絵本の世界ぶらり旅、第三回目です!
絵本を通して、世界の文化や思想をゆるく紹介しましょうというこちらのコーナー。
これまでのイギリス、タイに引き続き、本日も素敵な旅へご案内致します。
どうぞよろしくお願い致します。
絵本の世界ぶらり旅
『スミレひめのにわづくり』の世界! イギリスのガーデニング文化とは?
本日の旅先絵本は、こちらです!
ジョン・キラカさんは、タンザニアの絵本作家さんです。いろいろな動物たちが何やら忙しそうにしていて、表紙を見ただけでも何だかわくわくしてきますよね! カラフルな模様や色使いも目新しく、動物たちの活気ある雰囲気が伝わってきます。
こちらの絵本、いったいどんなお話なのかと言いますと…
ある所に、チンパンジーのソクベがいました。ソクベは漁師で、その日は運がいいことに大漁です。釣れた魚は市場へ持っていきます。村のみんなでトラックに乗り、市場へ向かうのですが、途中で前輪タイヤがパンク! 仲間のライオンが骨折! などなど立て続けにハプニングが…!
皆でライオンを運ぶタンカを作ったり、タイヤを直したりするのですが、イヌだけはそっちのけで山積みの魚が気になる様子…。
その後、いざ市場へ行こう!という時になって、今度は後輪のタイヤがパンク…しかもタイヤにはたくさんの包丁傷があり、その上魚の入ったかごとサルがいなくなっていました!
なんと、皆が作業をしているすきにタイヤに傷をつけ、魚を持って逃げたんですね…!
後日、悪さをしたサルに対し、村のみんなが裁判を起こして…???
というお話です!!
様々なハプニングが次から次へと起こりますが、みんなで助け合って問題を解決していく様子に心温まる絵本です。しかも、裁判の判決がこれまた地球にとっても優しいことで…!
時間がゆっくり流れていて、タンザニアの良いところがたくさんつまった作品ですね。
ところで、タンザニアってどこ…? 名前は聞いたことあるけど、詳しくはよくわからない…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本日は、タンザニアとはどんな国?というテーマで、ご紹介していきたいと思います!
タンザニアは、アフリカ大陸に位置する国で、正式名称はタンザニア連合共和国といいます。ケニア、コンゴ民主共和国、モザンビークなどに囲まれていて、国の東側はインド洋に面しています。
国土面積は日本の2.5倍で、国語はスワヒリ語、公用語は英語です。タンザニアには100を超える部族が存在していますが、アフリカ大陸では珍しく民族紛争や内戦などはありません。
これは、スワヒリ語という共通の言語があること、そしてタンザニアの初代大統領ニエレレ政権下の社会主義政策に基づく助け合いの精神が今も人々の間に強く浸透していることが理由としてあげられます。
タンザニアの人々はお互いを尊重し、助け合って暮らしているんですね。
また、絵本の雰囲気にもあるように、自然が豊かで、様々な動物や生き物たちが暮らしています。
例えば、世界遺産にも選ばれたヌーの大移動で有名なセレンゲティ国立公園やフラミンゴの群れに圧倒されるンゴロンゴロ保全地域などがあります。アフリカの地名は、日本ではあまり耳にしないような不思議な言葉の組み合わせがとても面白いですよね。
他にもビクトリア湖やキリマンジャロ山などもあり、キリマンジャロはコーヒーの産地としても有名です。
また、こうした自然豊かな土地柄上、農業や漁業が盛んで、労働人口の約8割がこれらの仕事についています。それぞれの収穫物を市場で販売し、そのお金で生計を立てている人が多いそうです。絵本の中でも、ソクドは釣った魚を市場へ持っていこうとしていますよね。
市場には果物や野菜、お肉などの食料品から、生活に必要な物まで様々なものが売られています。
では、市場には実際にどのようなものがあるのか、見ていきましょう!
まず初めに、バナナです! バナナは、日本では果物の一種というイメージがありますよね。タンザニアでは、バナナは主食です!
日本で食べるような黄色いバナナもありますが、まだ熟していない緑色のバナナも調理用として売られていて、むしろこちらの方が主流です。そのまま食べると苦くて渋みがありますが、火を通すとほくほくのジャガイモのような食感になるそうです。
まるまる一本を素揚げにしたものや、牛肉、トマト、ココナッツミルク等と一緒に煮込むバナナシチュー、油であげたバナナチップスなどなど色々な食べ方があります。主食のバナナも美味しそうですよね…!!
次に、バオバブの実です。バオバブの木は、「星の王子さま」にも出てくる有名な木ですよね。砂漠に立っているイメージがありますが、実はバオバブの木には大きな実がなっていて、食べられるそうなんです。
バオバブの実は、ラグビーボールを小さくしたような形で、表面はとっても固いです。殻を割ると中には小さな白い種が入っていて、これについている果肉を食べるそうです。
ビタミンやポリフェノールなどの栄養価が高く、食用だけでなく薬や石鹸などにも使われます。最近はスーパーフードとしてヨーロッパでも注目されています。
ラムネのようにとける食感が特徴で、この実を食紅やトウガラシの粉などを使って着色し、砂糖をまぶしたウブユというお菓子も現地ではお子様に人気のスイーツだそうです。
また、市場にいくと必ずと言っていいほど目にするのが、カンガという布です。
これはタンザニアをはじめとする東アフリカの女性がよく身に付けている布で、サイズは160×110センチとやや大きめです。頭や腰に巻いたり、手提げ袋にしたり、赤ちゃんの抱っこ紐にしたり、様々な使い方があります。
絵本の中でも、動物たちはみなカンガを身に付けていますよね。
このカンガという名前はスワヒリ語で「ホロホロ鳥」を意味しています。ホロホロ鳥、可愛い名前です(笑)。
キジ科の一種で、黒い羽毛に白い斑点模様があるのが特徴です。このホロホロ鳥の羽の模様と最初に普及したカンガのデザインが似ていたことから、この名前が付きました。
カンガは、縁取りの柄、中央部分の柄、そしてスワヒリ語のメッセージという三つの構成要素からデザインされています。柄のデザインは草花や生き物など、自然のものを描いたデザインが多く、現地でよく育てられているカシューナッツの柄も多いそうです。
また、スワヒリ語のメッセージも欠かせない要素でこれは「カンガセイイング」と言われています。スワヒリ語の諺や愛のメッセージなどが書かれていて、現地の人がカンガを選ぶときは、デザインよりもこのメッセージを重要視するそうです。
同じデザイン、同じ言葉のカンガには滅多に出会えないため、一期一会の出会いなんですね。
現地の女性はこのカンガを一枚、または二枚で組み合わせて、冠婚葬祭や民族衣装としても使用しています。カンガは生活のあらゆるところで使用される万能布なんですね…!
他にも、タンザニアの特産品として、ティンガティンガアートというポップアートがあります。
これは、エドワード・サイディ・ティンガティンガという人が描き始めた、タンザニア発祥のアートです。ティンガティンガ氏は当時、絵を描くための道具を買うお金がなかったため、絵の具とキャンバスの代わりに建築現場にあるエナメルペンキと建材の板を使って絵を描き始めました。
タンザニアの動物や自然などをシンプルかつ大胆に描き、タンザニア文化やその精神性も重んじていた彼の新しい画風は次第に人気を博し、やがてこのティンガティンガアートは国を代表する文化となりました。
現在はアフリカのダルエスサラームというところにティンガティンガ工房があり、彼の死後も多くの人がその画風を受け継いでいます。そして、この「チンパンジーとさかなどろぼう」を描いたジョン・キラカさんも、ティンガティンガアートを学んだ一人です。
とてもカラフルで、動物や自然の生き物の描写は勿論、タンザニア人の文化や生活が丁寧に描かれているところもティンガティンガアートならではですよね。
一冊の絵本の中に、こんなにもたくさんのタンザニア文化が隠れていたんですね…!
さて、今回の旅もそろそろ終わりが近づいてきました。前回のタイに引き続き、今回はタンザニア文化についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
ティンガティンガアートはタンザニアにとって、新たな国力の一つとしても注目されています。素敵な絵本を買うことが国際協力につながるというのも、この絵本の魅力の一つではないでしょうか。
この機会に、お家で絵本を読んだり、タンザニアに倣って新しいバナナ料理を作ってみたりするのもいいかもしれませんね!
では、本日の絵本の世界ぶらり旅はここまでです。最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!
また一緒に、素敵な旅へ出かけましょう~!
・宇野みどり「ママとミシンとスワヒリ語:私のタンザニア物語」第三文明社 2019年
・JETRO 第 1 章 タンザニアの農漁業分野における開発ニーズとBOPビジネスの可能性 2010年