小泉今日子さんが代表を務める「明後日」による『asatte FORCE』が、10月18日まで東京・本多劇場で開催中です。上演される内容は、演劇、朗読、ライブなど多種多様。10月4日には「えほんのろうどく 長田真作さんの本」と題して、今夏303BOOKSから『ほんとうの星』『そらごとの月』を出版した長田真作さんの作品が、小泉今日子さんと瓜生和成さんによって朗読されました。第2回目は「asatte FORCE」について、コロナ禍でも挑戦を続けることについて、小泉今日子さんにお話をうかがいました。
『asatte FORCE』小泉今日子さんインタビュー
えほんのろうどく 長田真作さんの本
「FORCE」を発信し続ける
今回の『asatte FORCE』の企画は、どのように生まれたんでしょうか。
当初はこの時期に、別の舞台を予定していました。それがこのコロナ禍で中止になってしまって、今回の企画に切り替えたんですね。劇場はすでに予約していて、キャンセルすることもできたんですが、もし公演をやれば少しでもなにかプラスが生まれるかもしれない。そういう希望を持っていたかったんです。
もとはひとつの舞台の予定だったのが、大きく方向転換をして、毎日違う公演をするというこの企画になったんですね。
そうですね。今年の春以降は、表現者もスタッフもみんな職を失った数ヶ月で、誰もがつらかったと思います。それでいっそ、フェスみたいな場所を作って盛り上げたいと思って。表現の場所を失った人たちが多いので、「うちでやりませんか?」と声をかけさせてもらいました。
『asatte FORCE』という名前には、どんな思いが込められているんでしょうか?
映画「スターウォーズ」に出てくる「フォース」は、念力やテレパシーのような超常的な力ですよね。演劇や音楽などの文化芸術には、それに近い力があると思うんです。ステージ上で人間が発するエネルギーが、観客に伝わって心の糧になる。今こそそんな不思議な力を発信していきたくて、「asatte FORCE」という名前にしました。
エンタメの世界では、このコロナ禍でまだ動き出せていない人たちも多いですよね。今こうしてイベントをされるというのは、相当な覚悟があったんだろうなと感じます。
絶対に黒字にはならないだろうな、とも思いながらやっていますね。それでもやっぱり発信し続けることが大事だと思います。我々にとっても、お客さんにとっても、劇場に足を運ぶというリハビリテーションが必要なんじゃないかと。
我々は出版社ですが、こういうときだからこそ、発信を続けることが大事だと思っています。だって発信するために、僕たちはいるわけですからね。
このコロナ禍で、ある学者さんが「利他的に生きることが大事になる」と言っていて。その言葉で、それだ!と目の前が明るくなりました。公演をしてもし金銭的に損をしたとしても、きっと後にすごい財産が生まれる。企画はこれからも生きていくから、きっとどこかで取り戻せると思うんです。
手を繋いで、仕事をつくる
小泉さんは10代のころから大きな事務所で、大きなビジネスの中心にいましたよね。「明後日」という会社を立ち上げて、ビジネスを作る側に回られてからは、やはり感覚は違いますか?
そうですね。本当にやりたいこと、やるべきことをやっていくために、明後日が必要だったんですね。頑固かもしれないけど、「自分らしく生きるため」だったなと、そう思っています。
仕事をする上で、大切にしていることはありますか?
みんなで手を繋ごう、助け合おうという気持ちはありますね。今はアーティストでも独立して活動している人がたくさんいる。そういう人たちと手を繋いで、純粋にいい作品を作って、それを多くの人に見てもらうということを試してみたいんです。
『asatte FORCE』でも本当にたくさんの方が出演されていて、人と人の繋がりを感じます。
明後日をつくってから、人と繋がることに臆さないようになりましたね。昔でいえば、ご近所でお醤油を貸し借りするみたいに、知人に声をかけてイベントに出てもらったり、音楽を作ってもらったり、今度はそのお礼で自分が仕事を手伝ったり。世の中も、そういう繋がりを大事にする世界に戻っていく気がします。
誰でも劇場に足を運んで
『asatte FORCE』は10月18日まで続きますが、残りの公演にかける思いはありますか?
昨日までの公演を終えて、だいぶお客さんに楽しんでもらえたと実感しているので、このバトンをどんどん繋いでいきたいですね。
これからも演劇やライブ、朗読やDJイベントなど、面白そうな企画が並んでいますね。
後半では完全に私の趣味で、沢村貞子さんと殿山泰司さんの随筆の朗読を入れています。『わたしの茶の間 沢村貞子の言葉』(10月13日、出演:峯村リエ 村岡希美 西尾まり 小泉今日子)と、『あなあきい いん ざ にっぽん 殿山泰司の言葉』(10月14日、出演:風間杜夫 豊原功補)です。かなり前の俳優さんで、知らない方も多いかもしれませんが、魅力が伝わっていないのはもったいない。若い方もぜひ観に来てほしいですね。
大人から若者、子どもまで、いろんなお客さんが楽しめるように考えられているんですね。
誰でも気軽に劇場に足を運んでほしいです。お母さんお父さんは、お子さんがいるとなかなか劇場に来られないから、親子で一緒に楽しめるものを作りたいと思っていて。昨日も子ども向けに「桃太郎」のお芝居※をやりましたが、こういう企画も定期的にできたらいいなと思います。
※10月3日に行われた『下北沢桃太郎プロジェクト「桃太郎」』のこと。
今日も、絵本の朗読を聞いた子どもたちが楽しそうにしているのを見て、劇場はみんなに開かれているんだなと感じました。
そうですね。みんなでアイディアを考えて、たくさんの人に伝えていきたい。時代とともに人の繋がりが薄くなっているかもしれませんが、今回のコロナ禍で、本当に大事なものってなんだっけ?と問われているような気もします。こんなときだからこそ、文化芸術、エンタメ作品が、多くの人の心を繋げるものになればいいなと思います。「今できること」は、「今しかできないこと」だと思ってやっているんです。