司さんの随筆の朗読を入れています。『わたしの茶の間 沢村貞子の言葉』(10月13日、出演:峯村リエ 村岡希美 西尾まり 小泉今日子)と、『あなあきい いん ざ にっぽん 殿山泰司の言葉』(10月14日、出演:風間杜夫 豊原功補)です。かなり前の俳優さんで、知らない方も多いかもしれませんが、魅力が伝わっていないのはもったいない。若い方もぜひ観に来てほしいですね。

小泉

大人から若者、子どもまで、いろんなお客さんが楽しめるように考えられているんですね。

心平

誰でも気軽に劇場に足を運んでほしいです。お母さんお父さんは、お子さんがいるとなかなか劇場に来られないから、親子で一緒に楽しめるものを作りたいと思っていて。昨日も子ども向けに「桃太郎」のお芝居※をやりましたが、こういう企画も定期的にできたらいいなと思います。

小泉

※10月3日に行われた『下北沢桃太郎プロジェクト「桃太郎」』のこと。

今日も、絵本の朗読を聞いた子どもたちが楽しそうにしているのを見て、劇場はみんなに開かれているんだなと感じました。

心平

そうですね。みんなでアイディアを考えて、たくさんの人に伝えていきたい。時代とともに人の繋がりが薄くなっているかもしれませんが、今回のコロナ禍で、本当に大事なものってなんだっけ?と問われているような気もします。こんなときだからこそ、文化芸術、エンタメ作品が、多くの人の心を繋げるものになればいいなと思います。「今できること」は、「今しかできないこと」だと思ってやっているんです。

小泉

「asatte FORCE」
https://asatte.tokyo/asatte-force/
【公演日】2020年10月1日(木)〜10月18日(日)
【劇場】下北沢本多劇場
【チケット】本公演は終了しました。

朗読、音楽、トークライブ、オンライン連動型演劇など、今しか見られないスペシャルなコンテンツを日替わりで上演する。
10月13日「わたしの茶の間 沢村貞子の言葉」(峯村リエ 村岡希美 西尾まり 小泉今日子)、10月14日「あなあきい いん ざ にっぽん 殿山泰司の言葉」(風間杜夫、豊原功補)、10月15日「こころ踊らナイト」(高木 完 スチャダラパー 川辺ヒロシ Chieko Beauty Ed TSUWAKI 小泉今日子)、10月16〜17日「マイ・ラスト・ソング・カジュアル IN シモキタザワ」(唄・ピアノ:浜田真理子 朗読:小泉今日子 / 岩坂 遼 Marino)10月18日「ピエタ」リーディング(石田ひかり 峯村リエ 小泉今日子 / 演奏:向島ゆり子)など。

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クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
編集
2014年入社。学校図書館書籍や生物の図鑑などの児童書を担当してきた。おもな担当書籍に『深海生物大事典』(成美堂出版)、『齋藤孝の どっちも得意になる!』(教育画劇)、『MOVE』シリーズ(講談社)など。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。
撮影
某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。