コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ“丹波”ササジマが現地に暮らす市井の人々にインタビューしていく連載企画。今回は、大学でスペイン語と英語を勉強しつつ日本語を学ぶ学生、ケリーさんにインタビューしました。今回は大学に入るまでについて話を伺います。
夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―
ユースケは何しにコロンビアに?
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。
「ちゃん」は特別な響き
こんにちは〜今日はよろしくお願いします!
こちらこそよろしくお願いします。
ケリーさんの本名を教えてもらっていいですか?
はい、Kelly Johana Ocampo Cobaleda(ケリー ジョアナ オカンポ コバレダ)です。オカンポはコロンビアでわりとみかける名字で、コバレダはたぶんスペインから来たのかな?※
※ラテンアメリカの国々で使われてる名字の多くはスペインから来たものだが、ペルーでよく見られる名字「キスペ(Quispe)」など、先住民族の言葉由来のものもある。ちなみに、プロ野球ファンにはおなじみの「ラミレス(Ramírez)」という名字は、日本では「ラ」にアクセントが置かれているが正しくは「ミ」を強く発音するので「ラミ
レス」となる。
ふだんはどちらの名前を使ってますか?
ケリーですね。ジョアナはあんまり好きじゃないんで・・・。ケリーちゃんって呼んでください!
では、ケリーちゃんで! ちなみにおいくつですか?
いくつに見えますか?(笑)
それやりますか・・・。 23歳くらい?
不正解! ケリーちゃんは、もうちょっと下の20歳です。
ほぼ正解じゃないですか・・・。すみません、ちょっと気になったんですけど、ケリーちゃんは自分のことを「ケリーちゃん」って呼んでるんですか?
「ちゃん」っていう響きが好きなんですよ。スペイン語にはないですからね。とても気に入ってて、自分のことも「ケリーちゃん」って呼ぶし、友達にもこうやって呼んでもらってます。
なるほど・・・。他人がとやかくいうことじゃないんですが、コロンビアで使うぶんには全然問題ないと思うんですけど、日本人といるときは自分のことをそうやって呼ぶのはやめたいいかもしれないかなと・・・すごく子どもっぽく聞こえちゃうといいますか・・・
あー知ってます(笑)。それは知ってるんですけど、それでもすごい気に入っちゃって。
あ、ご存知だったんですね(笑)。知ってる上でそう呼んでらっしゃるのでしたらたいへん失礼いたしました! 確かにスペイン語にはない表現ですし※、外国の方には新鮮かもしれないですね。
※スペイン語の場合、家族や友達など親しい間柄では短縮形を使うことが多い。例)アレハンドロ(Alejandro)→アレホ(Alejo)、フリアナ(Juliana)→フリ(Juli)、ヴェロニカ(Verónica)→ヴェロ(Vero)
そうですね。私が「ケリーちゃん」って呼ばれているのを聞いて、大学の先生が「あなたの名字はチャンなの?」って勘違いすることもあります(笑)。
そうか、ジャッキー・チャン※とかいるもんね。アジア系の名字と勘違いしちゃったのかな。
※日本では「ジャッキー・チェン」だが、こちらでの発音は「ジャッキー・チャン」。
日本に行ったときも、「ケリーちゃんさん」って呼ばれました(笑)。
「さかなクンさん」と同じだね。日本に行ったことは後々伺うとして、今のご職業はなんですか?
今はUPB大学※の学生です。先生になるためにスペイン語と英語の勉強をしています。
※前回のベアトリスさんのインタビューで出てきた大学。
なるほど、いつ入学されたんですか?
今年です。すごい最近なんですよ。
ちなみに、どうしてスペイン語と英語を勉強しようと思ったんですか?
昔、メデジンで知り合った日本人にスペイン語を教えてたことがあったんですけど、スペイン語を教える仕事もいいなと思って。
なるほど。そのためには母国語でもちゃんと勉強しないといけないですもんね。英語はとにかく必要だからって感じですか?
そうですね(笑)。正直英語はそんな好きじゃないんですけど、今の時代必須ですから。
英語とアニメーションを勉強して大学へ
大学に入学するまでは何をしてたんですか?
16歳で高校を卒業したんですけど※、卒業してから何をするかっていうの決めてなかったから、とりあえず英語の勉強をしようと思って、英語の専門学校に行きました。
※コロンビアでは一般的には17歳で高校を卒業するが、学校によっては16歳で卒業するところもあるようだ。
なるほど。ほかのクラスメイトは卒業してどういう道に進んだんですか?
私のクラスメイトの場合は、ほぼ全員アンティオキア大学の入学試験を受けてましたね※。
※アンティオキア大学はコロンビアでもっとも優れた大学の一つ。国立で学費も安いので競争率は高いようである。ちなみに政府発表の資料によると、17~21歳までの若者の大学進学率は52%。
すごい人気なんだねアンティオキア大学。その英語の専門学校は何年通ったんですか?
2年ですね。そのあとデジタルアニメーションの勉強をしました。結局好きになれれませんでしたが・・・。
デジタルアニメーションですか、それはどちらで勉強したんでしょう。
インスティトゥシオン ウニベルシタリア サラサル エレーラ(Institución Universitaria Salazar y Herrera)という大学で2年間勉強しました。そこはSENA※と提携していて、政府が支援するプログラムがあってそこに応募してって感じですね。
※日本でいう職業訓練校みたいなところ。
2年間ってことは日本でいうと短大の枠って感じか。そのプログラムは政府から学費を払ってくれるとかそういうものですか?
そうですね、私が勉強したコースだと、学費は無料で通学のためのバスとかお昼ごはんとかのために一ヶ月40万ペソ(約12700円)の補助金が出てました。でも、補助金が出るかどうかは、大学から遠いところに住んでたり親の収入が少なかったりっていう場合に出るもので、必ずっていうものではないですね。
そうなんですね、いい制度ですね。
でも、困ったことに、勉強したくない人がそういう支援プログラムの枠に入って、本当に勉強したい人が勉強できない場合もありますね・・・。
なんで勉強したくない人が入学するんですか?
たとえば、高校を卒業して何もしてない子どもを見かねた親が無理やり入学させることがあるんです、本人は全くやる気がないのに。
なるほど。そういう人は入学しても勉強しないですよね・・・。
しません。だから、授業も出ずに外でマリファナ※とか吸ってブラブラしてました。もちろん宿題とかもしないので結局卒業しない人が多いです。というかそもそも、政府支援の無料プログラムに参加する人はたくさんいますけど、卒業する人は少ないですね。
※コロンビアの法律では、マリファナは医療用・研究用に限って使用が認められており、20㎎までの所持が可能である。街中ではそういった用途で吸ってるとは思えない方々をよく見かけるが、警察も取締をしてるようには見えないのでそういうことなのだろう。ところで、外務省の「海外安全ホームページ」でも紹介されているように、コロンビアでは「エスコポラミナ(日本語ではスコポラミン)」という薬物を使った強盗がある。この薬物を摂取すると意識が朦朧として判断力が低下し他人のいいなりになってしまう。さらに、記憶力も鈍るため何をしていたかも覚えていない。おもな強盗の手口は、女性の強盗が男性観光客に近づいて仲良くなってバーなどに行き、気付かれないよう食べ物や飲み物にエスコポラミナを含ませて、薬物の効果が現れたらターゲットを金融機関に連れていってお金を引き出させるというものだ。被害者は意識がはっきりと戻った時に被害に気づくのである。こうした強盗に遭わないためにもコロンビアでマリファナを嗜むのはやめよう。
そうなんだ、卒業率ってどれくらいなんですか?
私がいたプログラムでいうと、卒業した人は入学者の半分以下ですね。
少ない! でも、こういう無償の教育プログラムは必要な人に行き渡ってるんですか?
そうですね、でも十分ではないと思います。たとえば、国内避難民※のなかには教育を受けたいのに住んでるところが遠すぎて通えないとか、そもそもそういうプログラムを知らないっていうケースもあります。
※コロンビア国内では、武装勢力と政府が対立している地域がまだたくさんあり、そこに住む人々は避難を強いられており、国内の他の街へと避難している。
じゃあまだまだ課題はあると。
はい、だから、わたしが勉強してる学部ではいろいろな理由で教育を受けられない人のところにいって出張授業をすることがあります。わたしのクラスメイトは、以前貧しい地域に行って文字が読めない人のために授業してました。
大学でもそういう素晴らしい活動があるんですね。今回はここまでにして、次回はケリーさんと日本語について伺いたいと思います!