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(上記写真:JAXA/ISAS)
2014年12月3日、宇宙にむかって
打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」。
約52億4千万kmの宇宙の旅を経て、
2020年12月6日、小惑星「リュウグウ」の
サンプルが入ったカプセルを無事地球に届けました。
「はやぶさ2」の偉業を祝し、
ミッションマネージャ吉川 真さんにお話をうかがいました。
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「はやぶさ2」ミッションマネージャ吉川 真さん インタビュー
多くの世界初を成し遂げた、小惑星探査機「はやぶさ2」
徹底的に改良した探査機と運用
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「はやぶさ」の時は多くのトラブルが起こりましたが、「はやぶさ2」では、いかがでしたか?
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「はやぶさ2」の探査機には、大きなトラブルはなかったです。やはり「はやぶさ」の失敗からいろいろなことを学んで改良できたということが、今回の「はやぶさ2」の成功につながったと思います。「はやぶさ」のほか、金星探査機「あかつき」や過去のJAXAの衛星や探査機のトラブルもすべて検討して改良された探査機なんです。
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外観的には、大きなアンテナが2つになりましたね。
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2種類の電波を使い分けて高速通信もできるようにしました。平面アンテナにしたので2つ搭載しても「はやぶさ」のパラボラアンテナよりも軽くなりました。ほかにもイオンエンジンやあらゆる部位でかなり改良してます。また、運用の仕方もずいぶん改良しました。
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運用の仕方の改良というのは、例えばどんなことですか?
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小さな小惑星に対して、どのような運用をしたらいいのかというのは、「はやぶさ」の時は手探りだったんです。しかし、「はやぶさ2」では「はやぶさ」の経験からより確実な運用の仕方ができたと思います。
具体的には、運用シミュレーションや訓練をかなり本格的にやりました。いちばん大変なミッションは「タッチダウン※」だったのですが、「タッチダウン」に限らず、探査ロボット「MINERVA-II(ミネルバ2)※」を放出する、人工クレーターを作るなども。
※タッチダウン:天体への着陸すること。
※MINERVA-II(ミネルバ2):小型移動探査ロボット。「リュウグウ」の表面の写真などを撮影し、「はやぶさ2」に送る。
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シミュレーションということは、探査機は使わずコンピューター上で?
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今回は、探査機と同じ動作をするシミュレーターというものを作りました。そこに模擬的に命令を送ると、シミュレーターから返事が来ます。ほとんど探査機を運用しているのと同じような感じで、シミュレーションや運用訓練ができるんです。
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タッチダウンはどのように?
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事前に模擬的な「リュウグウ」を作って、そこに探査機がタッチダウンをするというシミュレーションをしましたが、これはかなりリアルなものです。命令を送るとシミュレータ内の仮想の探査機が動き出し、失敗すれば探査機が「リュウグウ」にぶつかってしまうという。
いろいろな想定をして細かい運用の仕方の訓練を、全体で合計50回以上行ったんですよ。これが何か起こったときにすぐに対応できるような下地になったと思います。
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シミュレーション運用訓練のようす。
成功を支えたプロジェクトチーム
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吉川先生は、「はやぶさ」ではプロジェクトサイエンティスト、「はやぶさ2」ではミッションマネージャをされていますが、ぞれぞれどんなお仕事なのですか?
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プロジェクトのリーダーには、まず全体をまとめる、プロジェクトマネージャがいます。
探査機のミッションの目的には、理学(サイエンス)目標と工学目標があるので、プロジェクトチームも大きくサイエンス系と工学系に分かれます。
サイエンスチームは天体の調査など、工学チームは探査機の製作や運用などをします。
プロジェクトサイエンティストはサイエンスのチームを取りまとめていくという役割で、工学チームのリーダーが、プロジェクトエンジニアです。
私の場合、「はやぶさ」のプロジェクトサイエンティストは途中から引きついだので、プロジェクトの後半がおもな仕事だったのですが。
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そして「はやぶさ2」では、ミッションマネージャに。
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実は、「はやぶさ」では、ミッションマネージャという立場はありませんでした。「はやぶさ2」でできたのです。
「はやぶさ」よりも「はやぶさ2」のチームの方が人数が多いんです。サイエンスチームは、300人近くいると思います。そのうちの100人以上が外国人なので、海外の人と情報を共有したり、運用上NASAなど対外的な交渉をしたりする責任者がミッションマネージャです。まあ、そういう雑多なことを何でもやるんですね。チームを取りまとめたり、情報を伝えたり、情報を発信したり、プロジェクトマネージャやプロジェクトサイエンティストの手が回らないことを補完するような立場ということになります。
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「はやぶさ2」では、どうして人数が増えたのですか?
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「はやぶさ」の時は、ミッションのメインが探査機の技術を実証する工学でした。しかし、「はやぶさ2」では、メインがサイエンスなんです。それでサイエンスのチームを増強し、内容も増えているんですね。海外の人も増え、かなりの大所帯になったわけです。
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「リュウグウ」をくわしく調べるために、「はやぶさ2」で初めて使用された小型着陸機MASCOT(マスコット)。ドイツ・フランスが開発し、分光顕微鏡や広角カメラ、磁力計などを積んでいる。
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リーダーとして、チームをまとめるということで、大切だなと思っていらっしゃることはなんですか?
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こういう何が起こるかわからないプロジェクトでは、臨機応変に対応しなくてはなりません。そのため、メンバーのやる気というか、士気を高めておくことが大切です。そして、メンバーひとりひとりが、自分の力を最大限に発揮できる雰囲気にしておくことが一番重要なので、プロジェクトのチームの中の雰囲気を、なるべくいいものにしようと思っています。
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ひとりひとりの能力を最大限に活かすために、具体的にはどんなことを心掛けてらっしゃるのでしょう。
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そうですね、まずは本人に任せる。あんまりこっちから頭ごなしに言わないでですね。自分のやり方に任せてみて、何か上手くいかないとか、何か壁に突き当たった時は、早めにどんどん言ってもらうということですね。ほんのちょっとでも、何か通常とちがうというのを感じたら、どんどん言ってもらうと。
実際、プロジェクトの中はそういう雰囲気になっていました。それぞれが自分で考えながら、問題を見つけてくれたっていう感じです。それをみんなで共有していたので、大きな失敗もなく進められたんじゃないかなと思います。
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まずは任せて、相談しやすい雰囲気とつくるという。
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はい、そうですね。
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「はやぶさ2」のプロジェクトは、チームワークがよいとうかがいました。
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重要な運用は、2、3日かかる連続運用になっちゃうんですね。今回は、2、3週間ごとにそういう運用がどんどんどんどん入ってきたので、結構プロジェクトメンバーは大変だったんです。でも、非常にチームの雰囲気がよくてですね。みんな和気あいあいとして、冗談を言いながら部屋で話をしたり。なんでも気軽に話し合える、非常にチームワークのよいチームになったと思います。
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ミッションが無事終わり、地球に向けて「リュウグウ」を離脱する命令を確認して、喜びに沸く「はやぶさ2」のプロジェクトメンバー。
プロフィール
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吉川 真(よしかわ まこと)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)准教授。
専門は天体力学および太陽系小天体の軌道解析。
小惑星探査機「はやぶさ」ではプロジェクトサイエンティスト、
「はやぶさ2」ではミッションマネージャを務める。
2018年には、科学誌「Nature」が選ぶ
今年の10人「The 2018 Nature’s 10」に選出される。
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