自分は傍観者ではないか!?

6月のプライド月間をひとつのきっかけに

この記事は約8分で読めます by 宗我部香

第2回では、ここ数年でぐっと日本でもLGBTQ+についての取り組みがさかんになってきたこと、レズビアン女性のマッチングアプリなど星さんの会社での新しい取り組みにも触れました。今回は具体的な企業の取り組みを中心に、ダイバーシティを語る際には欠かすことのできない政治と経済にも言及していきます。

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「LGBTQ+」が社会で輝くために

セクシャルマイノリティと企業を繋ぐ「JobRainbow(ジョブレインボー)」 とは?

星賢人(ほし けんと)
1993年千葉県出身。2018年に東京大学大学院情報学環教育部卒。孫正義育英財団財団生(一期生)、板橋区男女平等参画審議会委員。自身が感じた社会的少数派に対する就活に疑問を抱き、企業と当事者をマッチングすべく2016年1月に「JobRainbow(ジョブレインボー)」を姉・真梨子さんと設立。

これまでの企業さんで「あ、この取り組みいいな」と思った内容ってありますか?

宗我部

やっぱり「物語コーポレーション」はずっと一緒にやらせていただいていて、すごくすてきだなって思います。何がすてきかと言うと、全国展開しているのでインパクトの大きいことができるんですよね。そこでオールジェンダーのお手洗いなどを少しずつですが、導入して行ったりしてます。アルバイトの方やビジネスパートナーさんに対しての教育もやっていこうと動きを広げていて、会社の存在を通じてLGBTQ+を知ることができるところがいいなあと思います。

※「焼き肉きんぐ」「丸源ラーメン」「ゆず庵」など外食事業を展開している。

私も「物語コーポレーション」さんは3年ほど前に取材したことがありますが、LGBTQ+に関する取り組みをいち早くされていて驚きました。

宗我部

ソフトバンクさんだと、家族割は当たり前に同性カップルの方でも適用しています。そもそもLGBTQ+に対して「コレやります!」ではなくて、家族割と定義をちゃんと広げて、皆平等だよねっていうスタンスを作っていらっしゃる。社内の取り組みも個々人がフェアに競争できる環境で、チャンスや機会が平等に与えられることを重視しているんです。そういうところがいいなと思います。平等については乙武さんと話しているとよく出てくるのですが……。

乙武さんて、あの『五体不満足』の著者の乙武さんですか?

宗我部

あの乙武さんです。世の中ってみんなからだのサイズが違いますよね。いろんな性別の方がいて、みんなを平等にしたくても例えば「全員にMサイズのTシャツを配ります」は「本当の平等と言えるのか?」という問題です。ここはそれぞれのサイズに合ったTシャツを渡すのがフェアだと思うし、その視点が会社側のサービスにおいても重要だと思っています。

平等というより公正という言葉がキーワードですね。

宗我部

はい。やっぱり公正であるっていうところを軸に会社が取り組みをすることが大事だと思います。

そうすると社員研修はひとつ大事なことですね。

宗我部

研修はとても大事だと思います。例えば丸井さんは「ダイバーシティブック」という社内用の冊子を発行しています。ほかにも、丸井の代表取締役社長、東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さん、ユニバーサルマナー検定をしている「ミライロ」代表の垣内俊哉さんと3人で鼎談する様子をホームページに掲載しています。それに、トランスジェンダーの方でもうれしいサイズの靴やスーツを開発しているんですよ。

すばらしい取り組みですね。

宗我部

結局トランスジェンダーの方にやさしいということは、足の大きい女性や、足の小さい男性にもやさしいことです。

さきほどのTシャツの話と同じですね。

宗我部

資生堂さんはレズビアンカップルを起用したコマーシャルを作っていましたね。うちと丸井さんと資生堂さんは共同で「丸井有楽町店」で「ジェンダーフリーハウス」というポップアップストアを以前に出しています。トランスジェンダーの方や、例えば私もメイクしますけど、化粧品コーナーでメイクされるのって結構ハードル高いんですよね。

確かに。

宗我部

周りの目が気になるし緊張するじゃないですか。特に男性から女性にという方だとハードルが高くてメイクが学べない。そうではなくて「ジェンダーフリーハウス」では完全予約制で個室のメイクブースを用意して、安心して30分間みっちりプロの方に聞けるんです。

それ、いいですね!

宗我部

そしてみんな結構メイク道具を買って行かれるんですよ。だから全員うれしいっていう。会社としてもメチャクチャLTV(ライフタイムバリュー)が高いんですよ。そこで提案されたものは、ずっと使い続けたいなって思うし。会社にとっても当事者にとってもうれしいですよね。ファッションも丸井さんがジェンダーフリーのファッションを提案して試着を手伝っています。

すばらしい取り組み。

宗我部

ただ、これをやる際にLGBTQ+だけに配慮っていうのもまた違うよねという話になりました。いろんな人がもっと自由に楽しめるようにしたいなと。そもそも別にLGBTQ+関係なく、ジェンダーにとらわれないファッションを求めている人は多いですし。

本当にそういうことになりますよね、最終的には。

宗我部

だから車椅子の方でもそのままフラットに入れるように広めの試着室を用意しました。介護する方と一緒に試着できるようにして、いろんな方がファッションやメイクを楽しめるようにしようという取り組みです。

すごくすてき!

宗我部

こういうのはLGBTQ+が出発点になっているものの、結局は“ダイバーシティ”という観点でいろんな人にとってハッピーなものをつくりあげていく企業の姿勢と考え方が求められているなと思います。今は企業にダイバーシティ担当があるぐらいですから。

そんな専門の方が会社にいるんですか。

宗我部

まだまだ上場している大きな会社にひとりふたりというレベルですが、海外だと役員レベルにダイバーシティ担当がいるんですよ。

役員レベルにダイバーシティ担当が!

宗我部

チーフイクオリティオフィサーっていうのがいて、最高経営責任者じゃない方のCEOなんですけれど、必ずやっぱりトップにいる。ボードメンバーに多様性がないと競争率が何十パーセントか落ちるというデータもあるんですよ。アメリカでは特に取締役に多様性がないとそもそも上場できないぐらい厳しいです。日本はまだそこまでいってませんが、その波がまさに来ているので、経営面で自社の時価総額をあげていく観点でもダイバーシティがこれから大切になってくると思いますね。

日本はアメリカの影響をすぐ受けてしまう点がありますが、それで変わっていくのであればいいことですね。

宗我部

そうですね。

最後に6月はプライド月間ということで、プライド月間に寄せて何かメッセージをいただけるとうれしいです。

宗我部

そうですよね。こういう月間があるのって大事だなって思っています。

考えるキッカケになりますよね。

宗我部

そうですね。プライド月間って元々、かつて世界的なLGBTQ+の運動が始まったキッカケになったストーンウォール事件がきっかけです。アメリカのゲイバーに警察が突入して、それに対してLGBTQ+の当事者が立ち上がってデモをやったんですね。

ニューヨークでしたっけ。

宗我部

そうです。それが6月末だったんですけれども、それを祝って世界中で6月をプライドマンスと呼ぶようになった経緯があります。だから6月って何かこう最近だと結構LGBTQ+のテーマって、寛容であることがファッショナブルなことでもあるし、イケてることだよねって意識も強まってきて、それもいいのですが、ただやっぱり6月がどういう月かというと、それだけ当事者が虐げられてきて、そこに対して抵抗して自分達にプライドを取り戻すための運動から世界的なムーブメントが始まっている月でもあるんですよね。例えば今だと理解増進法っていうのが国会で提出が断念されてしまって、ちょうどこの前渋谷ハチ公前でデモがあったりしたんです。やっぱりそういう動きに対して、別にLGBTQ+は当たり前だし、全然偏見持つなんてありえないけど、そこまで権利権利って言って怖いなとか、あえてそこまでする必要ある? みたいな意見もあるんですよね。

そういう人は一定数いそうですね。

宗我部
ジョブ・レインボーが作成しているアライステッカー

はい。でも6月って当事者が虐げられてきて暴力を受けたり、今でも自殺に追い込まれる人たちがいて、そういう現状がある中で自分達にプライドを取り戻そうっていうところから始まっているので、何かこの月ぐらいはひとつ、自分は偏見も無いし、自分は何もしないけどねという傍観者ではなく、世の中の不条理な状況に対して、アクションをする月にしてもらえたらうれしいです。例えば職場で「6月はプライド月間でLGBTQ+の月間だよ」とシェアしたり、友だちと話題にしたり。例えばこういうアライステッカーがあるように、自分がアライ※だと示してみるとか。さっき言ったように11人に1人はLGBTQ+というデータがあって、実はすごく身近なんです。10万人ぐらいいる会社なのに、「うちの会社LGBTQ+がいなくて」と言う採用担当者もいるんですよ。

※アライ…LGBTQ+の当事者ではない人がセクシャルマイノリティを理解し支援する立場を表明している人たちを指す言葉

絶対そんなことないですよね。

宗我部

もうそんなこと絶対ないからポカンって感じなんですけど、やっぱりまだまだそういう感じがあって。なぜそういう当事者がいない状態になるのか、なぜいないように思えるのかというと、それは当事者がいないんじゃなくて、言えない状況だからという裏返しなんです。だから取り組みをある程度したり、ダイバーシティに寛容な空気がある会社ほど、課題が見つかりやすいです。課題が深ければ深いほど、今度はそれが不可視化しまう。だからプライド月間をキッカケに、自分達の会社や自分の周りの人間関係に対して自分が意識を持っていること、変えたいと思っていると発信することができれば、周りの人も、もしかしたらカミングアウトしやすくなるかもしれないし、しなくてもこの職場にいても自分は大丈夫なんだと、仮にこのことを伝えてもきっと受け入れてもらえるという安心感を持って働けます。「言ったらマズイかも」という状態で働くのでは全然違うので、折角プライド月間だからこそ、受け身ではなくて何か周りを変えるような動きをしてもらえたらうれしいですね。

なるほど確かに受身な人は多そうです。自分からアクションを起こすことも、勇気が必要ですから。何かしたい心はあっても、なかなかきっかけがなかったので、6月のプライド月間がそういうきっかけになるといいですね。

宗我部

そうですね。きっかけになるとうれしいです。

ありがとうございました。

宗我部

CREDIT

クレジット

執筆・編集
最近は303BOOKSの動画を担当していることが多い一応編集者。私立中学に通う長女に作るお弁当をインスタにアップすることを日課としている。中学2年生と小学5年生の女の子の母。故郷・高知を世界の中心と思っている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。