Kバレエカンパニーのプリンシパルとして『ドン・キホーテ』や『ロミオとジュリエット』、『白鳥の湖』などさまざまな作品で活躍している堀内將平さん。第1話では、ミュージカルの出演経験もあるという多彩な堀内さんに、2021年12月『くるみ割り人形』公演の印象や役作りについてうかがいました。
ドロッセルマイヤーを初めて演じる
『くるみ割り人形』の公演を終えて、どんな印象が残っていますか?
今年は特に新しい若い世代のダンサーが増えました。若手が新しい役に挑戦することが多く、新鮮な舞台になったんじゃないかと思います。
堀内さんも、Kバレエでドロッセルマイヤー役をやるのは初めてだったんですよね?
初めてです。Kバレエの舞台でドロッセルマイヤーを演じる「デビュー」という意味ではみんなと一緒です。
演じてみて、いかがでしたか?
難しかったです。まず、Kバレエ版のドロッセルマイヤーは、まわりのダンサーたちとの絡みがとても多いんです。そのときにしか生まれないものがたくさんあるので、それが難しさにつながっていますね。あとは、衣裳を着て、メイクをして、舞台美術のほどこされた舞台に立ったとき、「自分が想像してたドロッセルマイヤーと違う」と感じるところがたくさんありました。
想像してたものと違うというのは、例えばどういう部分ですか?
舞台では、「このシーンって照明がこんなに明るいんだ」あるいは「こんなに静かなシーンなんだ」などといろいろなことを演じるなかで感じるんです。自分の想像していたもの、舞台に立って感じるもの、お客さまから見たときに見えるもの、それぞれ違うということをあらためて感じました。演じながらドロッセルマイヤーという役を勉強させていただきました。
「ミステリアスな魔法使い」
ドロッセルマイヤーに対して、どんな人物像を持っていましたか?
ドロッセルマイヤーの役所はすごく難しいです。例えばロイヤル・バレエ団では、もう少し歳上の方が演じられています。演技がメインで、踊ることはほとんどありません。でもKバレエ版では踊るパートがとても多いんです。ドロッセルマイヤーが年齢を重ねている役だとすると、普通は動きに“重さ”を表現するのですが、僕は“ミステリアス”をキーワードに解釈していくことにしました。魔法も使えるのでドロッセルマイヤーは“ミステリアスな魔法使い”ですね。その解釈だったら、若々しい動きで演じることができるし、この役がより印象的に見えるんじゃないかと思います。
実際に僕も去年、今年と公演を拝見しているんですけど、ドロッセルマイヤーってみなさん若くて美しいダンサーの方が踊ってるので、かっこいい魔法使いみたいな印象がありました。
Kバレエ版では若くてかっこいい役柄ですが、とてもおちゃらけたキャラクターでドロッセルマイヤーをえがくバレエ団もあるんですよ。ロイヤル・バレエ団とかは本当に優しいおじさんみたいな役柄なんです。
バレエ団や演出家によっても、解釈がずいぶん変わってくるんですね。
お気に入りはドロッセルマイヤーの登場シーン
ドロッセルマイヤーを演じる中で、好きなシーンはどのシーンですか?
冒頭の部分が好きですね。登場して、最初にクララのお母さんに魔法をかけて家を開き、魔法をどんどん出していくシーンがとくに好きです。
かっこいいですよね、すごく。
あと、くるみ割り人形の呪いを一瞬解いて、マスクを取るところもすごく印象的なシーンですね。ドロッセルマイヤーとしてというよりはそのシーン自体が好きで、そこに自分が存在するということがうれしいですね。
僕が見てて好きなシーンは、最後のクララの元から去っていくシーンなんですよね。
すごく切ないですよね。クララと離れるときの後ろ髪を引かれる思いを表現しながら、舞台から去っていきました。
舞台上を支配するように演じた雪の王
今回雪の王での出演もされましたが、雪の王はどういう思いで演じましたか?
雪の王が登場するシーンは『くるみ割り人形』でいちばん好きな部分です。最初に演じた頃はすごく大変だったんですけど、4、5年経った最近は、まさに王として舞台上を支配するような感覚で楽しんで演じています。
なるほど。あのシーン、お客さんも熱狂して、拍手もすごいですよね。
熊川哲也ディレクターのたたみかけてくる演出が特徴的ですよね。あのシーンの前がドロッセルマイヤーと、くるみ割り人形と、クララの3人のロマンティックなパ・ド・トロワです。その後、振り落としで幕がなくなると、舞台一面が真っ白になって、そこから雪のシーンが始まるんです。ほかのバレエ団では、もう少しゆったり踊ることが多いのですが、たたみかける演出が踊っている側としては楽しいですね。
ルーマニアなど海外でも『くるみ割り人形』にご出演されていたと思いますが? そこでの『くるみ割り人形』とKバレエ版のいちばんのちがいってどこだと思います?
Kバレエ版は、クララを主軸に物語としてお客様が入り込みやすいように作られていると思うんですね。熊川ディレクターは「“くるみ割り人形”は冒険活劇だ」とおっしゃっていて、本当にその通りだと納得したんです。そういうドラマティックな作風はKバレエらしいと思います。
ほかの『くるみ割り人形』だと、冒険活劇という感じじゃないんですね?
海外で上演されている『くるみ割り人形』は、もっと「クリスマス」ということを全面に押し出してますが、Kバレエ版はもっとワクワクする要素が詰まってると思います。
表情もダンサーにとって重要な要素
クララを演じた辻梨花さんの印象ってどうでしたか?
くるみ割り人形がねずみの王様に倒されてしまったシーンで本当に泣いていて、びっくりしたことがありました。作品に感情を込めていく姿勢がとてもすばらしいと思っています。
顔の表現もダンサーにとっては重要なんですよね?
海外にいたころは踊りに重点を置いてましたが、Kバレエに入団してからは、顔も必ず表情をつくるように指導いただくようになりました。今ではすごく大事な要素だと思っています。
そうなんですね。舞台の上の小さな表情の変化も見逃せませんね。次回は、書籍『くるみ割り人形 The Nutcracker』の感想や、2022年1月に上演される『クラリモンド~死霊の恋~』全編で演じるロミュオーのお話などを聞いていきたいと思います。