引っ越しをするので、本棚の本をダンボールに詰めている。引っ越したあとのことも考えてジャンル分けをしていたら、ねこが出てくる絵本のコーナーができた。大好きなねこたちだ。ちょっとだけなら、と読みはじめて5冊目。
引っ越しの邪魔をする、ねこの絵本
『Rich Cat, Poor Cat』
ダンボールいっぱいに絵本を詰めたら、持ち上げられないほど重たかった。引っ越しの荷造りで大事なのは、引越し後のことではなく、“重さ”かもしれない。絵本を半分に減らして、比較的軽い単行本と組み合わせたりしている。
引っ越し業者さんと契約してキャンセル料の説明を受けたとき、当日キャンセルってどんな事情なんだろう?と他人事のように思っていたけれど、こういう事情なのか! 荷造りが間に合わなかったらどうしよう、とても不安。
でも、もっと大きな不安をかかえている子ねこがここにいる。
『スイッチョねこ』だ。
虫の音がきこえる夜、子ねこ3きょうだいをつれたお母さんねこは、「むしを とるのは よいけれど、たべるのは およしなさいよ。あたって、おなかを わるくする わるい むしも いますからね。」と、子ねこたちに注意する。
けれども、3きょうだいのなかの白い子ねこは、あんなにいい声で鳴くのだから、きっとうまいのだろうと、食べてみたくてしかたがない。
結局、捕まえることはできなかったけれど、あくびをしたとき、口の中に虫が飛びこんできて、そのまま飲みこんでしまう。そして、おなかの中から虫の声がするようになり、とてもこわい思いをするのだ。
子ねこの表情は大きく変わらない。けれども、びっくりした、こわい、心細いなどの気持ちが、繊細に豊かに描かれていて、絵を見ていると、子ねこの全身から伝わってくる。そのうち、子ねこの思いなのか、自分の中にあるものなのかごっちゃになってきて、見終わることがない。
さらに、読みはじめたころは子ねことして絵を見ていたのが、お母さんねこの前で泣くシーンでは、人間の子どもに見えるという目の錯覚が起こる。
子ねこは小さな両手を目に当てていて、どんな表情をしているのかわからない。このたたずまいが、小さな知らない子に見えたり、自分の小さなころに見えたりする。たくさんの子どもたちのかわりに泣いているような気もしてくる。
ねこのお医者さんは、「せっかいしゅじゅつして スイッチョを つまみだすかね。」と、おそろしい話もするけれど、しばらくようすをみることに。
やがて、子ねこが永遠だと思ったおなかの虫の声も、消えてしいんとなっていく。
子ねこは、不安を、他者の力でとりのぞいてもらうのではなく、自分のなかで消化させた。時間や、自然の力も借りて。
不安は、いくらでもおそってくる。でも、それらをのみこんで、自分なりに消化して、解決できてもできなくてもそういうことをくりかえして、なんとか大人になっていくんだろうな。自分は大人になれてるといいな、読み終えて、そんなことを考えた。
本文では最後に、子ねこが、スイッチョのことを来年の秋まで思い出さないで、明日も元気に庭をとびまわって遊ぶだろうと語られる。すこしずつ成長していく子ねこへの、作者のまなざしがあたたかい。
『ねこのシジミ』(和田誠 作 ほるぷ出版)、『タンゲくん』(片山健 作 福音館書店)など、ねこの出てくる絵本はまだあるけれど、引っ越し後に、荷ほどきをしながらゆっくり読もうと思う。
おわり