『これからの図書館』を語ろう 谷一文子

図書館の未来

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前回につづいて図書館流通センターの谷一文子さんにお話をうかがいました。谷一さんが上梓された『これからの図書館 まちとひとが豊かになる仕掛け』には、現状を変えようとする図書館の新しい挑戦がたくさん描かれていました。今回の話は、未来の図書館のあり方、未来の本のあり方へと向かっていきます。

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『これからの図書館』を語ろう 谷一文子

図書館は今変わっている!

谷一文子(たにいちあやこ)
1985年より岡山市立中央図書館にて司書として働く。1991年に株式会社図書館流通センターに入社、データ部目録、特注班を経て営業デスクに所属。2004年に図書館サポート事業部長に就任。高山市立図書館、桑名市立中央図書館など、全国の図書館で業務委託やPFIの立ち上げに携わる。2004年6月にTRCサポートアンドサービスの代表取締役に就任。2006年6月に株式会社図書館流通センター代表取締役社長を経て、2013年4月より株式会社図書館流通センター 代表取締役会長。2019年7月より株式会社図書館流通センター 取締役。

情報を発信していく図書館へ

レファレンスサービスもそうですけど、図書館をよく使う人は知ってるけど、そうじゃない人は全然知らない図書館のサービスとか設備がほかにもありますよね?

心平

そうなんですよ! 図書館はちょっと宣伝下手なんですよね(笑)。

谷一

たとえば、クラウド型電子図書館サービスのLibrariE & TRC-DL(電子図書館)がありますよね。図書館は、トイレやエレベーターなどハードの面でも、こういうソフトの面でもバリアフリーを進めている最先端の場所のひとつという側面もあります。多様性の時代を以前から意識している。

心平
LibrariE & TRC-DL

LibrariE & TRC-DL(電子図書館)は、文字の大きさが変えられたり、文字色の反転や音声読み上げ機能にも対応している(※1)電子書籍貸出サービスです。音声読み上げは、読み上げている箇所の色が変わるので(※2)どこを読んでいるかがわかるようになっており、発達障害や視覚障害など、一般の書籍を読むのが難しい人でも利用がしやすい。

1 : コンテンツタイプ、出版者の許諾等により対応していないタイトルがあります。
2 : iPad 、 iPhone等iOS端末は、色が変わりません。

そうですね、どの図書館もバリアフリーを進めていて、たとえば、視覚障害や識字障害の方などに図書や雑誌、手紙などを代読する対面朗読室という設備があります。そういうバリアフリーサービスがあることを図書館側が口下手にならずどんどん発信していかないといけないですよね。あと、先程おっしゃったLibrariE & TRC-DLもバリアフリーサービスのひとつです。ほかにもDAISY図書といって、録音図書のサービスもあります。この図書を制作するためにはたくさんの朗読ボランティアの方々が協力してくださっているので、そういう方々の貢献も伝えてもらいたいですね。

谷一

そういうことはあまり知られてないんですよね。

心平

それに、自分たちの活動以外にも、図書館が有用な情報を利用者の方々に発信していくことも大事だと思います。現状では図書館のWEBサイトの使い道って本の検索をしたりイベント情報を見たりっていうぐらいしかないんですけど、年金とか補助金の申請方法とか、防災情報、医療情報などをレファレンスサービスみたいな形で提供できるようになればいいですね。

谷一

図書館が、市役所よりも気軽で、一番身近な公の情報の入り口になるといいですよね。図書館がどんどん情報を発信していくとなると、TRCに入って図書館運営に関わりたいとか司書になりたいとかいう人も、本に詳しいだけじゃなくて自分たちの活動や情報を外に伝えられる能力が求められますよね。

心平

そうですね。レファレンスサービスを提供する場合でも、相手が言いたいこと、欲していることをちゃんと理解して情報を引っ張り出してこないといけませんよね。なので、本の知識も大事ですが、そういうコミュニケーション能力はもっと大事だと思います。若い世代の本好きの子って、人付き合いが苦手でしたっていう人が意外と多いので、そこは殻を破ってもらいたいですね。

谷一

ちなみに、編集者も、僕より下の世代はまじめでおとなしめの人が多くて、僕より上の世代は学生時代からヤンチャだった人が編集者になってるんですよ(笑)。

心平

小学館の名編集者だった島本脩二さんとお話する機会があったんですけど、本当型破りでおもしろかったです。いろんなことに興味をもたれてて、その知的好奇心と情熱で本づくりされていますよね。図書館は司書だけじゃなくて、WEBサイトをつくれる人とか、デザインができる人とか、さまざまな人がいて成り立つんです。だから、いろいろな才能を持った人に集まってもらいたいです。何事にも興味を持って楽しめる人が、図書館の世界に入ってくれればって思います。

谷一

図書館と出版社がまざりあう

僕、学校図書館の司書さん向けの講演を依頼されたことがあって、作家の了解を得て、作家の元原稿と僕が編集した原稿を見比べるというのをやったんですよ。そしたら、「おおー!」って、盛り上がったんですよ(笑)。

心平

「そこに技があったか!」みたいなね(笑)

谷一

本好き同士なんでそりゃ盛り上がるんですよね。読者はもちろん、書店、作家、図書館、出版社ってみんな本好きなわけじゃないですか。でも、まだまだみんなバラバラに感じるんですよね。

心平

意外と分断されてますよね。「図書館は出版社や書店の敵」って言われることもあるんですよ。悲しくなります。

谷一

だから、TRCがCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)と、海老名市立中央図書館を一緒にやったっていうのが、画期的ですごいなって思いました。

心平

実現するまで本当に大変でした。

谷一

本当にプロ野球とJリーグがまざるような、一緒になりづらいものを、一緒にしたんですから。TRCが、いい意味でまざりにくいものをまぜていて、そこから新しい動きを起こしてくれているんだなと思っています。

心平

ありがとうございます。少なくとも出版社さんと図書館をつなげたいと思っていたんですが、それは徐々にできつつあるかなとは思ってはいます。次は、作家さんや地元の書店さんもつなげられたらいいなと思ってます。たとえば、私が海老名市立図書館にいたときに、地元の書店さんとはいろいろコラボさせてもらったんですよ、ビブリオバトルやりましょう!とか。

谷一

※ビブリオバトル=「ビブリオバトラー」と呼ばれる参加者同士で本を紹介し合い、聴衆のもっとも読みたいと思う本を投票で投票で決める。2007年立命館大学情報理工学部谷口忠大教授によって考案され、京都大学で行われたのが始まり。

もっと言えば、出版社と書店だけではなく、地域の様々なひとびとをつなぐ図書館であってほしいです。大和市のシリウスでは、市民の方に先生になっていただいて実施しているイベントが沢山あります。また、施設の枠組みを越えて市の職員さん方にも様々な講座を担当していただいています。図書館なら、さまざまな枠を越えて、つながっていくことができるんです。シリウスでは人々をつなげ続けた結果が実を結び、今年の1月21日に、開館からたった3年2か月で来館者1000万人を達成しました。

谷一
シリウス外観
シリウス内観
シリウス内観
シリウス来館者1000万人突破
2016年11月3日に新しくオープンした大和市文化創造拠点シリウス

TRCが代表団体として計6社からなる「やまとみらい」が指定管理者として運営。コーヒーを飲みながら本が読める1Fのカフェスペースにはスターバックスコーヒーが入り、約1,000名が収容可能なメインホール、様々な用途に使用できるサブホール、ギャラリーを備える。2Fの市民交流ラウンジは有料で有線LAN完備。3Fはこども図書館のほかボーネルンドの遊具が入り、子どもたちの遊ぶスペースに保育室、相談室がある。大中小ある音楽スタジオではバレエレッスンやバンドなどの音楽練習が可能。4Fの健康都市図書館には健康に関する書籍はもちろんのこと、利用者自らで血圧や脳年齢などが測れる「健康度見える化コーナー」が備えられている。5Fは一般書架とレファレンスカウンター、地域資料として大和市での出土品なども公開。6Fは市民交流スペースのほか、各種会議室、調理室、和室などを備える。2020年1月21日に累計来館者数1,000万人を達成。

それはすごいですね。図書館を通じて様々な人たちがつながっていくといいですね。谷一さんの『これからの図書館』を読んで、これからは出版社や図書館、書店などがもっと密接に関わり合り、まざりあっていくということが本の未来への扉を開く鍵だと思ったんです。だから、僕らもぜひその輪の中にまぜてください〜とお伝えしたくて、取材させていただきました(笑)

心平

なるほど。 そういう思いだったんですね(笑) こちらこそ。ぜひいっしょにまざっていきましょう!

谷一

このサイトでもおもしろい図書館を紹介する企画をやっていこうと思っているんです。そこでイベントやったりして……構想がふくらみます。またおすすめの図書館あったら、ぜひ教えてください。谷一さん今日は本当にありがとうございました!

心平
谷一文子さん
『これからの図書館 まちとひとが豊かになる仕掛け』谷一文子(平凡社)
日本全国津々浦々の図書館を訪問し、TRCとして図書館運営に携わってきた谷一文子さんが、海外の図書館も紹介しながら、図書館の過去・現在・未来について語る。図書館に対する見方ががらりと変わる一冊。BACH代表ブックディレクター・幅允孝さん、『つながる図書館』著者の猪谷千香さんとの対談も収録されている。この2つの対談も必見。

CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。
構成
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。
撮影
某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。