夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

日本語を愛する学生 ケリー・オカンポ(2話)

この記事は約7分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ“丹波”ササジマが現地に暮らす市井の人々にインタビューしていく連載企画。今回も引き続き日本語が大好きなケリーちゃんさんにインタビュー。日本語との出会いやホームステイ先として日本人を受け入れたことなどについて伺いました。

ゆーすけたんばささじま
ユースケ“丹波”ササジマ

株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。

アニメで日本語を知り昭和歌謡にハマる

日本語を勉強してらっしゃるということですが? どういう形で日本語に出会ったのですか?

笹島

高校を卒業して英語を勉強してたときに、友人からあるアニメを勧められてたんですよ。そのアニメはたしか『デスノート』だったと思います。すごく面白くてすぐに引き込まれました。

ケリー

日本語を学んでる海外の人の中ではアニメが日本語との出会いっていうパターンが多いですよね。

笹島

そうですね。そのアニメを見てたら、日本語の響きが気に入って日本語を勉強をはじました。それから、日本の伝統的な文化とか音楽が知りたくなっていろいろ調べてたら昭和歌謡とか演歌に出会って、それがすごい好きになりました。今でもカラオケで歌いますよ。

ケリー

※こちらの「カラオケ」は、バーや自宅にてYouTubeで目当ての曲のカラオケバージョンを流して歌うことをさす。日本のように個室で仕切られたカラオケをするため専用の施設はない。

へぇー、どんな曲歌うんですか?

笹島

美空ひばりとか石川さゆり、坂本冬美とかですね。いまは山口百恵がすごい好きです!

ケリー

ビッグネームばっかりだ! やっぱりいい歌手は言語の壁を超えますね。ちなみに、日本語はどうやって勉強してるんですか?

笹島

はじめはEAFIT大学の日本語クラスで勉強しました。その日本語クラスには日本人のバックパッカーとかが見学に来ることがあるんですけど、そのときに日本語で日本人と話すクラスメイトを見て自分も話せるようになりたいって思って毎日4時間くらい勉強するようになりました。

ケリー

それがモチベーションになったと。もう日本語だいぶ話せるようですけど、どれくらい日本語勉強してますか?

笹島

3年くらいですかね。

ケリー

まだ3年くらいなんですね。ちなみに私は関西出身で関西弁を話すんですけど、方言とかも勉強してますか?

笹島

はい、大阪に行ったこともあって、関西弁が好きです! 関西弁の本も買いました。

ケリー
外国人向けの大阪弁の教材
外国人向けの大阪弁の教材。標準的な日本語を上手に話す外国人でも方言は理解できないというケースは珍しくない。

大阪弁の教材ですか、いいですね。ちなみに私の関西弁は大阪弁とは少し違って京都弁っぽい感じなんですよ。

笹島

「おこしやす」的な・・・?

ケリー

おこしやすは京都の一般人でもあんまり使わないですよ(笑)。まあ系統としてはそっち系です。大阪弁よりも少しマイルドに聞こえると思います。パイサ弁も関西弁みたいに地域によって違いますよね?

笹島

そうですね。たとえば、メデジンとかの都市部にいる人と地方の村の人で使う言葉とかはちがいます。

ケリー

村で思い出しましたけど、こっちの村とか町ってヤンキーがいないですよね。今はもう少なくなりましたけど日本では地方にいけばヤンキーがいるんですが、メデジンみたいな都市部でも地方の村とか町とかでもあんまり見たことないですけど。

笹島

いやいや、いっぱいいますよ!

ケリー

いるんですか・・・? そのヤンキーってどんな人たちですか?

笹島

いつも服の着こなしはだらしなくて、言葉遣いが悪くて、タバコとかマリファナとか吸ってて、学校で気に入った女の子がいたら「俺のバイクでどっか行かない?」とか言ってるような人ですかね・・・。あと、ヤンキーのバイクはAKTっていうメーカーのが定番です。ノーヘルもマストですね(笑)。

ケリー

※AKT(アカテ)とは、バイク市場を支配していた日本やヨーロッパのメーカーに対抗するために設立されたコロンビアのバイクメーカーである。おもに中国本土や台湾からパーツを輸入して組み立てたものを販売している。価格はお手頃でヤンキー以外の一般人にも人気がある。

マリファナ以外やってることは日本のヤンキーと一緒だ(笑)。

笹島
AKTのバイク
AKTのバイク。所有者はヤンキーではない。車種はNKD125というのものと思われ、新車価格は約95000円。写真では確認できないが、マフラーや燃料タンクなどの各パーツとヘルメットにはナンバープレートの数字が刻まれている。これは、盗難被害・盗難品の売買を減らすための習慣で、警察も推奨している。バイクに限らず、乗用車の車体やパーツに刻む人もいる。

日本を知るために日本人を受け入れることも

話を日本語に戻しますけど、今も大学の日本語クラスで勉強してるんですか?

笹島

いや、もうその日本語クラスは修了して、今は独学です。本で勉強したり独りで日本語を話したりとかしてますね。実家でホームステイしたい日本人を受け入れることもあるんですけど、そういうときにいろいろ教えてもらいますね。

ケリー

ホームステイの受け入れをしてるんですね。

笹島

はい、日本語だけじゃなくて日本の文化もいろいろ知りたいので。今までで7人くらい受け入れましたね。だから、7人の日本人のお姉さんがいます!

ケリー

いいですねー。ホームステイした人はみんな女性なんですか? まぁ、けどそれはそうか・・・。

笹島

そうですね。お父さんが厳しいので、受け入れてもいいけど女性だけっていう条件だったので。

ケリー

僕も泊まれないですか?

笹島

佑介さんには住む場所があるし奥さんがいるしうちに泊まる意味が分からないし、ダメです(笑)。

ケリー

でも、ご自宅お邪魔した時、ケリーちゃんのお父さんはいつでもおいでって言ってくれたけど?

笹島

泊まっていいなんて一言も言ってません!

ケリー

冗談です冗談です(笑)。ところで、日本人を受け入れていろいろ学べた?

笹島

もちろん! たくさん学べました。日本語を教えてもらう代わりに、私はスペイン語を教えたりメデジンの観光案内をしたりしました。

ケリー

そうだよね、なんかいろいろ詳しいもんね。 どういうところ連れていったの?

笹島

いろんなところに行きました。何人もの日本人を案内してるんでもうツアーガイドができるくらい(笑)。博物館とか、メデジンじゃないですけどグアタペとか。

ケリー

メデジンはいろいろ観光スポットあるけど、外国人だけで行かないほうがいいところもあるからケリーさんガイドしてくれたら助かるでしょうね。スペイン語があまり喋れないならなおさら。ちなみにホームステイしてた日本人は学生?

笹島

学生やバックパッカーですね。日本語コースで授業の見学に来てた人や日本語クラブで知り合った人ですね。

ケリー

日本語クラブっていうのは?

笹島

大学の日本語教師の方が主催してる日本文化を学ぶサークルなんですけど、そこに日本人の旅行者が見学に来ることがあるので、それでって感じですね。

ケリー

なるほど。そうやって出会った日本人の方と、それぞれの文化を教えあうっていうのはケリーちゃんにとってはすごい楽しいと思うけど、ご両親にとってはどうなの?

笹島

両親もすごくいい経験って言って楽しんでくれてる。自分の子どものように愛情を持って接してくれてるし、お母さんにいたっては美空ひばりの『川の流れのように』を歌えるようになるくらい日本文化のことも気に入ったみたい。

ケリー

そういえばお母さん歌ってたね。しかも結構上手だったよ。

笹島

日本に帰るってなったときに帰りたくなくて泣いちゃう人もいたんですけど、愛情をもって接した子が、泣いちゃうほど自分たちをコロンビアの家族のように慕ってくれるのも嬉しいって言ってましたね。あと、私が日本語を通して明るく社交的になっていくのを見るのも幸せらしいです。

ケリー

ケリーちゃんは元々明るくて社交的じゃなかったの?

笹島

日本文化に興味あったり日本語勉強したりしてる人って一般的に引っ込み思案で内向的なんですよ。私もその例に漏れなかったんですけど、日本語を通して性格がより明るくなったと思う。

ケリー

日本語がケリーちゃんを変えたんだね。なんかその部分は大事そうだからまた後半聞こうかな。

笹島
こちらをみつめるケリーさん

日本語を愛する学生 ケリー・オカンポ(3話)

CREDIT

クレジット

撮影・聞き手・執筆
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。