絵本の世界ぶらり旅

「仙人とねずみ」の世界! タイの仏教文化について

この記事は約7分で読めます by 蓑輪綾香

こんにちは! 編集アシスタントのみのわです。
「絵本の世界ぶらり旅」のコーナー、第二回目です!
絵本を通して、海外の文化や思想をゆるく紹介しましょうというこちらのコーナー。本日も、素敵な旅にご案内いたします。どうぞよろしくお願い致します。

本日の旅先絵本は、こちらです!

プリーダー・パンヤージャン作 『仙人とねずみ』
絵:プリーダー・パンヤージャン 文:ふせまさこ 新世研

プリーダー・パンヤージャンさんは、タイの絵本作家です。シンプルで味のあるイラストと、アジアンテイストなデザインがとっても素敵ですよね!

こちら、どんな絵本なのかと言いますと…

ある日、仙人は瞑想をしながらこんなことを考えていました。

「大きいとはどういうことか、小さいとはどういうことか…」

数日後、仙人のところへ猫に追い掛け回されているネズミがやってきます。ネズミを哀れに思った仙人は、不思議なおまじないでネズミを猫に変えてあげますが、今度は犬に追い掛け回される始末…。仙人はまた、猫から犬へ変えてあげるのです。

ネズミから猫、猫から犬、犬からまたさらに大きな動物へ…と、どんどん大きくなっていくネズミ。やがてネズミは自分が大きくなるにつれて、小さなネズミだった時の心も失っていきます。

昔の心を失ったネズミに対し、仙人が放った言葉とは…???

なんだかちょっと哲学的な、深いお話ですよね。子どもたちは、内容よりも仙人の不思議なおまじないに惹かれるようです。

お話を読んで、僕にもおまじないやって!と、盛り上がること間違いなしです!

一方で、ページをめくる度に結末が気になってしまうのは、一緒に読んでいる大人たちなのではないでしょうか。私は大丈夫かな…?と、読みながら自分の行動を振り返らずにはいられない、ドキッとさせられるお話です。

こちらの絵本は、タイの昔話がもとになっています。

タイは、国民の95%以上が仏教を信仰している仏教大国です。憲法では信仰の自由が認められていますが、仏教が人々の生活に大きく根付いているんですね。

そこで本日は、タイの仏教文化について、見ていきたいと思います!!

タイの仏教は、上座部仏教です。これは、インド→スリランカ→タイという南方のルートで伝わってきました。日本は、インド→中国→朝鮮半島(百済)→日本という北方のルートで伝わってきた大乗仏教なので、タイの仏教と日本の仏教はちょっと違います。

タイの上座部仏教は、伝統を重視する保守的な立場で、戒律がとても厳しいです! どれ位厳しいのかといいますと、お坊さんはお酒、たばこなどは厳禁で、恋愛も禁止です。特に女性は絶対にお坊さんに触ってはいけません!

そのため、女性がお坊さんとすれ違う時はすすっ…と避けて、間違ってもぶつからないようにかなり気を付けるそうです。緊張の一瞬ですね…!

タイでいう出家は、文字通り家を出ることを意味し、出家した人は僧院という所で暮らします。出家をして修行した一部の人しか、悟りには到達できないとされているので、日々厳しい修行をして人々を救ってくださるお坊さんは、非常に神聖な人として尊敬されています。

タイでは、出家をすることが成人男性の通過儀礼のようなものです。人生の中で一度でも出家をすることは、その人にとっても家族にとっても良いことであると考えられています。

また、現地では仏様のペンダントや置物等を売っているお店が多く、タクシーには必ずと言っていいほど小さな仏像が置いてあるそうです。道行く人が仏様のペンダントをしていたり、電車の中には、お坊さんの優先席があったりもします!! 

日常生活のあらゆるところで、仏教への信仰心をみることができるんですね…!

では、タイの仏教文化として具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは、主に大きな特徴であるタンブンと瞑想について、ご紹介していきたいと思います。

まず初めに、タンブンです!

こちらは日本語で「善を行う、功徳を積む」という意味なのですが、最近は食べ物や服などを人に恵む「お布施」のことをさす場合が多いそうです。

タイでは、多くの人が輪廻転生の考え方を持っています。そのため、来世でより良い暮らしができますようにという願いをこめて、現世でタンブンを積極的に行うそうです。

中でも一番行われているのは、托鉢(たくはつ)のタンブンです!

托鉢とは、お坊さんの修行の一つで、街の中を歩いて信者さんから食べ物などを恵んでもらうというものです。信者の方は、毎日決まった時間にやってくるお坊さんに、食べ物や洋服などを恵みます。

日本ではあまりなじみのないことですが、タイでは毎朝行われていて、最近は洋服や食べ物に限らず、お金だったり、袈裟と同じ色のマスクだったりを渡す人もいるそうです!

お坊さんは、このタンブンでいただけるものを生活の糧としています。そのため、もし何も恵んでもらえないなんてことが起きたら、(タイではまずそんなことはありませんが…!)とても大変ですよね…!

ちなみに、ここで重要なのは、お坊さんは、仕事をしてお金を稼いでいるわけではないということです!

一般の人は、働いてお給料をもらい、そのお金で好きなものを買って生活をしていますよね。一方お坊さんは、タンブンによって何かしらの物を恵んでもらいます。

どれくらいの食べ物や服、お金をいただけるか、というのは、信者さんの信仰心次第なんですね。

お坊さんとしての修行に専念するため、生活の基本的なところは人々の信仰心に頼っている、という点も、一般の人とお坊さんとの大きな違いですよね!

でも最近は、このタンブンでいただくご飯も高カロリーなものが多く、お坊さんが太ってしまう…!という問題もあるそうです。

タンブンで太ってしまうお坊さんがいるなんて…!!

タイでは、信者さんの信仰心が熱く、お坊さんがどれだけ尊敬されているのかということがよくわかります。

また、絵本の中で仙人は瞑想をしています。

瞑想も、仏教の中では大変重要な修行の一つで、タイでは多くの国民が瞑想を体験して身に付けています。

瞑想にもいくつか種類がありますが、今主流となっているのはヴィパッサナー瞑想と呼ばれるものです。これは別名マインドフルネスともよばれています。グーグルやアップル社といった欧米の有名企業がトレーニングとして取り入れたことなどから、マインドフルネスという名前のほうが有名かもしれませんね。

このヴィパッサナー瞑想は、過去や未来のことを考えず、今だけに集中するというのを意識して行う瞑想です。無駄なことを考えず、心を静かにしたい時におすすめですね。

ところで、瞑想と聞くと、座ってやるものというイメージがありませんか?

絵本の仙人も、樹の下で座って目を閉じて瞑想しています。

これは座禅瞑想と呼ばれるものです。座禅瞑想は、目を閉じて、自分の呼吸に意識を向けて、行います。

一方で、実は立って行う瞑想もあります!!!

これは歩行瞑想と呼ばれるもので、歩きながら行う瞑想です。歩きながらどうやって瞑想するの?と思ったそこの方! 歩行瞑想は、歩く、という行為に意識を向けるので、むしろ座って行う座禅瞑想よりもやりやすいと言われています!

例えば、一歩歩くだけでも、足が床から離れて、ちょっと前に出て、また足が床に着いて…というような感じで歩く時の一瞬一瞬を自分の中で捉えながら行います。たしかに、何となくこちらの方がやりやすそうです…!

ちなみに、以前、タイ北部のチェンライ県の国立公園にある洞窟で地元サッカーチームの少年12人とコーチが1人閉じ込められてしまった、というニュースがありましたよね。

多くのテレビ番組で報道され、世界中がそのニュースを見守っていました。最終的には全員無事に救出され、本当に良かったです。

この時、発見時に少年たちが瞑想をしていたというのが大変大きな話題となりました。一緒にいたコーチの先生が元僧侶の方で、洞窟の中で瞑想を子供たちに指導していたそうです。

なんと…! 先生がもともと僧侶だったというのも驚きですが、皆で瞑想をして救助を待っていたというのも仏教大国であるタイらしいお話ですよね。洞窟に閉じ込められてしまったらパニックになってしまいそうなところですが、瞑想、すごいですね…!!

改めて、タイでは多くの人が仏教を信仰しているということを全世界に知らしめた一件だったのではないでしょうか。

さて、今回の旅もそろそろ終わりが近づいてきました。

前回のイギリスに続き、今回はタイの仏教文化についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

「仙人とねずみ」は、仏教文化に触れられるだけではなく、タイの穏やかな雰囲気を味わうのにもぴったりの絵本です。

この機会に、絵本を読んで、親子で仙人のおまじないをかけあったり、ちょっと瞑想に挑戦してみたり⁉するのも良いかもしれません…!

では、本日の絵本の世界ぶらり旅はここまでです。最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!

また一緒に、素敵な旅へ出かけましょう~!

参考文献

・立川武蔵 『アジアの仏教と神々』 法蔵館 2012年
・石井米雄 『講座 東南アジア学 第四巻 東南アジアの歴史』 弘文堂 1991年

CREDIT

クレジット

執筆・編集
千葉県出身。ジブリとスピッツが好き。最近はThe Songbardsさんも好き。 猫背と蚊の鳴くような声が特徴で、いつも声を張ろうと頑張っている。 帰省先の房総の森で笛(フルート)の練習をするのが密かな趣味。
    イラスト
    1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて『死に神』が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。江戸の消防と建築を研究中。