2020年6月に『まり~んずかん2020』を発売した303BOOKS。幼い頃からのマリーンズファンである編集担当・三橋が里崎智也さんを訪ねて、マリーンズの魅力や現役時代の思い出、未来の野望を語ってもらいました。
(※本記事は2019年11月にインタビューしたものです。)
「下克上」こそマリーンズの魅力
今日はよろしくお願いします。はじめに里崎さんが思うマリーンズの魅力や、球団に対するイメージをお聞きしたいです。
(即答)1番の魅力は弱いところですよ。
今年は強いですけどね!
弱いところですか。
はい。弱いから、勝ったときの喜びが大きいし。実際、僕らが日本一になったとき(2005年シーズン)も、31年振りですからね。弱いところから、どう脱却して、どういう成果を出せるかがおもしろいんちゃうかと思います。
まさに「下克上」ですね※。現役時代にファンにかけられた言葉で、よく覚えている言葉はありますか?
※2010年シーズン、マリーンズは3位に終わったが、クライマックスシリーズを勝ち抜いて日本一になった。里崎さんは「史上最大の下克上を見せる」と宣言し、その言葉と実績が大きくメディアに取り扱われた。
「キャー!(黄色い声)」って言われたことですね。生きていて「キャー!」って言われることなくないですか?(笑)「キャー!」って言われたことあります?
「キャー!」は一度もないですね。
ないでしょ。生きていて、「キャー!」って言われることないんですよ、変質者以外(笑)。それが1番インパクトありましたね。
どんな場面で言われたのでしょうか?
「キャー!」がインパクトありすぎて、もう覚えてないですね(笑)。
里崎さんはマリーンズ一筋でしたが、「マリーンズにいてよかった」という思い出はありますか?
31年振りの日本一のときって、僕は29歳だったんですよ。ということは、僕の生まれる前から優勝してないってことじゃないですか。生まれる前から日本一になったことのないチームを、僕1人の力だけじゃないですけど、みんなの力を合わせて、日本一にしたというのは1番の思い出というか、功績ですよね。
それはもう「常勝軍団」みたいなチームにいたら、味わえなかった魅力ということでしょうか?
そうですね。常勝軍団は勝つのが当たり前。言わば、宿命付けられているわけじゃないですか。もちろん、その難しさや達成感もあるでしょうけど、0から作り上げていく方が、僕の性には合っていましたね。
新しいファンサービスが生まれた時代のど真ん中にいた
次は現役時代、マリーンズの思い出を聞かせてください。
ボビー(ボビー・バレンタイン元監督)が監督の時期が長かったので、その思い出が多いです。プロ野球界がファンサービスに力を入れ出した時代が、2005年から2007年ぐらいで、ボビーはそこに大きな影響を与えたと思います。
その後、新庄さんがファイターズに来て、そこから一気にまた新しいファンサービスが広がっていって…という、プロ野球界の「ファンサービス」というものにおける転換期でした。そのど真ん中にいましたね。
パ・リーグがどんどん人気を獲得していった時期ですよね。
あのときは他の11球団の関係者が、どういうファンサービスをするかという視察に来ていましたね。ボビーが連れてきた外国人がピエロのパフォーマンスをしたり、球場アナウンスのDJ的なものもやったりしていました。
そういう取り組みを真っ先にやっていたのが、当時の魅力のひとつだったんですね。チームメイトとの思い出はどうでしょうか?
みんな好き勝手、好きなことをやっていたと思いますよ。自己主張強かったと思います。
なかでも覚えているエピソードはありますか?
みんながみんな好き勝手。だから、慰め合うこともないですよね。言うことは言うし、選手同士で怒られているやつもいっぱいいる。チームメイト同士で、意見とか議論とか、そういうのが頻繁に行われている雰囲気でした。だからと言って、別に仲悪いわけでもないし、勝つために必要なことなんですよね。和気あいあいとする中でも、厳しさがありました。
里崎さん自身が誰かに言われたことで覚えていることはありますか?
僕はどちらかと言うと、自分が言う方なので(笑)。言いすぎて、ほぼ全員に言っていますからね。年上だろうが、年下だろうが関係なく。
そこはもう、やっぱりプロだからということですか。
そう。だって、別に友だちを作りにいっているわけじゃないので。大袈裟に言うと、別に仲良くする必要はないので。だから、無理に嫌われる必要もないですけど、無駄に好かれる必要もないんです。
現役時代や引退後も含めて、野球を離れても仲が良い選手はいますか?
現役時代だと、福浦さんはよく絡みましたね。あと、しゅんちゃん(渡辺俊介投手)とか。小宮山さん、初芝さんとゴルフ一緒に行くとか…僕は基本的に誰とでもスタンダードに過ごしますね。
印象に残っているチームメイトとのエピソードはありますか?
こんな馬鹿やったなとか。
話せる「馬鹿やった」がないですよね(笑)。だって、馬鹿やったなってなると話せないことばかりじゃないですか。
それもそうですね(笑)。では、仲間にかけられた言葉で印象に残っているものはありますか?
怪我をして手術をするときにボビーが病院に来てくれたとか、そういう弱っているときに声かけられた方が印象には残りますよね。2004年に手術をするとき、手術日の当日と手術後に病院に来てくれて、それはかなり記憶に残っています。
バレンタイン監督とは仲が良かったんですか?
それはもう単純なことですよ。選手にとって1番いい監督は、「自分を使って自分の言うことを聞いてくれる監督」なんです。ってなったら、やっぱり僕にとってはボビーになりますよね。自分を使ってくれて、自分の言うことを聞いてくれたから(笑)。
だって上司なんて、そんなものでしょ、全世界。自分のことを起用してくれないで、言うことを聞いてくれない上司はどんなに優秀でも、そいつクソでしょ(笑)。
そうですね(笑)。あまりいい印象は持たないかもしれません。
これぞ里崎智也流、球団への提案と実績
少し話は変わって、里崎選手は選手時代に試合後なのにライブで歌を歌うとか、他の球団や選手がされないようなこともされていたと思います。そうした、チームに自分から提案したことや、なにか新しく始めたことはありますか?
1番は2008年からマリンスタジアムについたリボンビジョンですよね。あれはたぶん、日本球界初だったと思います。2006年にWBCに行って、エンジェルスのアナハイムの球場を見て、そこにリボンビジョンがあったんですよね。「これ、めっちゃいいやん!」と思って、提案したんです。
そういう経緯で提案したんですね。
マリンスタジアムのあの部分って、もともと白かったんですよ、コンクリで。そこにボールが被って見にくいという外野手の声もあって、色を塗ってくれって言っていたんですよね。それでも塗ってくれてはなかったんですけど、「ここにリボンビジョンつければいいやん」って言ったんですよ。
企業とタイアップすれば、そこまで高くならないかもしれないし、日本で初めてやから画期的やし、外野からもボールも見えなくなるということもなくなるし。
いいことずくめですね!
でしょ? しかも、普通の看板だと、1回塗ったらだいたい1年間の契約です。でも、電光掲示だったら単発の広告も取れるから、小さいものから大きいものまで、多様なスポンサーを取れるから、うまくいけば10年ぐらいでペイできるんちゃうかって訴えたんですよ。
それはどんなタイミングで相談したのでしょうか?
2006年の契約更改のときですね。で、2007年のオフについて、2008年から稼働ですね。だから、あれは「里リボン」と言ってもいいぐらいです。はい。あとは、風速計の下に広告を打った方がいいよって言ったんですよ。マリンは強風が有名で、ニュースでも絶対「風速10メートル」とか映るんですよ。
球場にいたらそんなに目はいかないけど、テレビカメラで抜かれる回数がめちゃくちゃ多いんですよ。だから、あそこに広告出したら売れるよって言ったんです。
本当にいろいろと実現していますね。
あとは、練習環境の改善ですね。マリーンズは浦和に寮があるんです。若い選手はやっぱり練習量を多くしたいけど、寮生は基本、車に乗ってはだめなので、海浜幕張駅の終電に乗らないと浦和まで帰れないんです。そうすると、寮生はナイターで試合が終わってから練習できひんやないかと。
それは難しい問題ですね。
当時でいうと西岡とか、今江とか、これからっていう年代の若手選手が試合前に練習来ようと思ったら、午前中に寮を出なきゃいけないんですよ。そうするとナイターが終わってからゆっくり休む時間もないし、練習をする時間もないしってなったら、こんな不都合なことはありません。寮は球団がそこに建てているわけですから、選手個人の責任じゃない。
だから、ホームでやるときは宿泊費を球団が持って、全員ホテルに泊めてあげたらどうかって言ったんですよ。そうしないと、若手の能力は上がっていきませんよって。そうしたら、次の年から寮生は全部球団が手配して、ホテルに泊まっていました。
そのホテル文化は里崎さんが作ったんですね。
そうですね。基本的にはそうなりましたね。
野球面でも、他の人より新しく取り入れたことはありますか?
それはあまりないですね。僕より優秀な人、いっぱいいたので。むしろ、福浦さんと一緒に練習させてもらうとか、人に聞いて吸収して、自分のオリジナリティを作っていく感じです。
福浦選手からは、どんなことを教わりましたか?
ロングティーの練習方法を一緒にするとか、1番能力が高い選手と一緒のことをやるのが、上達に近いんですよ。バッティングで1番能力が高いと思ったのは、福浦さんだったんです。その福浦さんに考え方を聞きながら一緒にやっていくことによって、本物に触れられるじゃないですか。そうしたら、成長する可能性は上がります。
現役時代の話をいろいろ聞かせてもらいましたが、引退後の活動でおもしろかったことはありますか?
どれも新鮮でおもしろいですよ。僕、38歳で引退しましたけど、8歳から野球やっているので、30年間野球しかやってきていないわけです。初めての社会だから、めっちゃ楽しいですよね(笑)。何やるのも初めてですから、大袈裟に言うと。テレビ出るのも、ラジオもそうだし、イベントも。引退して数年経ちましたけど、まだまだ楽しいですね。
この先やりたいこととか、成し遂げたいことはありますか?
そうですね。球団社長はやってみたいですね。
ずっと、おっしゃっていますよね。やっぱり、ものすごく興味があるんですか?
そうですね。社長は興味ありますね。想像できないでしょ? 想像できる人生って、つまらんやろって思うんですよ。今、僕のやっていることって全部想像できない人生をトライしているんですよ。
そういう道を歩んでいる気がします。
想像できる人生って、それはそれでいろいろな大変さとか、その中で一喜一憂するとか、達成感や失望感とかがあるでしょうけど。8割方、想像できるんですよね。でも球団社長って、想像つかないです。おもしろそうですよね。
やっぱり、やるならマリーンズがいいという思いはありますか?
マリーンズじゃないと無理やろうなと(笑)。なりたいって言っても、いきなり他球団の社長とかなれるわけがないじゃないですか、縁もゆかりもないのに。正直、可能性としてはマリーンズでも1%ないかも。
GM(ゼネラル・マネージャー)ではどうですか?
やっぱり社長じゃないと、自由にできないです。夢なんて、笑われるぐらいがちょうどいいんですよ。それいけるかもって思ったら、夢でもなんでもないじゃないですか。だから、絶対に登れない山にチャレンジするのがおもしろいんですよ。登れたら僕の勝ちだし、登れなくても大した痛手でもないという(笑)。
いちファンとして、僕はその野望の実現を見てみたいです。
こうやって言い続けることによって、世論が動いて、何かが変わる可能性があるじゃないですか。そのためにも、今の段階から人脈、力、知識はいろいろなものをつけていかなきゃいけないですよね。
里崎智也球団社長(仮)の野望
球団社長という話が出ましたが、すでになにかやりたい企画は考えていますか?
ビッグビジョンがありますよ。
それは言ってもいいものですか?
いいですよ。移転です。
いきなり移転(笑)。
いやいや、千葉からじゃないですよ(笑)。マリンスタジアムの隣にメッセの駐車場あるじゃないですか。あそこに新球場を建てるんです。
新しい球場ですか!
海浜幕張と新習志野の間に、新駅ができる予定があって、あれはたぶん、イオンと直結すると思うんです。だから、その駅→イオン→球場で直結させるんです。そうすることで、歩いて球場に来られる。
さらに、ロッテホテルを球場の3塁側の上に併設させれば、ナイターの次の日は、朝食食べながら選手の朝の練習が観られる。もしくは部屋からナイター観戦をした次の日、昼食を食べながら練習を観て、土曜日はチェックアウトをして、球場で観るというプランもできますね。
地方から宿泊込みで観戦に来るファンにも、とても魅力的ですね。
いいでしょ。人の移動がしやすくなるし、駅直結というところで足を運びやすくなって、帰りも帰りやすいし。あとは、ホテルのレストランから試合が観られるようにして、野球に興味ない人も野球に触れられるような環境にして、球場に足を運んでもらいやすいようにするとかもいいですね。
すごくおもしろそうなプランですね。
はい。イオン直結+新駅直結のホテル併設スタジアム、これが僕のビッグビジョンですね。我ながらいいアイデアだと思うんですよ。しかも別に横に動くだけなので。後楽園、東京ドームプランと一緒ですよね。でもまあ、僕はそれを「お金儲けできる」とかでは、あまり考えられないんで、単純におもしろそうということです。
採算とかではなくて、おもしろそうというのが、まず最初にあるんですね。
採算は専門家が考えればいいんですよ。僕が社長だったら、アイデア出すだけで、それを具体化できるように、「実行部隊動け!」って言う(笑)。
楽しいアイデアをありがとうございます。最後に「まり~んずかん」について、何か一言いただけますか?
12球団の中でも、マリーンズってメディアに取り上げられることが少ないと思うんですよ。だから、こういう本で人の目に触れるとか、人の好奇心に入っていけるようなものを世の中に出せるということを、選手たちはありがたいと思った方がいいし、こういうものを継続できるように、頑張らなければいけないと思います。それはファンのためにも。こういうアイテムが増えると、ファンの人はうれしいじゃないですか。
そうですね。この本は年度版で継続して、どんどんやっていこうという目的で作っているので。
でも売れなかったら、続かないでしょ?
はい。だから、頑張って売りたいと思います。
ですよね、だから買ってもらいたいですね。でも、売れるには選手たちに魅力がないといけないわけじゃないですか。だから結局、何をするにしても本人たちの頑張りにかかっていますよね、1番。
その影響は大きいですね。僕ら(売る側)は僕らで、できることを頑張っていこうと思います! 今日はありがとうございました。