コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ”丹波”ササジマが現地に暮らす無名の人々にインタビューしていく連載企画。前回に引き続き、今回もメデジンのある大学で知り合ったフリアナさんのインタビューです。フリアナさんのお金にまつわるエトセトラを赤裸々に語っていただきました。
夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―
ユースケは何しにコロンビアに?
自ら働き、自ら学ぶ!
右手に持っているのは何?
あーごめんごめん(笑) これはジュースの袋※のゴミだよ。
※こちらでは袋で包装された水やジュースが売っており、角の部分をかじって穴を開けて飲む。持ち運ぶには不便だが、ペットボトルを製造するコストや原料をカットできるしペットボトルのゴミも出ないので、ペットボトルと比べると環境にやさしいのかもしれない。
あージュースか。ごめんなんか気になっちゃって。ちなみに、今の仕事はいつから始めたの?
この7月からだよ。すごく最近。
じゃあ我々が出会った頃に始めたの!? すごい慣れた感じだったから新人だなんて気が付かなかったよ(笑) どうしてこの仕事を選んだの?
そりゃあ募集してたからだよ(笑) とにかく働かないといけなかったし。でも、なんでだろうね。私は人をもてなすのが好きなの。もしかしたら、だから留学生のサポートとかをする今の仕事に導かれたのかも。
フリアナはめっちゃ優しいもんね。じゃあ今の仕事は楽しい?
そうだね。楽しいよ。大学の授業もあるからいつも疲れてるけど。
え? 大学も通ってるの!?
言ってなかったっけ? 授業は月曜と金曜の18時15分から21時15分まで。経営とマーケティングを勉強してるよ。
言ってねーよ! じゃあ自分で学費を払って大学に通ってるってこと?
そうだよ。
とにかく働かないといけなかったっていうのはそういうことか。立派だね。
立派っていうか親が学費払えないから、大学で勉強したかったら自分で働いて学費を稼ぐしか方法がないもん。
それを立派だと言ってるんだよ! 大学に行く前は何をしてたの?
まず、高校※を出てから働き始めたの。で、その仕事を辞めてSENA(セナ)※で農業の勉強をしたよ。でも、その後は結局農業関係の仕事はしなかったの。あまり実入りが良さそうじゃなかったからね・・・。
※コロンビアの教育制度では、5歳から6歳まで就学前教育が行われ、6歳から11歳までの5年間が小学校、11歳から15歳までの4年間が中学校、15歳から17歳までの2年間が高校にあたる。義務教育は5歳から15歳までの10年間。コロンビア政府は2030年までにメキシコやチリのように義務教育期間を12年に延長することを計画している。ちなみに、大学は学部にもよるが大体5年で卒業である。
※SENAは「Servicio Nacional de Aprendizaje(セルビシオ ナシオナル デ アプレンディサヘ)」の略。職業訓練や高等教育を無料で提供する公共教育機関であり、ざっくりいうと日本の職業訓練校のようなもの。コロンビア国民や合法的に滞在している外国人も調理や看護、簿記、会計などさまざまな技術や専門知識を無料で学ぶことができる。
なるほど。
それで今の大学で経営とマーケティングを学ぼうって決めた。ただ、今の大学で勉強を始めたのは2014年なんだけど、学費が払えなくなって一度勉強を中断して、また最近になって再開したの。
リアルな金銭事情
中断した理由って学費?
そうそう、私の大学では2か月ごとに学費を納めないといけないんだけど、その学費っていうのが160万ペソ(約5万円)だったの。で、当時の私の給料が最低賃金※かそれよりも少し多いぐらいだったから払うのが厳しくなってやめざるをえなくなったんだよね。
※低賃金はもちろん年によって変動するが、2019年では82万ペソ(約26,000円)。
でも、その後にサバネタ市から奨学金をもらえるようになって、学費の10%だけ払えばいいようになったの。だから2か月で40万ペソ(約12,500円)だけ。だいぶん違うよね。それでまた勉強を始められるようになった。
その奨学金て誰でももらえるの?
いや、もちろん誰でもってわけじゃなくて、加点式で支給されるかどうか決まるの。たとえば、サバネタ出身だったら1ポイント、サバネタの学校を卒業したら1ポイントみたいな感じで。Sisbén(シスベン)※のポイントとか ICFES(イックフェス)※の結果も関係してくるね。私はサバネタの学校卒業してるし、私のCédula(セドゥラ)※もサバネタで発行されたものだから受かったの。
※コロンビアには貧困に苦しんでいる人々が多くいるが、その貧困の度合いはさまざまである。Sisbén(シスベン)は、そうしたさまざまな度合いの貧困の中でくらす人々において、誰にどれほどの援助をするかを簡易に判別するためのシステムである。システムに登録すると、担当者が登録者の家を訪問して、ライフラインの有無などで貧困の度合いをチェックしてポイントを決める。ポイントが少ない人ほどより深刻な貧困の中で暮らしており、より手厚い助成を受けられる。このシステムは、そうした社会的弱者のためのものというよりも誰がどれだけの社会的援助を必要としているか政府が把握するためのものなので、裕福な暮らしをしている人でも登録することはできる。ただそうした人が援助を受けることはない。
※ICFES(イックフェス)は、高校を卒業するため、大学に進学するために全員が受けないといけない共通試験である。
※Cédula(セドゥラ)は、身分証明書のことである。日本では身分証と言えば運転免許証が定番だが、コロンビアで身分を証明する全てのシーンで求められるのがこのCédulaである。この身分証には国民一人一人に割り当てられた個人番号、日本でいうマイナンバーが記載されており、国や企業はこのマイナンバーで個人・顧客情報を管理している。コロンビア国民に発行されるものと外国人に発行されるものがあり、私が持っているのはもちろん後者のほう。
めっちゃ注(※)が多いけど大丈夫?(笑)
気にしないで、どれも貴重な豆知識だから(笑) 大学はいつ卒業するの?
あと3年残ってるね。だから卒業するときは32歳かな。
もうちょっとだね。失礼は承知なんだけど、給料っていくらくらいなのか聞いてもいい?
そうね、大体月収200万ペソ(約62,500円)くらい。自分の仕事内容からすると多いほうかな。仕事にもよるけど大卒の人でも月収150万ペソ(約47,000円)※とかっていう人が多いから、それを考えるともらってるほうだよね。まあ、もらえるものならもっと欲しいけど(笑)
いっぱいあって困るもんじゃないからね(笑)
※これは今の若い世代での数字である。日本のように、コロンビアでも経済的に困窮している若者が多い。日本と比べると物価は安いが、月収150万ペソではメデジンでも一人暮らしはできない。コロンビアの「Semana」という政治や時事問題を扱う雑誌によると、35歳までの若者で独り暮らしをして月収300万ペソ(約93,700円)を稼いでいる人は裕福らしい。一方、裕福のラインは、世帯月収が1,000万ペソ(約32万円)以上という他のメディアのアンケート結果もある。裕福の境界線は不明だが、一つ明らかなことは、コロンビアは世界の中でもとくに格差が激しい国の一つであり、所得格差は日本の比ではない。こうした経済状況の実態については今後インタビューを通して少しずつ明らかにしていきたい。