絵本『ほんとうの星』『そらごとの月』のアートディレクターを担当された、友田菜月さんへのインタビュー。今回は第1話に引き続き、友田さんが学生時代に学んだことや、個人での制作活動についてお話を聞いていきます。
『ほんとうの星』『そらごとの月』の舞台裏
アートディレクターは、こんな人
ニューヨークで見えたもの
大学院生のとき、アメリカに留学していたよね。
大学院2年生の夏休みから1年間留学をしました。それがすごくよかった。
どんなところがよかった?
なかなか言葉にしにくいんだけど。留学先の人は私の存在を全く知らないから、自分のステータスとかを全部投げ捨てて、会う人会う人に「自分は何者で、何ができるんだ」ということを常に意識して伝えないといけない。自分を知らない人ばかりの環境で、結局自分はどういう人なのかが見えてきたんだよね。
日本にいたときは自分自身のことをあまり言語化していなかったけど、それがはっきりしたっていう感じなのかな。
それに近いと思う。本当に誰も私のこと知らないから、結局、自分は自分でしかないという前向きな諦めから始まったというか。やっぱりものを作るのが好きなんだなとか、自分がどういう人間だったか改めてわかった気がした。
学校でも、まず知らない人への自己紹介から始めないといけないもんね。留学先の学校はどうでしたか?
学校もすごくおもしろくて、ニューヨークの Pratt Institute っていう、武蔵美と同じくらいの規模の美大でした。生徒が3000人くらいかな。
ちなみに、そのとき英語はもう問題ないくらい喋れた?
英語はそんなに得意じゃなくて、留学するための点数もわりとぎりぎりで、行ったときはそんなに喋れる状態じゃなかった。それがよかったのかわからないけど、いい意味であんまり人の言うことを聞かなくなったんだよね。先生が言っていることの3割ぐらいしかわからなかったから、それだけを頼りにあとは自分で考えようとか。
言葉がわからないなりに、自分でなんとかしなくちゃと思ってたんだ。
美大って、講評中に先生が答えを出しちゃうことがあって。こうしなよ、こういうやり方もあるよって先生がぽんぽんアイディアを出しちゃうと、その先に行けなくなっちゃうことが結構あったんだよね。私はわりと優等生体質で、日本にいるときは先生の意見に沿って作ることも多かったけど、留学中はとにかく自分で考えなきゃいけなくて。
大変そうだけど、アイディアを生み出す力はすごく身につきそうだね。
すごくいい経験でした。たとえ先生の意思を汲んでいなくても、自分がいいと思ったからこうしたと丁寧に伝えれば、ちゃんと評価してくれる。自主性を重んじるっていうお国柄もあったのかもね。それと英語が苦手な分、プレゼンテーションの準備を毎回しっかりやるようになって。喋る内容を考えるのはもちろん、どんなスライドがあったら伝わるかなっていつも考えてた。
言葉だけじゃなくて、ビジュアルで伝えるということをそのときに学んだ?
そんな気がする。学んだというか、意識してやってた。向こうの先生たちは、学生でもわりと対等な人間として付き合ってくれるから、こっちが真剣に伝えようとすれば真剣に親身に聞いてくれる。先生のデザイン事務所に行って何度もフィードバックをもらったり。そういう付き合い方の感じもすごく印象的で、今でも習った先生はみんな印象深いです。
やっぱり本が好き
学生時代のポートフォリオを見せてもらったら、いろいろな作品があったけど、小さい冊子みたいなものを結構作っていたじゃない?
うん。ZINEを何冊も作ってた。
やっぱり学生時代から、出版物というか、紙の本に興味があったのかな。
興味はあって、留学先でもZINEを作る授業を取ってた。向こうではZINEだけじゃなくて、Independent Publishという大きな捉え方で、私家出版が盛んなんだよね。毎週課題として小さい本を作って、最後に自分でテーマを決めて、大きな25ページのZINEを作った。
紙に穴を開けたり、いろんな見せ方をしていたよね。
手に収まるサイズだと工夫のしがいがいっぱいあって楽しかったんだよね。もともと、こまごまと工作をするのが好きで、学部のときにも凝った本を作ったりしてて。そういう本が好きでもっと作りたいと思っていたから、その授業があってよかったな。
大学院を修了して、就職してからも、個人で本を作ってTOKYO ART BOOK FAIR(TABF)に出たりしているよね。それはどんなモチベーションで作っているの?
私は作りたい気持ちと作りたいものに波があって、特別に本だけを作りたいわけでもないんだけど。そのときは、会社の先輩たちがやっていた展覧会を見たのがきっかけだったかな。展覧会がすごくよかったから、自分でも何か作りたくなって。仕事だといろいろな制約があるし、本当に自分の作品とは言えなくて、少しモヤモヤしていたんだよね。
確かに、仕事では必ずしも自分の作りたいものが作れるわけじゃないよね。
仕事は多くの人が関わるから、自分で作った感じがなくなっちゃうってことかな。アートディレクターとデザイナーが別々に立ってたりすると、自分ではない人が最後に仕上げもするし、カメラマンが写真を撮るし。学生のときはそういうところも全部自分でやっていたから、フィニッシュまで自分でやるということを改めてまたやりたくなって、そのときTABFがちょうどよかったので申し込んでみた。
出展したのは昨年が初めて?
そう、昨年が初めて。出展してみたら、作品自体は気に入っているけど、もうちょっと見せ方を考えた方がよかったかなとか、いろいろ思うところはあった。
やってみたら新しい学びがあったんだ。
そう。ただ、すごくおもしろい考え方ですねって気に入ってくれる人もいっぱいいて、そういう人の声を生で聞けたのはよかったな。あと全然予期していなかった友達に会ったりもできた。大学の友達とかが、「あなたも出してたの?」って。
美大出身の人もたくさん出展してるもんね。
そうそう、それで友達が寄ってくれたりして。作品を作って自分の現在地を知ることもできたし、今のトレンドも知ることができたので、TABFは有意義でした。でも作家になりたいとか、そういう意欲は今はそんなにないかな。目の前にあるものを、常に一番すてきな形で出していけたらいいなというぐらいかも。
ものづくりの楽しさ
さっき本だけを作りたいわけじゃないと言っていたけど、ほかに興味があることはなにかある?
それで言うと今、吹きガラスを習ってるんだ。今はコップとか、わりと実用的なものを主に作っているんだけど、それをもうちょっとなんらかの作品にしたくて。グラフィックアートにするのか、立体物を作るのか、何かしらに昇華できるといいなとぼんやり考えてます。
ガラスを始めたきっかけは?
留学中に他学科の授業も受けられたから、ガラスの授業を取っていたのね。前からガラスという素材の距離感のちょうどよさに興味はあって、陶芸よりは難しいけど、鉄よりはなにかできそうな気がするというのと。あとは純粋にキラキラできれいだなと思って。
そんな授業もあるんだ。授業で実際にいろいろ作ったりしたんだね。
その授業で一番おもしろかったのが、吹きガラス。熱したガラスに息を吹き込んで形を作るんだけど、先生はそれを英語でコリオグラフィー、ダンスの振り付けみたいなものだと言っていて。その言葉も、体の動き方のきれいさも印象的だった。私はずっとスポーツをしていたから、体を動かして全身で作るところも自分にすごく合っている気がしたんだよね。
留学中に吹きガラスに出会って、日本でも習うようになったんだ。
就職して、うちの会社は2年目の後半から営業実習というものがあるのね。アートディレクターも営業の現場の最前線に出て、仕事とお金の流れを俯瞰して勉強するんだけど。そのとき時間に余裕ができたというのもあって、ガラス工房に通い始めたんだ。
なるほどね。ガラスっていうとコップとか花瓶のイメージなんだけど、どういうものが作れるの?
なんでも作れる。今はコップとか花瓶でも、それらが集合してきれいだとか、そういう写真が撮れたらいいかなと思っているぐらいであんまり考えていないけど、コップでも個性がすごくいっぱい出せるし。あとはソリッドで分厚いものを作れば、光を中にたくさん溜め込むような、おもしろい置物も作れるし。
やっぱり自分でなにかを作るということがすごく好きなんだね。次回は、今回アートディレクターを務めてもらった絵本について聞かせてもらいたいな。
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