『そらのうえ うみのそこ』大復活プロジェクト

科学界のインディ・ジョーンズ長沼毅教授2

この記事は約6分で読めます by 常松心平

惜しくも絶版してしまった科学絵本『そらのうえ うみのそこ』を303 BOOKSで再発するプロジェクト。2020年6月に発売予定です(※追記:少し遅れて2020年7月31日に無事発売しました)。同書は、縦型の絵本で、上から読んでも下から読んでも読むことができる絵本です。主人公はインディ号に乗るタケシ。国際宇宙ステーションから、マリアナ海溝の底まで、さまざまな自然現象、不思議な生物たちと出会いながら大冒険をします。前回に続いて、監修者である広島大学の長沼毅教授にお話をうかがいました。

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『そらのうえ うみのそこ』大復活プロジェクト

科学界のインディ・ジョーンズ長沼毅教授1

長沼毅さん
長沼毅(ながぬまたけし)
1961年、人類が初めて宇宙へ飛んだ日に生まれる。 1989年、筑波大学大学院生物科学研究科修了。深海から宇宙、北極から南極、砂漠から高山まで、あらゆる極地で、生命について研究する。科学界のインディ・ジョーンズの異名を持つ。JAMSTEC研究員、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校研究員を経て、現在は広島大学大学院統合生命科学研究科教授。

南極からサハラ砂漠へ

前回、大西洋の海底火山付近の超塩水の中に棲む微生物が、南極の生物に近かったというところまでお話をうかがいました。

心平

そうそう。それで、南極に行ってみる? って話になったんだよね。

長沼

南極観測隊ですか?

心平

それじゃなくて、イタリア隊として行ったんだ。日伊共同研究と言うのがあって、日本から行くはずの人が急に行けなくなっちゃって、イタリア隊として南極に行く人を探していたんだ。それで「長沼君行かない?」と言われて「行きます行きます!」と。

長沼

深海の次は南極か〜。すごい振り幅!

心平

それで南極でも超塩水に生きる微生物がいて「わー大西洋の海底火山と同じだ!」と「何でかな?」と思っているうちに、もう1つ別の微生物が見つかったのね。その生物に一番近い生物がなんとサハラ砂漠にいたんだよ。それで次はサハラに行ったわけ。

長沼

それで砂漠も制覇しちゃったと。すごい!

心平

宇宙へのロマン

絵本を読む二人

先生と言えば、もう1つは宇宙ですよね。

心平

宇宙は、南極行ったり、砂漠行ったりしている間に宇宙飛行士の試験があったんだ。宇宙飛行士の試験はある意味、就活と言うか、転職活動だね。

長沼

あーなるほど。新しい仕事としてやってみようと思ったんですね。

心平

そうなんだよ。でも、宇宙飛行士になったら、もう研究者を諦めるしかないから、研究を取るか宇宙の仕事を取るかどっちかになりそうだったんだ。迷ったんだけど、試しに受けてみようと。

長沼

やっぱり宇宙の仕事に魅力は感じてたんですか?

心平

宇宙飛行士になりたいと言う理由は、単純に自分の誕生日なんだよ。人間が初めて宇宙に飛んだ日に生まれたんですね。「じゃあ自分は宇宙に行くんだな」と思ったのがまちがいの始まりで(笑)

長沼

壮大な思い込みが原動力で(笑)

心平

それで宇宙飛行士の試験受けると、準決勝で1週間くらいかけて行われる長い試験があって、その試験のハイライトが面接なんだ。それで面接の時に宇宙飛行士の毛利衛さんに「君が宇宙飛行士になりたいモチベーション何ですか?」と聞かれたの。

長沼

かの有名な宇宙飛行士の毛利さんですね。

心平

「ぼくの生まれた日は人類が初めて宇宙に飛んだ日なんです!」と言ったら「いや、その日に生まれた人はほかにもいっぱいいるよね?」と言われて。「なるほど!」と、そこで気づいたんだよね(笑)理由が弱い!って。

長沼

(笑)それでまあ残念ながら、宇宙飛行士にはなれなかったと。

心平
絵本を持つ二人

その後は、今と同じように広島大学で研究に没頭していったんです。

長沼

宇宙にもいるであろう、生物に興味があるんですよね?

心平

生物って言ってもいろいろあるでしょ。例えば火星に行って、微生物を発見したとして、「それだけでおもしろいの?」と僕は思っちゃうわけ。研究者もちろん「微生物といえども地球以外の星にいたのなら凄い!」と言うはずだよ。でも、僕にとっては「えー!微生物だよ」って思う。それはいてもおかしくないし、仮にいた所で「コミュニケーションできないし」と思ってしまう。

長沼

じゃあ、先生が探しているのは・・・?

心平

そりゃもう宇宙人ですよ。

長沼

でも長沼先生と出会って、「そんなのいないと考えるほうが不自然だ」とお話しされていて、それ以来そういうふうに思うようになりました(笑)

心平

もうこれだけ宇宙に星があって、地球に似た環境の惑星もたくさんあることもわかっていればね。いると考えることが、むしろ自然だよね。

長沼
絵本を眺める長沼さん

今はほかにどんなことに注目しているんですか?

心平

それは「地衣類」と言う変わった生物です。

長沼

それってコケですか?

心平

学術的にはコケじゃないんだけど、コケっぽく見えるやつ。あれは2つの生物が共生したものなんだ。藻類と菌類がね。それでお互いがwin-winの関係で助け合ってる。それが幸いして陸地だったらどこでもいるんだ。

長沼

そんなすごい生物なんですね!?

心平

だから陸上生物では最強じゃないかとか思ってる。だから本当に南極の寒風吹きすさぶところにもいるし、高山の頂上にもいるしね。それこそ東京の街中にもいますよ。

長沼

じゃあもう最強で、それこそ宇宙にもいても全然おかしくないですね?

心平

テラフォーミングっていう、火星を地球化すると言う話があるでしょ。光合成する生物を火星に持っていって地球と似た環境をつくろうとする。僕だったら地衣類を持っていくね。

長沼

なるほど。酸素も少なくてもいいとか。

心平

地衣類は光合成するから、自分で酸素を作れるんですよ。

長沼

そっか! じゃあ太陽があれば生きていける。

心平

そう。あとは二酸化炭素が欲しいんだけども、火星の空気なんて95%二酸化炭素なので、もう吸い放題です。

長沼

すごい! 地衣類というと響きとしては、一見地味だけども・・・。

心平

見た目も凄い地味なんだけども、やっぱり火星テラフォーミングを考えたら、僕にとってはめちゃくちゃホットだよ!

長沼

確かに! じゃあ。この本ができたら、次は「地衣類をコケにするなよ!」という絵本をつくりましょうね。ということで、「そらのうえ うみのそこ」大復活プロジェクトに際して、長沼毅先生にインタビューしました。先生ありがとうございました! 次は画家の大橋慶子さんにお会いしたいと思います。お楽しみに!

心平
『そらのうえ うみのそこ』裏表紙
『そらのうえ うみのそこ』深海
『そらのうえ うみのそこ』深海の生物
『そらのうえ うみのそこ』研究所
『そらのうえ うみのそこ』山頂
『そらのうえ うみのそこ』オーロラ
『そらのうえ うみのそこ』宇宙
『そらのうえ うみのそこ』(TOブックス)
監修:長沼毅、絵:大橋慶子、装丁:セキネシンイチ
協力:寺門和夫、佐藤孝子 編集:西塔香絵、常松心平、設楽幸生
取材協力
LOFT9 Shibuya
LOFT9 Shibuya
〒150-0044 東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS(キノハウス) 1F
http://www.loft-prj.co.jp/loft9/

渋谷円山町にあるトークライブハウス。日中はフードもドリンクもバラエティ豊かなメニューが揃うカフェだが、夜は超バラエティ豊かなトークライブが連日行われる。アーティスト、学者、芸人、アイドルなどが、「トークライブ」ならではの、密度の濃いコミュニケーションを生み出していく。

CREDIT

クレジット

執筆・編集
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。