こんにちは、安部です。すごく久しぶりに記事を書きます。
風来のWEBエンジニア兼WEBディレクター。株式会社オフィス303 所属。1月に咳が1か月くらい出ていて、しんどくて何度も病院に行っていたが、これが3月でなくて良かったと思っている。
さて、2020年3月26日に晴れて出版社となった弊社ですが、新型コロナウイルス(COVID-19)という強い向かい風が吹く中での厳しい船出となりました。
303 BOOKS出版社になりました。
「都市封鎖」「ロックダウン」などといった今まで小説やSF映画などでしか聞いたことがないような単語が、まさか日本国内でも現実になる可能性がでてきています(2020年3月27日現在)。政府は各企業に対して盛んにリモートワークを推し進めていますが、出版社はIT系企業とは違い、どうしてもデジタルの世界から引きなせない物理的なもの(校正紙、印刷色見本など)も多く、単純に「明日から全員リモートワークでやりましょう!」というのも、それはそれでなかなか厳しい現実ではあります。弊社と同規模の他の出版社様もこれは同様ではないでしょうか?
とはいえ、物理的なしがらみのない業務も数多くあります。弊社は数年前から積極的に新しいITサービスやIT機器を導入し、そのような業務の効率改善を図っておりました。実はこれが幸いして、この難局に対しても非常に有効な手段となりえる状況となっております。弊社と同規模の他の企業様にも参考になればと思い、今回の記事ではいくつかの事例を紹介させていただきます。
その1 社内スタッフ間の連絡
どんな企業においても報告・連絡・相談が業務の基本だと思うのですが、リモートワークになって困ることのひとつがこれでしょう。2000年代から大企業やIT企業の多くでは「Lotus Notes」のようなグループウェアの導入が進みましたが、弊社のような小規模の企業が導入するにはコスト面や管理・運用上の問題などもあり、導入が難しいという現実がありました。しかし、2010年代になって、この手のサービスがクラウド化され、よりコミュニケーションの機能に特化したサービス(ビジネスチャット)が出てきて状況が一変し、導入の敷居が一気に下がりました。有名どころでは「Chatwork」(Chatwork株式会社)、「Slack」(Slack Technologies社)が挙げられるかと思います。
数あるサービスの中で弊社が2018年10月に導入したのが「LINE WORKS」(ワークスモバイルジャパン株式会社)でした。
LINE WORKSを選択した理由は色々あるのですが、その中でも以下の2点が大きいものでした。
- LINEに似ているユーザインタフェースがぱっと見で分かりやすくてとても魅力的だった
- カレンダー・スケジュール機能がアドオンではなく、標準機能として組み込まれている(他のサービスはGoogleカレンダーと連携して組み込むというとことが多い)
女性スタッフが多く在籍していて、かつ理系スタッフは少なく文系スタッフが多いという弊社には、上記のような理由からLINE WORKSが最適解と考えました。複数人での音声通話やビデオ通話機能もありますので、たとえ全スタッフがリモートワークという状況になっとしても、社内スタッフ間のコミュニケーションはこれ一つでほぼ問題なく行えます。
その2 社外の方々との連絡
社外(取引先、デザイナー、イラストレーター・・・)の方々との連絡はLINE WORKSは使えないので引き続きEメールをメインで利用しているのですが、Eメールだけではどうにもならない状況など、どうしても電話連絡が発生せざるをえない状況も多々あります。スタッフが会社の外から電話連絡をする必要がある場合、大企業やIT企業の多くでは会社から各スタッフに携帯電話を貸与するなどで対応しているところもありますが、やはりコスト面などで二の足を踏んでしまっているところも多くあるかと思います。
弊社もかつては個人が所有している携帯電話を利用してもらい、業務で発生した通話の料金が自腹になってしまっていたケースも多々ありました。この状況を何とかしようと2016年5月に導入していたのが「モバイルチョイス“050”」(楽天コミュニケーションズ株式会社)です。
サービスの詳しい内容はリンク先をご覧いただければと思いますが、簡単に書きますと各スタッフが持っている個人の携帯電話に、仕事専用の050から始まる電話番号を追加で付与するものです(付与された050電話番号宛てにかけた電話は個人の携帯電話番号にシームレスに転送される)。こちらを導入することで以下のようなメリットが発生します。
- 社外の人から弊社のスタッフへの個人直接連絡が可能になり、代表電話の取次業務のコストも削減された
- 弊社スタッフが社外から自分の携帯電話を使って連絡する際に、通話料金を会社負担にできるようになった
このサービスもリモートワークの強い味方となります。ただ、このサービスに関しては普通の携帯電話とは勝手が違うところ(電話を受けた場合にも通話料がかかるなど)もあるので、もし検討される際にはしっかりサービスの内容を精査していたいただくといいかと思います。
その3 リモートワーク時の社内リソースへのアクセス
出版社や編集プロダクションがリモートワークで一番悩むのが、実はこれではないでしょうか? 弊社はDTP業務の大部分を内製化していますので、本や雑誌を作る課程において多くのファイルが発生します。リモートワークを行う場合でも、これらのファイル群に対して容易にアクセス・管理できることが必要となります。
弊社は2015年に大容量で高速のファイルサーバおよびインターネットVPN環境を導入し、社内ネットワーク環境を大幅強化しておりました。
ファイルサーバに関してはSSDキャッシュやLINKアグリゲーションに対応していて高速にアクセスできるSynology社のものを利用し、基本的に弊社スタッフはDTPを含むほぼすべての業務で利用する全ファイルすべてをファイルサーバ上に置くようにルールを徹底しています。Synology社のファイルサーバにはスナップショット機能がありますので、万が一必要なファイルを消してしまったとか、間違えて上書きしてしまったなどのミスに対しても、容易に以前のファイルを復元したり、過去のとある時点のファイルに巻き戻したりすることもできて、作業の手戻りが発生してしまった場合でも作業ロスを最小限にすることができます(MacにあるTime Machineのファイルサーバ版みたいなものです)。
このファイルサーバ内にあるファイル群に対して、リモートワーク時にでもアクセスできる仕組みとして、インターネットVPN環境も合わせて用意しました。
インターネットVPNとは、インターネット上に暗号化された専用の通信経路を形成し、仮想的な組織内ネットワークを構築すること。企業などが地理的に離れた各拠点の構内ネットワーク(LAN)を繋いで一体的に運用したり、従業員などがインターネットを通じてLANにアクセスするのに用いることが多い。
http://e-words.jp/w/インターネットVPN.html
こちらは一部のスタッフのみに権限を与えておりましたが、今年2月に国内の新型コロナウイルスのニュースが多く報じられてきたタイミングで社員全員に権限を付与し、来たるべきリモートワーク体制に備えていたところです。
これらにおいては必要な機器(ファイルサーバ、ルータ、スイッチなど)の選定や設定(セキュリティーがらみの設定なども含む)などが必要になりますが、幸いにして、今この記事を書いている私がそのあたりの知識を有していたこともあり、これらのすべての設定作業を自社内のみで行い、かなり低コストで導入が完了しました。
「未知」との戦いは続くが、我々は前に進むのみ!
ちょっと長く難しい記事になってしまいましたが、これらの環境にすることで、弊社はスタッフの出社頻度を最低限に抑えることができるようになっています。まだかけだしの出版社ではありますが、リモートワーク環境は比較的進んでいる方ではないでしょうか。
我々にとって、これから「自ら本を作って自ら本を売る」という未知な領域との戦いと合わせて、新型コロナウイルスという未知の敵との、二つの未知との戦いとなります。でもこんな状況でも決して止まるわけにはいきません。負けないためにも、我々は前に進むのみです。