長田真作×飯田佳奈子「こどもたちの”感性の余白”」

QWS×東急エージェンシーPOZI “POZIとQWSが問うSDGs”

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11月3日、渋谷キューズにて「QWS×東急エージェンシーPOZI “POZIとQWSが問うSDGs”」が開催されました。SDGsとは、2015年に国連サミットで採択された、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。渋谷キューズのパートナーである、東急エージェンシーSDGsプランニングユニット「POZI」が、多様な分野のキーパーソンと「SDGsでワクワクする今と未来」を考える本イベント。同イベントはオンライン配信も行われた。この中で、303 BOOKSから『ほんとうの星』『そらごとの月』を出版したばかりの絵本作家・長田真作さんが登壇しました。テーマは「幸せな未来へ こどもたちの“感性の余白”」。民法初の赤ちゃん向け番組、テレビ東京「シナぷしゅ」プロデューサーの飯田佳奈子さんと、長田真作さんが登壇しました。新しい感性で作品を発表されているおふたりと、東急エージェンシーPOZI・月野木麻里さんのクロストークです。

子供の感性にゆだねる

シナぷしゅ。毎週月曜~金曜 朝7:35~8:00(テレビ東京系列6局ネット)、 夕方 5:30~5:55(テレビ東京ローカル)

「シナぷしゅ」を立ち上げるとき、「ぷしゅぷしゅ」というキャラクターを作ったんですが、赤ちゃん向けのキャラクターというと、これまでは赤や青のような原色が好まれるとされていたんです。なんとなく大人がそう考えていたんですよね。ぷしゅぷしゅはあえて白黒のキャラクターで、「君の好きな色に染めていいよ」というメッセージを込めています。ピンクに塗っても、水玉模様にしてもいい。赤ちゃんの感性にゆだねたいと思っているんです。

飯田

番組名の「シナぷしゅ」は、どんな意味でつけられたんですか?

月野木

神経細胞と神経細胞のつなぎ目の「シナプス」ですね。シナプスが増えることで脳が発達するので、成長するために非常に大事なもの。赤ちゃんの感性を広げるような番組にしたいという思いを込めています。「ぷしゅ」っていうのは、赤ちゃんのアイデアがぷしゅぷしゅっと湧き出るイメージ。それと、保育者の肩の力がぷしゅーっと抜けるようなイメージも込めています。育児をしていると、情報が溢れすぎていて苦しいこともあるんですよね。シナぷしゅを見ている間は、親御さんにもリラックスしてほしいと思ったんです。

飯田
「シナぷしゅ」のメインキャラクター・ぷしゅぷしゅ。

大人からすると、赤ちゃんの感性というものはなかなか考えにくいこともあると思いますが、長田さんはどんなふうに考えていらっしゃいますか?

月野木

生きているってことは、もちろん感性があるってことですよ。子供は原色が好き、キラキラしたものが好きっていうのは大人の思い込みですよね。僕は「そういうのはやめようよ」と思います。そういう決めつけをやめて、楽な世界にしていきたい。どんなシナプスがあるかはひとりひとりの赤ちゃんで違うから、飯田さんに賛同ですね。

長田

大人になってしまうと、こうすべきという常識や押しつけから離れられないことも多いかもしれません。

月野木

大人は「赤ちゃん」という言葉でひとくくりにしがちだけど、赤ちゃんによってすごく個性がありますよね。よく寝る子もいれば、全然寝ない子もいる。育児本では、何ヶ月の赤ちゃんはだいたいこれができる、何ヶ月でこれができればOKと書いてあることもあるけど、本当にそうかな?と思います。定義に縛られると、赤ちゃんの可能性を狭めてしまうこともあるんじゃないかな。

飯田

僕が「あなたは30歳だからこうでしょう」って言われたら困りますよ。赤ちゃんは言葉を話さないから、大人としては何を考えてるかわからなくて、怖いんですよね。不安でしょうがないから決めつけてしまう。定義せず、ただ見るだけでいいと思います。余裕をもって見ているだけ。定義にとらわれると、大人も赤ちゃんもどっちもきついよなと思います。

長田

自由に作り、自由に受け取る

長田真作さんは、先日『ほんとうの星』『そらごとの月』を出版されました。飯田さんはこちらは読まれましたか?

月野木

もちろん。まさに長田ワールドですよね。大人が読んでもぐっとくる哲学的な内容ですが、子どもが読んでも、言語化できないものがきっと伝わると思います。それは長田さんの感性が爆発しているから。ステレオタイプな子供向けの絵本ではないですよね。ちょっと怖いような部分もあるけど、読者にとっては怖いと感じることも大事だと思います。

飯田

僕はふつうに描いてるんですけどね。

長田
『ほんとうの星』長田真作(303 BOOKS)予告編
『そらごとの月』長田真作(303 BOOKS)予告編

この2冊には、絵本としては珍しくプロモーションビデオがあるんですよね。これはどうやって生まれたんですか?

月野木

これを描いたとき、通常の絵本とはちょっと違うものができたと思ったので、絵本とは別のところでもなにか表現したいと思いついて。303 BOOKSに無茶ぶりをしたら、こんなすばらしいアニメーションができました。やっぱり、絵本って楽しいなと思いましたね。ただ読むだけじゃなくてアニメにもできるし、読者が絵本の上に描き足してもいいし、いろんな側面がある。僕は何十冊も絵本を描いているけど、こうしようと考えて描くことはないんです。どんなアイディアも絵本が受け止めてくれるから、子供向け、大人向けとかも考えてないですね。

長田

絵本が受け止めてくれるからこそ、枠に縛られない自由な発想が広がっているんですね。長田さん自身が多くのお子さんと遊んできた経験から来ているのかもしれませんが、子供はこうだと決めつけていなくて、それが魅力になっているんですね。

月野木

絵本を描いてて楽しいのは、「こういう世界だったら楽しいだろうな」って考えてるときなんですね。日常を面白くしようと思って描いているだけなんです。それをやればやるほどいい作品になるんじゃないかと思いますね。

長田

私もそうですが、ものを作っていると「こう見てほしい」という思いが出てきがちですよね。長田さんはそれがなくて、自分の楽しい気持ちが先に出ている。だから読者も自由に読める。それが長田作品のいいところだと思います。自由ってちょっと怖いことでもありますが、いろんな受け取り方があって、同じ人が読んでも、読むタイミングによって受け取り方が変わる。狭められていないから楽しいんですよね。

飯田

子供・大人・アート

本日のテーマはSDGsということなんですけれども。世の中では、SDGsの主役は子供ということも言われていますよね。おふたりは普段、どういうふうに子供と関わっていますか?

月野木

私たちは最近、突然SDGsという言葉に触れたけど、今の子供たちはSDGsネイティブなわけですよね。生まれたときからその概念がある。だから大人が枠組みを定義しないで、子供を広い世界に放り込んであげれば、自然に備わっていくんじゃないかなと思います。番組を作っていても思いますが、大人はなんでも説明したくなるけど、本当は子供に押し付けるものじゃなくて自分で習得するものですよね。子供の出方を見るのが一番いいんじゃないかと思います。

飯田

僕も、子供を邪魔しないっていうことはすごく考えていますね。ちょっと話がずれるかもしれませんが、僕の父親がそうだったんです。教師だったので、家でも本を読んで研究していたりして、僕が遊んでって言っても「邪魔するな」と言ってくる。そうすると、この人は真剣なんだなって、理屈でなく感覚で伝わるんですよね。親も子供も、正直になればわかりあえると思います。

長田

何歳であろうと、子供には感じ取る力があるんですね。おふたりは、子供とアートについてはどんなふうに考えていらっしゃいますか?

月野木

どう受け取るかを子供にゆだねることですかね。大人が狭めずに、いろんなアートに触れさせるのがいいと思います。子供らしい絵本を読むのもいいし、長田さんのような絵本に触れるのもいい。いろんなものに触れることで、のびしろが広がると思います。ほったらかしにするのではなくて、時にはそれを畳むことも教えながら、広げるときは全部広げて。大人になれば嫌でも畳んでいくから、まずは広げることを優先して、いろんな作品に触れてほしいですね。親からだけでは与えられない楽しさが世界にはたくさんあるから、番組からも楽しいことが伝わるようにしたいと考えています。

飯田

子供とアートと言っても、子供も大人も違わないと思うんですけど。僕的に言うと、アートって感性がゆらぐ大変な出来事なんですよね。見たあとは世界が変わってしまう、脳の方向が変わるくらいの変化。楽しいことも悲しいことも、心がゆらぐことなので、その化学変化がアートだと思うんです。

長田

そうですね。

飯田

僕の息子は車に詳しくて、道行く車を見てはスバルだとか、ホンダだとか言ってくるんです。僕はそれ、いいなと思って。すごく楽しそうだから、彼の中ではなにかが起こってるんだなと。彼の中で変化が起きてるんだから、これもアートですよね。それは絶対に邪魔したくない。僕は車ってそんなに面白いと思わないけど、僕の感覚を絶対押し付けたくないと思ってます。親として、子供を守るべきところは守ってあげるけど、あとは好きなようにやらせたい。僕も子供を狭めないようにしたいですね。

長田

最後に、ちょっとアートに関連したお話なんですが。11月16日に、東急エージェンシーから長田さんの新刊が発売になります。『ざわざわざわ』『ごろごろごろ』という2冊で、今回はどちらも墨一色の濃淡だけで描かれているんですね。水面から何かが出てくるようなざわざわした感じや、幾何学模様がごろごろ動いているような雰囲気で。

月野木

この作品も、長田さんがお絵描きをすごく楽しんでいるような感じがしますよね。

飯田

もう1点ニュースになりますが、2021年春には、「シナぷしゅ」番組内で、長田さんの絵によるアニメーションが放送される予定なんですよね。

月野木

最初に「シナぷしゅ」に込めた思いなんかを長田さんに伝えたら、すごく創作意欲が湧いてきたそうで、すぐに絵を描いてくださって。その絵をどうしようというところで、頭を抱えて試行錯誤したりもしたんですが、春には大作を送り出せると思います。

飯田

仕上がりが楽しみですね。これから、もっと頭を悩ませる作品をつくっていきますから(笑)

長田
この日最初のセッション、「ギャル式ブレスト:マゼンタ・スターを渋谷から世界へ普及するには?」の様子。QWSチャレンジ2期生が考案した「ギャル式ブレスト」が登場。東京大学の学生が中心となって立ち上げた「マゼンタ・スター(協力者カミングアウトマーク)」を世界に普及させるには?というテーマで、ざっくばらんなディスカッションが行われました。
<パネラー>

Black Diamond from2000  あおちゃんぺさん
EmperProject発起人東京大学 飯山智史さん
一般社団法人渋谷未来デザイン事務局次長プロダクトデザイナー 長田新子さん
QWSエグゼクティブディレクター 野村幸雄さん
POZISDGsプランナー 池上喜代壱さん
Black Diamond from 2000 バブリアンヌ大佐(ファシリテイタ―)さん

最後の3つ目のセッションは、「親子の対話を通じて描く、持続可能な未来像とは?」。絵本「おにぎりはどこからきた?」を手掛けた小沼敏郎さん、11月には「SDGs×ホテル」特集を発信するオズモール額奈緒子編集長、「SDGsMAGAZINE」を立ち上げた副編集長内山佳世さん、そしてQWSとPOZIによるトークセッションが行われました。
<パネラー>

マルチクリエイター・ビジネスプロデューサー 小沼敏郎さん
スターツ出版オズモール編集長 額奈緒子さん
SDGsMAGAZINE副編集長 内村佳世さん
QWSコミュニティマネージャー 星川和也さん
東急エージェンシーPOZI 御園生浩司さん

各セッションの進行中には、杉浦しおりさんによるグラフィックレコーディングが行われました。
プロフィール

長田真作(ながたしんさく)
絵本作家。広島県出身。2016年、『あおいカエル』(文・石井裕也/リトル・モア)でデビューし、以後30冊以上の絵本を出版。精力的に活動を続けている。

飯田佳奈子(いいだかなこ)
テレビ東京「シナぷしゅ」プロデューサー。第一子を出産後、2019年の会社復帰に際して「シナぷしゅ」の企画を提案。初めてのプロデューサー業を務める。

月野木麻里(つきのきまり)
株式会社東急エージェンシー マーケティングイノベーションセンター 執行役員 本部長

<スタッフ>
執筆:深谷芙実 
構成:常松心平 
撮影:土屋貴章、水落直紀