
「ピサンキ」は、ウクライナに古くから伝わる「ろうけつ染め」で描かれた卵。前回は、陶芸家・ピサンキ作家の飯野夏実さんにピサンキの作り方を実際に見せていただきました。実はピサンキ制作歴は陶芸よりも長いとのこと。
最後となる第3回では、ピサンキとの出会いから、いまの飯野さんにつながるまでの話を聞きました。

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不思議な本屋の不思議なおじいさん

陶芸・ピサンキ作家。
神奈川県出身。武蔵野美術大学工業工芸デザイン学科、京都伝統工芸大学陶芸コースを卒業。15歳のときにピサンキと出会い、そこからピサンキの制作を始める。2010年よりクラフトスタジオカラクサを主宰。ピサンキ教室も定期的に開催している。
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出会いは1冊の月刊誌

飯野さんがピサンキに出会ったきっかけはなんですか?

私がピサンキに出会ったのは、この本なんですよ。「たくさんのふしぎ」っていう、福音館書店から出ている、小学生向けの月刊誌です。1999年1月号が「卵」の特集で、卵の絵の話とか、ハンプティダンプティの話とか、卵にまつわる話がたくさん載っていました。これにピサンキが載っていたんです。


ほんとだ!

大人が読んでもすごく面白いんですよ。母が、興味のあるテーマのときにたまに買ってきてくれていました。たまたま、「卵」っていうのに私が食いついてしまったという。


これを見て、自分でつくってみたいと思ったのが15歳くらいで、図書館に行ってピサンキの本を探しました。

行動力がすごいですね。

この本を読んだ当時、まだ自分のパソコンもなくて、だから、図書館でめっちゃ調べました。ピサンキについて。

図書館にありました?

1冊だけあったんだよ!

すごい! 運命的ですね。本を読んで興味をひかれてすぐに調べるっていう探究心がすごい。

これだけですけどね。なんででしょうね笑。図書館で見つけたその1冊の本に作り方も書いてあって。そこからずっとつくり続けています。
美大生活とピサンキ作り

ピサンキをつくりはじめて、もう3、4年したら、ネットで何でも調べられるようになったし、アメリカから材料を買うこともできるようになって、当時住んでいた大学の近くのアパートでせっせと作ってました。

高校生のときからつくり始めていたんですね。

そうなんです。だから陶芸より歴史が長い。

高校生のときに出会ってピサンキをつくり始めて、美大に進学しましたが、美大に行きたいと思ったきっかけはあったんですか?

特にきっかけはなかったけど、美大に行く以外はあんまり考えませんでした。絵じゃなくて作る系だなとは思っていて、ガラスや木工にも興味があったし、陶芸とまでは決めてはいませんでした。
※飯野さんが通っていた工業工芸デザイン学科のクラフトコースは、木工、テキスタイル、金工、陶磁、ガラスの専攻にわかれる

そうだったんですね。

コース専攻を決めるのは2年生の途中なんですが、最初はガラスをやろうと思ってたんですよ。
でも最終的には陶芸を専攻しました。

陶磁専攻って、作品を焼くときに窯の寝ずの番があるって聞きました。

窯を焚いている間は学校から帰れないんですよね。

武蔵美は基本的に20時までしかいられないから、大変なんだろうけど、夜まで学校に残ってるのって青春っぽいなってデザイン科出身のわたしは感じてました笑。

飲み会ばっかりやってましたね笑。

武蔵美の実技課題でなんだかんだ忙しかったと思うんですけど、それでも家に帰ったら、コツコツピサンキを作って…みたいな生活をしてたんですか? 趣味というか、気分転換というか。

学校行って、サークル行って、バイト行って、帰ってピサンキ作るみたいなのがルーティンでした笑。


当時住んでいた四畳半のアパートでひたすら夜中にピサンキ作ってた記憶があります。バイト終わったあと帰ってきて、コタツでピサンキつくってたら、そのまま寝ちゃったみたいなこともよくやってました笑。

生活の一部ですね。同級生や大学の教授でピサンキ知ってる人はいました?

ピサンキは誰も知らないですよ、私が言ってるからみんな知ってるけど笑。
ピサンキのおかげで作家になれた

ピサンキのおかげで作家になれたようなとこもあって。
大学3年生のときに、とにかく1回個展というものをやってみなくてはと思って。まだ陶芸やり始めたばっかりで自分の作品なんて課題で作ったものしかないけど、ピサンキで個展をやろうと思って高円寺のちっちゃい場所借りて初個展をやったのが最初でした。

ピサンキが最初だったんですね。

武蔵美を卒業した後に京都の学校に行ってたんですけど、そのときも、学生だから自分の陶芸作品は好き勝手には増えないけど、それでも京都でも1回ピサンキだけで個展をやりました。
ピサンキがあったからこそ、作家モードに入っていけたんじゃないかと思います。

京都では陶芸を更に学びに?

京都伝統工芸大学校に行って、ろくろと絵付けをみっちりやるような学校に行って、その後独立しました。
陶芸作品につながるピサンキ

陶器にもピサンキっぽい模様を描いてます。ここに鹿さんとか、お馬ちゃんとか描いてあります。

木の下に鹿が立っている(右下のお皿)

本当だ。かわいいですね。飯野さんは描き込んでいくの好きですか?

はい。

お皿も絵付けが細かく入っていてとてもきれいです。

やっぱり陶芸作品のベースにはピサンキの模様があるのかもしれないですね。

見せていただいたお皿の作品も、画面を分割するようになっていますが、ピサンキの画面の分割とつながっていますね。

そうそうそうそう。
いろいろなピサンキ作品


この作品はね、茶色い卵を使ってるからちょっとシックに見えます。

白い卵のピサンキと印象が違いますね。

ダチョウの卵でつくったものもありますよ。

大きいですね!


これ全部ね、日本の文様で埋め尽くしました。和柄のピサンキです。りんずや、青海波、一松、麻の葉、唐草、七宝とか。これはウクライナの人には描けないだろうと笑。

模様がエンボスになっていますね。

これどうやって作るかというと、さっきの茶色のピサンキと同じように、キストカで模様を描いて、塩酸につけるんですよ。そうすると、描いた部分以外は溶けてへこむんですよ。だから削っているわけじゃないんです。

ミツロウを載せた部分は塩酸につけても溶けないんですか?

そうなんです。

ダチョウの卵のピサンキは陶器でできてるみたいにしっかりしてますね。

こんなかたい殻を雛鳥が食い破って出てくると思うとすごいですよね。

確かにすごいかも。

昔のアフリカの人はこれを水筒にしてたらしいですよ、水入れて。

それだけ丈夫ですもんね。
今日はピサンキのことたっぷり聞かせていただきありがとうございました!

飯野さんは、台東区の工房「クラフトスタジオカラクサ」で月に2回ピサンキ教室を開催していて、日程の詳細はホームページで確認できます。ピサンキの道具を販売するウェブショップも運営。教室に参加したその日に道具を買って帰ることもできます。
クラフトスタジオカラクサ
https://www.studio-karakusa.com/
ピサンキ材料のお店
https://pysanky.base.shop/
飯野さんの陶芸作品の展覧会情報などはInstagramをご覧ください。