絵本の世界ぶらり旅

『スミレひめのにわづくり』の世界! イギリスのガーデニング文化とは?

この記事は約6分で読めます by 蓑輪綾香

初めまして! みのわです。この度、新シリーズ「絵本の世界ぶらり旅」を担当させていただくことになりました。世界の絵本を通してその国独自の文化や考え方を知ろう! というこのコーナー。

普段何気なくめくっているその1ページには、私たちの知らない不思議な文化や考え方が隠されているかもしれません……!! 一冊の絵本の世界をぶらぶらしながら、未知なる出会いを求める旅に出ましょうー!

まだまだひよっこ編集アシスタントですが、皆さんにとって素敵な旅になりますよう、頑張りますよっっ

それでは絵本の世界ぶらり旅へ、いざ、出発進行~(ゆるい笑)

本日の旅先絵本は、こちらです!

スミレひめのにわづくり表紙
イギリス人作家ハーウィン・オラム作『スミレひめのにわづくり』
絵:スーザン・バーレイ 訳:小川仁央 評論社

この絵柄、なんとなく見覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そうです! 涙なしには読めない名作『わすれられないおくりもの』の作者でイギリス人のスーザン・バーレイさんが絵を描かれています。可愛らしい動物達と、彼らをとりまく色彩豊かな優しい自然の絵がほんとに素敵ですよね。

スーザン・バーレイさんの絵本の中でも、今回の絵本はちょっとマイナー? な作品かもしれません。でも、とっても素敵な作品なので、記念すべき第一回旅先絵本に選びました。

こちらの絵本、いったいどんなお話なのかと言いますと……

お庭で遊ぶのに飽きてしまった主人公のスミレひめ。庭師リヨンさんからの一言をきっかけに、理想のお庭を設計します。スケッチブックに描かれた夢のようなお庭を見て、お城のみんなはちょっと心配そうなご様子……(笑)

ひめの初めてのにわづくりは、いったいどうなる?

というお話です! なんとかわいらしい( *´艸`)

スミレひめの理想のお庭とは、果たしてどんなお庭なんでしょうかね~。ひめの遊び心あふれる素敵なお庭に、わたしもこんなお庭がほしい……!! と、読みながらどんどん夢がふくらむお話です。

こちらの絵本は、タイトルにもあるように「庭づくり」が大きなテーマとなっています。イギリスには古くから庭づくりを楽しむ習慣があり、ガーデニング大国とも言われているんですよね。……ということで今回は! そんなイギリスのガーデニング文化について見ていきたいと思います!!(いよいよ本題!)

まず初めに、イギリスのガーデニング文化はどのようにして生まれ、社会に広まっていったのでしょうか?

その歴史は、なんと、18世紀まで遡ります! 18世紀っていつですかね?(歴史に疎い)

今でこそガーデニングが盛んでいろいろな種類の植生があるイギリスですが、当時は非常に限られた植物しかなかったそうです。海外で見聞きする珍しい植物に、人々は憧れを抱いていました。また、そうした珍しい植物はみんなが欲しがるものですから、それらの植物に手を出すということは、富を得ることと繋がるんですね。

現地に人を送り込んで栽培→収穫した物をイギリスに持ってきて販売というような流れで、イギリスは国を挙げて各国の植物を支配していったわけです。やりますね、イギリス……。

一方イギリス国内では、お金に余裕のある貴族やジェントルマンといった上流階級の人たちが、こぞって海外からの植物を購入し、鑑賞して楽しむようになります。彼らは世界中から来た珍しい植物を手に入れては、自分たちで切り開いた広大な敷地に植えて庭造りを楽しんでいたのです。

なんと、イギリスのガーデニング文化はこうして始まったんですね……! より力のある人が、より多種多様で素敵な庭を作ることができる! ということで、いつしかこのガーデニング文化は上流階級の人々の権力の象徴ともなっていきました。

その後19世紀に入ると、産業革命の影響で、都市の急速な工業化が始まります。

ゴゴゴゴゴゴゴヴォオオオオオオズズズズズーーーーーーーン

みたいな音が、毎日街に響き渡っていたのでしょう。(←たぶん違う)

工場が立ち並び、様々な技術が進歩していく一方で、都市の空気は汚れ、街には薄暗い雰囲気が漂っていました……。そんな中、人々は次第に「古き良き田舎の風景」を懐かしく思うようになります。工場でいっぱいになってしまった街を前に、昔ながらの自然が恋しくなったのです。

その結果、都市にいながらも自然を楽しめるように、ということで、労働者階級の人々の間でガーデニングが注目されるようになりました!!! これが今のガーデニング文化の元になっているんですね~。

さあ、次はそんなイギリスの庭園とはいったいどんなお庭だったのか、見ていきましょう。

イギリス式庭園というと、対照的な物として、フランス式庭園がよく取り上げられます。フランス式庭園というのは、左右対称、幾何学模様、刺繍花壇といった装飾を特徴とする、一言でいえば非常に人工的なお庭です。お城のお庭のような感じですね。

一方イギリス式庭園とは、風景式庭園とも呼ばれ、ありのままの自然を活かしたお庭となっています。フランス式庭園とは異なり、左右非対称、不規則、蛇行する小路や小川などなど、曲線状のデザインが特徴です。

フランス式庭園(PIXTA)
イギリス式庭園(PIXTA)

この風景式庭園はまるで絵のようで、当時の人々は風景画で見た世界を、現実に表現しようとしたのだとも言われています。素敵です……!

また、「ありのままの自然を活かす」といっても、元々あるものをちょっとアレンジして終わり、というわけではなく、庭園のすみずみまで趣向を凝らして作っています。読書をするためのベンチがあったり、絵本の中では、ブランコなんかがあったりもします。バラやマリーゴールドといった比較的小さくてカラフルなお花をたくさん植えて、お庭全体の色味を非常に大事にしていました。

そうして丹精込めて作ったお庭は、自分だけで楽しんで終わり、というのはちょっと勿体ないですよねえ……。

そこで、自分のお庭を周りの人達に披露するのもイギリスガーデニング文化の特徴の一つとなりました。周りの人というのは身近な人に限らず、中にはお金を収集して、一般の方に公開している場合もあるそうです。しかも、そうして得たお金はチャリティとして募金!! なんと……チャリティ文化が根付いているイギリスらしいお話です。

ちなみにイギリス人にとっては、ガーデニングにこだわるのは当たり前のお話。もし、庭造りを長いことさぼって草がぼうぼうになっている……なんてお庭があると、近隣の方から怒られるなんてことも!? あるそうです。

イギリス人のガーデニングに対する熱い熱い思いが伝わってきますよね。ガーデニング文化は、地域の人々のコミュニケーションの礎ともなっているのですね。

ぶらぶらと歩いて参りましたが、第一回絵本の世界ぶらり旅、いかがだったでしょうか。そろそろ旅の終わりが見えてきましたが、イギリスのガーデニング文化について少しでも知っていただけたら、幸いです。

ちなみにこの絵本は、非常に細かく植物の絵が描いてあるので、植物図鑑を片手に、「これなんのお花かな?」と、親子でクイズを出し合いながら読んでいただくこともできます。素敵なお話を読みながら、海外の文化を学べて、しかも植物についても学べる絵本……!!

ぜひ、読んでみてくださいね! と、申し上げたいところなのですが、残念ながら、こちらの絵本、日本では重版未定になっているようです……(あれれれれ) 日本はガーデニング文化があまり身近ではないからでしょうか……泣

本場イギリスでは人気過ぎて逆に手に入りにくいそうです。

もし家にこの絵本がある方、それは大変貴重なものですよー!笑

ぜひぜひ、親子で一緒に楽しみながら読んでみてくださいね!(^^)!

では、本日の絵本の世界ぶらり旅はここまでです。最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました! またぜひ一緒に、素敵な旅へでかけましょう~!

参考文献
・ネイチャー・アンド・ソサイエティ研究 第2巻『生き物文化の地理学』池谷和信 海青社
・『イギリス的風景:教養の旅から感性の旅へ』 中島俊郎 NTT出版 2007年
・”Gardening with Young Children” Sara Starbuck, Marla Olthof, Karen Midden,
Redleaf Press, 2014  

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クレジット

執筆・編集
千葉県出身。ジブリとスピッツが好き。最近はThe Songbardsさんも好き。 猫背と蚊の鳴くような声が特徴で、いつも声を張ろうと頑張っている。 帰省先の房総の森で笛(フルート)の練習をするのが密かな趣味。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。