『ほんとうの星』『そらごとの月』の舞台裏

本をデザインすること

この記事は約6分で読めます by 深谷芙実

第2話では、友田さんの個人での制作活動について聞かせていただきました。今回はいよいよ、『ほんとうの星』『そらごとの月』のデザインがどのように生まれたのか、そして友田さんにとってデザインとは何かをうかがいます。

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『ほんとうの星』『そらごとの月』の舞台裏

アートディレクターは、こんな人

絵本のためのデザイン

本のデザインは、仕事としては今回が初めて?

深谷

学生時代にフリーペーパーのデザインなんかはやったことあるけど、仕事としては初めてだね。

友田

初めての本のデザインはどうでしたか? すごくいいデザインだと思いましたが。

深谷

自分の作品として本を作ることは結構やっていたので、初めてでドキドキという感じではなかったんだけど。今回の絵本は、内容を簡単に言葉で整理できるような作品ではなかったから、どう料理するかは結構悩みました。

友田
『ほんとうの星』より。
『そらごとの月』より。

絵のまわりの、灰色の枠のデザインが印象的だけど、これはどうやって思いついたの?

深谷

この絵本ってけっこう漫画みたいに、効果音のように言葉が入ってくるよね。だから最初はスタンダードに、絵の余白に文字を混ぜ込むのがいいかなと思ってたんだ。でもやってみると、長田さんが余白を生かして絵を描いているから、そこに文字を入れちゃうと絵があまりきれいに見えなくなる瞬間があって。それに絵の密度が高いから、目がなかなか文字に向きにくいんだよね。

友田

たしかに長田さんの絵の魅力を生かしたいから、文字の入れ方も大事なところだよね。

深谷

文字が絵のそばにありながら、言葉もちゃんと読者に伝わるような構造をいろいろ模索して。最初はページの上や下に文字を入れることも考えていたんだけど、セリフは喋っている人の近くに置きたいという気持ちもあったから、それなら外周全部を文字のスペースにした方がいいなというふうに、わりとロジカルに導き出したかな。

友田
『ほんとうの星』『そらごとの月』表紙。中央に開いた穴から星と月の姿がのぞく。

それと、表紙に穴を開けるのも提案してくれたよね。穴を開けたことで本としての魅力も増したと思うけど、これはどういう意図だったっけ?

深谷

星と月の心象世界に入り込んでいくような物語だったので、それをストレートに表現したいと考えるうちに、自然に行き着いたかな。原画を見たときから、星と月の中心にあいた穴が彼らの「心」を強調したものに見えたので、それをうまく表紙とリンクさせたいとも思って。表紙に大きく広がる色面は実は星と月の形になっていて、物語を一周して改めて表紙を見ると気づく人もいるのではないかと、ちょっと曖昧な見え方を狙いました。

友田

すてきなデザインを考えてくれてありがとうございます。長田さんの絵を初めて見たとき、どう思った?

深谷

すごくきれいな絵だったけど、内容は、小さい子どもが読むにはちょっと難しいかなとも思った。でも独特な魅力のある作品だし、長田さんにお会いしたら、作品の通り魅力的な人だなと思って。だから力を合わせていい作品にしていきたいと思いました。

友田

デザインをしていて難しかったところはある?

深谷

校正のやり方が広告とは違っていたり、ページ数が多いので修正が大変だったり、こまごまとしたステップでつまづきがちだった。でも文字組とかのルールの作り方は普段の仕事と似ていたかな。絵本のいろいろな制約をうまくかわすためにルールを作って、そのおかげで絵の堂々とした感じが深まったり、抑揚がより強調されたり。頭の使い方は普段とあまり変わらなかったと思う。作家さんや編集さんの協力があって、なんとか形になりました。

友田

今回の絵本で、特に見てほしいところは?

深谷

特別にここというのはないかな。絵本全体を見て、長田さんが見せ場として描いているところを、そう見えるようにしようと考えながら作業していました。この絵本はデザイナーが表に出てくるようなものではないので、作家さんの思いが違和感なく伝わると良いと思っています。

友田

人の体験を作り出す

案件によって違うとは思うけど、デザインをするときにいつも考えていることはありますか?

深谷

会社に入って初めてついた先輩がすごくすてきな人で、その先輩から「どんな小さな仕事でも、常に自分がベストだと思うやり方を探していきなさい」って言われたのね。確かに仕事でデザインをしていると、いろいろな事情や制約があるから、匙を投げたくなる瞬間も結構たくさんある。そういうときもあきらめずに、何が本当にベストなのかを立ち止まって考えるようにしているかな。

友田

今回の絵本も、最後まで試行錯誤してくれたよね。

深谷

小手先だけでなんとなくそれっぽくすることは簡単だけど、そうはならないように気をつけています。

友田

本のほかにも、今後やってみたい仕事はありますか?

深谷

興味がバラバラなんだけど、最近会社でやらせてもらっている仕事では、イベントや展示会が多くて。あと最近だとデジタルの分野で、自分の趣味趣向からAIが肩書きを考えてくれるおもしろ名刺メーカーみたいなものを作ったり。ただ作るだけじゃなく、使う人にとってどんなインターフェイスがいいかを考えるのがおもしろいんだよね。イベントもそうだけど、人の体験をデザインすることが好きだから、そういう仕事をしていきたい。本も、読者と呼応するものって考えるとインタラクションデザインだよね。

友田

単に見た目がきれいということだけじゃなくて、人にどう体感してもらうかを考えるんだ。

深谷

ただそれは難しくて、空間に来たときに人がどう感じるかは、もちろん構造上の問題もあるけど、見た目の美しさの問題も結構大きいんだよね。だからその両方を考えていくということかなと思います。

友田

形として残らないものや、体験を作るっていうことに興味があるんだね。

深谷

そうだね。体験の方に興味があるかも。いろいろな考え方があるけど、自分がやっていることにひとりで満足していると、どこかでさみしくなる瞬間があるなと思って。最近携わった展覧会の仕事ではベテランの先輩と組んでいたんだけど、人がその空間に入った瞬間の気持ちを想像して、オブジェを置く位置や映像が切り替わるタイミングはどうするのがいいか、そういうことをすごく真剣に考えている先輩で。それを見ていて、これは深い世界だなと思ったんだよね。

友田

やっぱり平面のデザインだけにとどまらず、大きな空間や場所を作ることも好きなんだね。

深谷

うん、ものがあった方が好き。オブジェを作ったりしているうちに、空間について考えるようになって、空間には人がいるのが必須だから、人のことを考えるようになったという感じかも。人の時間を支配するっていう点では、空間を作るのも本を作るのも一緒かもしれないね。

友田

本も読者がいないと成り立たないものだから、確かにそうだよね。また本の仕事でもご一緒できたらうれしいです。ありがとうございました!

深谷
取材協力
カフェ・ジンジャー・ドット・トーキョー
東京都江東区平野1-8-1
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クレジット

執筆・編集
2014年入社。学校図書館書籍や生物の図鑑などの児童書を担当してきた。おもな担当書籍に『深海生物大事典』(成美堂出版)、『齋藤孝の どっちも得意になる!』(教育画劇)、『MOVE』シリーズ(講談社)など。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。