コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ”丹波”ササジマが現地に暮らす無名の人々にインタビューしていく連載企画。今回は、メデジンのある大学で知り合ったフリアナさんにインタビュー。年下ながら私なんかよりもはるかにしっかりした姉御肌な彼女が、仕事や日々の暮らし、日本人のイメージなど色々なことを語ってくれました。
夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―
ユースケは何しにコロンビアに?
言語センターで学生をサポート
今回はインタビュー受けてくれてありがとう。じゃあ始めますか。
いーえ。
そういえば、フリアナのフルネーム知らないや。なんていうの?
名前がフリアナ 名字がアコスタとヒル だよ。
あれ、じゃあ名前は1つだけ?※
※ラテンアメリカでは姓名はそれぞれ2つ持つのが一般的だが、1つの名前しか持っていない人もいる。
戸籍上ではフリアナだけだけど、フリアナ・マリアっていう名前で洗礼※されたから、一般社会ではフリアナ、神様の前ではフリアナ・マリアだね。
※コロンビア国民の多くはカトリック教徒。洗礼をするタイミングはとくに決まっていないが、基本的に小さいうちに洗礼を受ける。
それ珍しくない!? 一般的には戸籍の名前と洗礼の名前って同じだよね?
そうね、でも、生まれてから6か月後に洗礼したっていうのもあってこうなったのよね。
じゃあ別にマリアっていう名前が気に入らないから使わないっていうわけじゃないんだね。
ちがうよ! マリアっていう名前気に入ってるし。
で、何歳だっけ? あと、サバネタ※出身だよね。
※サバネタはメデジンの南のほうにある市。コロンビアで一番面積が狭い自治体で、広さは15 km²。日本の自治体と比べると大阪の摂津市の面積と同じぐらい。人口は我らが丹波篠山市より3000人ほど多い41490人
29歳だよ。生まれたのはメデジンだけど、育ったのは基本的にサバネタだね。
生まれも育ちもサバネタかと思ってた。お仕事は大学の言語センターの受付と学生サポートだよね?
そうね、EAFIT大学っていうところで働いている。
EAFIT大学は、この辺では有名な私立大学だよね。日本がらみでいうと、東京外国語大学が提携してて、交換留学で来てる日本人がいるよね。
アンティオキアで1、2を争う有名校だね。言語センターで日本人学生はちょくちょく見かけるよ。
具体的にどんな仕事内容なの?
入学申込みの受付とか学費の支払いとか、要は学生が外国語授業を受けるために必要な手続き全般を担当してる。あとは、スペイン語を学ぶ留学生のサポートだね。なかにはスペイン語を学びたいけど英語しか話せない人とかもいるから、そういう段階の人は最初は英語でサポートしないといけないから。
なるほど。楽しそうだね! 勤務時間はどうなってるの?
月曜から金曜までは7時半から17時、土曜は7時半から14時まで。
月曜から土曜まで!? 結構忙しいね。
休日はクラブでダンスよりもホームでファミリーと
日曜日とか時間があるときは何をして過ごしてるの?
最近は忙殺されててあまり時間ないけど、家族とミサ※にいったり、水泳好きだから泳いだり。あとは田舎のほうに行って修道院を訪れたりゆっくり過ごしたりかな。あとは、家で家族にご飯ふるまったり家族のみんなが過ごしやすいように家で綺麗にしたりするのが好き。
※敬虔な人は日曜日や特定の日にミサに行く。ミサでは、祈りを捧げたり司祭の説教を聞いたり、「Hostia(オスティア)」というイエス・キリストの体の象徴である薄いパンが配られたりする。
そうなんだ。クラブいってダンスしたりしないの?
基本的にラテン系の人はみんな音楽とダンスが好きだからそういうイメージはあるよね(笑)。私も踊るのは好きだけど、静かに過ごすほうが好きかな。
サバネタでブラブラする時間があったら何をするの?
サバネタ公園に行くね。アイスとかビールとか「Buñuelo(ブニュエロ)」※とかいろいろ売ってるから、食べたり飲んだりしてゆっくり過ごすかな。手工芸品を売ってるお店とかもあるからそういうのを見て楽しんだりね。
※スペイン語圏で食される小麦粉を練って丸めたものを揚げたお菓子。国によって形が少し異なり、コロンビアのものはより丸っこい。サーターアンダギーのような見た目でサーターアンダギーに似た食感だが、サーターアンダギーほど甘くなく、むしろ少ししょっぱい。でもうまい。
へぇー、サバネタ公園か、行ったことないな。
いい所だから一度行ってみな! 公園の近くにサンタアナ教会があって、毎週火曜日に「María Auxiliadora(マリア アウキスィリアドラ)」※のミサがあるんだけど、そのときは人出がすごいよ。
※聖母マリアのこと。聖母マリアはカトリックの中で熱烈に崇拝されていて、国によって呼称がたくさんある。「la Virgen María(ラ ヴィルヘン マリア)」のほかにも、メキシコでは「Nuestra Señora de Guadalupe(ヌエストラ セニョーラ グアダルーペ)」、アルゼンチンでは「la Virgen del Luján」、コロンビアでは「Nuestra Señora de Chiquinquirá」など。コロンビアでの呼称を見てわかる通り、国の中でも地域によって聖母マリアの呼び名が違うのだ。ラテンアメリカを周遊しようとしているみんな、惑わされるな!「Virgen」「Nuestra Señora」「María」がついているものはだいたい聖母マリアのことだ! キューバに行く人は要注意、彼の地では「Caridad del Cobre(カリダ デル コブレ)」という変則パターンで呼ばれることがある。
昔は修道女になりたかった?
パイサの人はほんと聖母マリアへの信仰が強いよね※。 コロンビアって基本的に信仰心篤い人多いイメージだけど、やっぱりサバネタにも多い?
※上記の注の通り、聖母マリアはカトリックの中では広く崇拝されているので、パイサの人だけがというわけではない。しかし、中米や南米のいくつかの都市を訪れた経験からいうと、メデジンの街には比較的多くのマリア像が置かれている印象がある。また、そうした傾向が関係あるのかは不明だが、パイサの人々がよく使う言葉に「Ave María(アヴェ マリア)」がある。紙幅の関係で詳しく説明できないが、これは驚いたときなどに使われる間投詞で、パイサ弁を代表するフレーズだ。日本でいうと関西弁の「なんでやねん」に匹敵する知名度を誇り、コロンビア国内でパイサ以外の人が「パイサ弁真似してみて」と言われたときに高確率で真似をするフレーズがこれ。
もちろん。日本の主要な宗教って神道とか仏教なんでしょ? 信心深い人多いの?
日本人に「信仰している宗教があるか」って聞いたら、「無い」っていう人が多いと思う。でも、大半の日本人は神社とかお寺に定期的にお参りに行ってるんだよね。だから、個人的にはそういう意味で日本も信心深い人は少なくないと思ってる。
「自分は無宗教」っていう人はそもそも教会とかそういう場所に行かないからね。
楽しいイベントとしてお参りに行く人も多いけど、本気でも本気じゃなくても最後は神的なものに祈って帰るからね。無宗教の人はそもそも祈らない。まぁ、日本とカトリック圏では宗教観の違いもあるしなんともいえないけど…。
あなたはどうなの?
僕も日本にいたころは定期的にお参りしてたよ。週末は散歩がてら近所の神社に行ってた。だからわりと信心深いかもね。フリアナほどではないけど。修道女になりたかったんだよね?
そう、今もなりたいって思ってるけどね。私は、私たちがいまここにいるのはいつか天国で幸せになるためだっていう信仰をわりと強く持っているの。だから、その信仰のために自分の人生を祈りに捧げるっていう生き方をしたいけど、今はそうした人生を送る前にいろいろやらないといけないことがいっぱいあるから、まずはそれからだね。
そうなんだ、そういえば妻も修道女になりたかったって言ってた。やっぱり信心深い人が多いね。じゃあ、次は今の仕事につくまでに何をしてたか聞かせてね!
どうぞどうぞ。なーんでも聞いて。