前回は、だじゃれ絵本への想いや『ダジャレーヌちゃん世界のたび』の製作についてのお話でした。第2回は、自由が丘の街を散策しながら、林木林という作家についてくわしくうかがいたいと思います。
『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』と、林木林
だじゃれで巡る世界の旅
言葉に携わる仕事に
林さんが最初に出された本は、絵本ではなく詩集ですね。
『植星鉢』(土曜美術社)です。詩と思想新人賞の副賞として出版されたものです。ねじめ正一※さんに、帯と栞を書いていただきました。
※ねじめ正一:詩人、作家。詩集『ふ』によりH氏賞を受賞。小説『高円寺純情商店街』で直木賞を受賞。「詩のボクシング」の初代チャンピオンでもある。
『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』の発行記念として、4月に絵本ナビさんでねじめさんと対談をされました。ねじめさんは、林さんは変わらないねと。「詩のボクシング」※で初めて会ったとき、林さんの言葉はちゃんと肉体を通っている感じがした。今回のだじゃれ詩もきちんと練って、苦し紛れでも逃げずに、だじゃれで突っ込んでいくパワーがある、とおしゃっていましたね。
※詩のボクシング:リングの上で自作の詩を朗読して、どちらがより聴衆の心に届いたかを対戦形式で競うイベント。NHKで全国放送されて人気を博した。
ねじめさんは尊敬する先輩なので、本当にありがたいです。私は最初、詩のコンクールに応募したり、雑誌に投稿したりしていたんですよ。「詩のボクシング」は、県大会の実行委員の方から連絡をいただいて、出場を勧められたんです。
ユリイカ新鋭詩人、抒情文芸最優秀賞、サンリオ詩とメルヘン特別賞など、いろいろ受賞されていますね。「詩のボクシング」でも、第4回全国大会で優勝されました。作家になられたのは、この優勝がきっかけだったのですか?
前から、言葉に携わる仕事につきたいとは思っていましたが、どうすればいいかわからなかった。今思えば、「詩のボクシング」が本格的に作家を目指すきっかけになったのかなと思います。
その後、 絵本作家への道を歩まれました。
本当は、詩の本を出したかったのですが、なかなか難しかったんです。でも、何か詩を形にしたい。それで詩の絵本はどうかなと。言葉と絵で表現することで、詩の世界がもっと広がっていくんじゃないかと思ったんです。
上京されたのはその時期ですか。
そうですね。出版社に30件くらい電話をかけた日もありました。絵本の持ち込みを受け付けているところを調べたんですが、あまりないんですよね。でも、詩を気に入ってくださった出版社が1社だけあって。編集会議にかけますと言ってくださったんです。そして、まず月刊絵本として出版されて、その後単行本化されました。
最初に出された絵本は『ゆうひのおうち』(絵:篠崎三朗/鈴木出版)ですね。月刊絵本は、毎月幼稚園や保育園に配られるソフトカバーの絵本です。評判のよいものは単行本化して書店に並ぶわけですが、1冊目から単行本化とはすごいですね。
当時は、月刊絵本の存在を知らなくて。それから何冊か月刊絵本を出したり、単行本を出したりしているうちに、ほかの出版社からも少しずつ依頼がくるようになりました。
次につながっていったわけですね。
生涯を通じてつきあっていける作品を
林さんは、言葉遊び絵本を多く出版されていますが、これからどのような作品を手がけていきたいと思っていらっしゃいますか?
今はおもに幼児が読んでくれている絵本が多いのですが、高校生や大人まで楽しめるものも書きたいと思っています。同じ作品でも年代によって感じ方がちがうので、その時々の感じ方で生涯を通じて、ずっとつきあってもらえるような、そういう絵本を書きたいですよね。
絵本は、基本的には絵で表現する部分が大きいですが、私は言葉の表現の幅が大きい作品も、もっと書いていきたいという思いがあります。そういう作品は、おのずと対象年齢が少し上になるのですが。それと、やはり詩集は出したいです。
詩集は子どもに向けたものを?
子どもから大人までが楽しめるようなものをつくれたらいいですね。
カフェでよくお仕事をされているとのことでしたが、詩はどんなときにつくるのでしょう。
詩を思いつくのは、人と一緒にいる時ではなく、ひとりの時ですね。不意に降ってくるというか、降りてくるような感じでしょうか。1行だったりワンフレーズだったりすることもあるのですが。何か浮かんだ時は家でも外でもメモを取ります。なるべく、すぐ書き留めるようにしています。でも、その辺にあった紙に書いてなくすこともありますけど。
えー! なんてもったいないことを!
絵本の仕事も外でされることが多いのですか?
ものによりけりですね。外の方が集中できる場合もあるので。基本、原稿は家で書きますが、推敲やラフのチェック、企画のアイデアや構想は、外で練ることもあります。私は、言葉の勢いにのってパーっと書いたあと、徐々に詰めていって仕上げていくことが多いんですよね。下書きというか、絵で言えばラフみたいなものでしょうかね。
最初に全体のイメージをつくって、時間をかけて言葉を紡ぎだしていくという感じですね。
いったん書いてしまってから、ああでもないこうでもないと。推敲や構成を整えるのに時間がかかるんですよ。それで良くなるものと、その日のコンディションでそう思えただけで、前のほうが良かったとか、そう思うことは今だにありますよ。
その情熱、『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』でも感じました。最後の校了直前まで、推敲してくださいました。
もっとおもしろくなるんじゃないかって思うと、考えつづけてしまうんですよね。だからすごく時間かかってしまって。書いた時の勢いを大事にしたいという作品の場合は、あえて最低限しかいじらないようにすることもありますけど。
生感覚の作品もぜひ拝見したいです。それと、『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』の第2弾もよろしくお願いしますね。
わかりました。もっと世界を見てまワールド!
さすが、林さん(笑)。ぜひ、次回も楽しませてくだじゃれ。今日はありがとうございました。
駅でごあいさつをすると、林さんは「やっぱりもう少し仕事をしていこうかな」と、踵を返して自由が丘の街に消えていきました。いつだって、全力で走りつづけるのが、林木林さんの魅力のひとつです。