劇団ラッパ屋『コメンテーターズ』最速レポート&瓜生和成インタビュー

閉ざされた世界を切り開くコメディー・ショー

この記事は約9分で読めます by 加藤季余乃

鈴木聡が主催する劇団ラッパ屋の最新作『コメンテーターズ』が、7月18日に東京・紀伊國屋ホールにて開幕しました。自粛中に暇を持て余して、YouTubeを始めた平凡な男が、ワイドショーのコメンテーターに抜擢されて騒動に! コロナウイルスや、オリンピックの話題が飛び交うリアルタイムの世の中を舞台とした、明るく笑いにあふれるコメディ作品です。コロナウイルスの流行で、すっかり姿を変えてしまった世界に生きる人々に、この作品が届ける”想い”とはなにか。本作に出演する、瓜生和成さんにお話をうかがいました。

瓜生和成(うりゅうかずなり)
1996年青山劇場「銀河鉄道の夜」で白井晃氏と出会い、遊◎機械/全自動シアター等に出演。ナイロン100℃などの公演に参加の後、1998年に東京タンバリンに出演し劇団員となる。以後 ほぼ全作品に出演。2019年、東京タンバリンを退団し小松台東に入団。
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コロナ渦に、舞台に立つということ

瓜生さんは劇団小松台東に所属されていますが、今回、劇団ラッパ屋の舞台『コメンテーターズ』に出演することになったきっかけをうかがえますか?

加藤

一昨年に劇団iakuの『あつい胸さわぎ』という作品に出演したときに、ラッパ屋を主宰する鈴木聡さんが観に来てくれたんです。実は、鈴木さんにきちんとお芝居を観て頂いたのは、その時が初めてでした。それがきっかけで、今回の作品に声をかけて頂いたんです。

瓜生

ラッパ屋のみなさんとも面識はあったのですか?

加藤

はい。もともと劇団ラッパ屋の方たちとは、他の作品で色々共演させて頂いています。主役を演じたおかやまはじめさんは、3、4年前ぐらいまで、僕の家から5分のところに住んでいらしたので、とても親しくさせて頂いていました。今回、お母さん役の弘中麻紀さんとは、別の作品で、もう15年近く夫婦役として共演させて頂いています。

瓜生
コロナウイルスの影響で仕事をなくした、おかやまはじめ演じる、主人公の横沢広志(以下、横沢)は、家で過ごす日々に暇を持て余して、ユーチューバーデビューを果たした。

劇団iakuの舞台に出演する前から、鈴木さんと面識があったのですか?

加藤

3年前くらいに鈴木さんの還暦パーティがあって、その流れで鈴木さんたちがやってきたお店に、偶然僕たちもいたんです。その頃は、まだコロナウイルスが流行する前の時期でしたから、そこでラッパ屋の方たちと色々お話をさせて頂きました。

瓜生

瓜生さんから見て、鈴木さんはどんな方ですか?

加藤

真正面から、喜劇を作っていらっしゃる方だと思います。それから、言葉を使う仕事をされてきた方だから、会話をしていると表現がとても豊かで、台本もきちんと時代に向き合ったセリフを書かれています。

瓜生

『コメンテーターズ』は、コロナ禍やオリンピックの問題などの話題が飛び交う、今の世の中を描いた、とてもリアルな内容の作品だと思いました。

加藤

以前、鈴木さんとお話ししたときに、鈴木さんは「ワイドショーにすごく興味がある」とおっしゃっていました。その時の話題は、今回の作品とは違うニュースの話でしたが、そのことについて、すごく関心をお持ちでした。

瓜生

緊急事態宣言を受けて、舞台『コメンテーターズ』は昨年に一度、上演が中止となってしまいましたが、その時はどのような心境でしたか?

加藤

『コメンテーターズ』の舞台だけではなく、他の演劇や映画もテレビも、学校まで、全てのことがストップしてしまいました。初めはしかたがないと思いました。自分たちのやっていること(演劇)は、食事をすることや、病気にならないように気をつけることの、次の次の次かなと、映画やテレビを見る事の次の次かな、、そのときは考えていたんです。でも、少しずつ外へ出かけられるようになって、劇場で直接、演劇やライブを観て、目の前で人がなにかを必死に表現しているのを見たときに、当たり前だと忘れかけていた気持ちを思い出しました。心を動かすことや、人にふれあうことは、本当に必要なんだなと改めて痛感しました。

瓜生

公演ができない期間を経て、舞台に立つ心境は変わりましたか?

加藤

お客さんや、共演者、スタッフの方々へ真剣に向き合う意識は以前と変わっていません。でも、今の世の中で、お客さんが劇場に向かうことは勇気のいることだと感じるようになりました。そんな、お客さんの気持ちを大事にしなければいけない。そして、自分たちももっとできることがあるんじゃないかと考えるようになりました。

瓜生
YouTubeで注目を浴び始めた横沢のもとに、コメンテーターとして、テレビ出演のオファーが届く。思うままに発言する横沢に場をかき乱され、困惑するコメンテーターたちだが、テレビ視聴者の反応は違っていた。

『ド直球のラストシーンをあえて、今、やりたい』

瓜生さんは主人公の息子役を演じられながら、物語の語り部という役割をされていましたが、役作りはどのようにされましたか?

加藤

大きな劇場で、語り部の役をやるのは初めてでした。客席に向けてセリフを言うことも、あまりやったことが無かったので、鈴木さんにしっかり演出してもらいました。それから、稽古の時間が限られていたので、演出助手の方が通し稽古やゲネプロの舞台を、ビデオで撮って、動画を送ってくれたんです。動画を見て自分なりにチェックして、鈴木さんや、共演者と確認し合いながら、役をつくっていきました。

瓜生

とても現実的な内容の作品でしたが、リアルな人物を演じるのは苦労しましたか?

加藤

自分の生活とリンクさせられるところもあったので、そこまで大変ではありませんでした。基本的には、自分の家族に対する気持ちや、テレビを見て思うこと、今の閉鎖された世界に対して思うことを、自分の中に描き出して、役作りをしました。

瓜生
瓜生和成が演じる横沢の息子、横沢悠太(以下、悠太)。人とのコミュニケーションを避ける悠太だが、YouTubeやテレビで発言をする父親の姿を見て、少しずつ気持ちが変化していく。

今回だけではなく、基本的に自分が言えないセリフや、演技の中にできない行動があるときは、言葉にできない理由や、行動できない理由を考えます。まずは自分ができることをやってから、次にひとつずつできることを増やしていく、あるいはできないことを削っていくという作業をしています。

瓜生

鈴木さんの演出を受けて、印象に残ったことはありますか?

加藤

演じていて、発する言葉を自分の中で消化しすぎてしまったときに、鈴木さんから「もうちょっと外に向かって演じてほしい」「(観客に)きちんと言葉を提示してほしい」という言葉を頂きました。ラッパ屋の作品として、ということもあると思いますが、その演出にはとても納得しました。

瓜生

物語のラストを見て、この役が、観客に向けて話していることが、とても納得できました。物語の構成や、キャラクターが細かく設計されていたんだなと思いました。

加藤

去年、舞台が中止になって、みんなで悲しんだこと、電話の声やLINEのメッセージ、それからの一年間みんなで過ごしてきた生活、稽古が再開した日のこと、いろんなことを思い出して、最後のシーンに繋げています。

瓜生
コメンテーターとして張り切る横沢だが、テレビ局は、思っていた世界とは違っていた。虚実入り混じる番組の裏側に、横沢はほんろうされていく。

ラストシーンでは熱いメッセージが、ダイレクトに伝わってきて胸を打たれました。

加藤

劇場入りをしたあとに、鈴木さんや何人かの方と一緒に稽古をしたんです。そのときに鈴木さんが「ド直球のラストシーンだけど、それをあえて、今、やりたい」とおっしゃって、そこで僕たちも気持ちが決まりました。

瓜生

非日常へと変わった世界に、エンターテインメントを届ける

カラフルで抽象的な舞台。音楽担当の佐山こうたが、ピアニストの加山良太役として、舞台上に置かれたピアノで音楽を演奏する。効果音として、登場人物たちの言葉のあとにも、佐山の奏でるピアノの音が添えられる。

抽象的な舞台セットの中で、リアルな芝居を演じるのは難しくなかったですか?

加藤

最初からその設定で稽古をしていて、セットも稽古場で組んで頂いたので、自分の中で座り位置や、立ち位置をしっかり決められました。抽象的な舞台ですが、鈴木さんにも細かく、家やテレビスタジオの位置を決めて頂いたので、あまり迷いませんでした。劇場に入ってから、照明などの演出がついて、色や形が明確に提示されるようになったので、よりわかりやすくなったと思います。

瓜生

音楽担当の佐山こうたさんが、舞台上にあるピアノで音楽や効果音を生演奏していることに驚きました。

加藤

劇団ラッパ屋の舞台は、ここ3、4年、佐山さんのピアノとともにあります。鈴木さんは今回の舞台で、暗い話題ばかりのワイドショーのような世界に、エンターテインメントが入ることで、人の生活は潤っていくという構成を考えられていたと思います。佐山さんのピアノ、北村岳子さんの歌と、黒須洋嗣さんのダンスが入ることで、鈴木さんが考えていた舞台の構成が、より明確に形付けられていると思います。

瓜生

深刻な問題で暗くなる場面も、音楽やダンスが登場して、明るく楽しい雰囲気に変わったように感じました。

加藤

録音した音でも成立するかもしれませんが、完璧なプロフェッショナルであるダンサー、シンガー、ピアニストの生のパフォーマンスが入ることで、舞台が躍動していくと思います。

瓜生
テレビ番組の中で、歌を披露する楠美奈子(北村岳子)と、ダンスを披露するフレディ木原(黒須洋嗣)。エンターテイナー達が、暗い空気を吹き飛ばして、明るい方向へと導いていく。

僕のセリフに合わせて、佐山さんがピアノの音を出してくれるので、ただのBGMではなく、演者として佐山さんと共演させて頂いていると思っています。佐山さんからもいろいろ提案してくれたり、話し合ったりして、ラッパ屋は、ほかにはない舞台の作り方をしていると思います。

瓜生

連携のとれた演技や演出で、舞台全体から強い団結力を感じました。

加藤

ラッパ屋の方たちは、劇団結成から40年弱も関係を培ってきました。いろいろな場所で戦ってきた方たちが、一つにまとまったときの団結力は、本当にすばらしいと思います。そんなラッパ屋のパワーを、お客さんも見に来てくれているんだと思います。

瓜生

これから、この舞台を見る方に伝えたいことはありますか?

加藤

今は、明日どうなっているか、来週どうなっているか、来月どうなっているかわからない世界の中にいて、前が見えない、どうしていいかわからない状況です。直接ふれ合うことは難しいですが、手を伸ばしてみて、お互いになにかを求め合ったり、話し合ったりすると、意外と相手も同じことを思っているかもしれません。この舞台を観て、明日、来週、来月に光が差すかもしれないという気持ちをもってもらえたらと思います。

瓜生
<公演情報>

ラッパ屋 第46回公演『コメンテーターズ』

脚本・演出
鈴木聡

音楽・演奏
佐山こうた

キャスト
おかやまはじめ、瓜生和成(小松台東)、弘中麻紀、熊川隆一、俵木藤汰、岩橋道子、浦川拓海、青野竜平(新宿公社)、中野順一朗、ともさと衣、木村靖司、谷川清美(演劇集団円)、宇納佑、大草理乙子、武藤直樹、北村岳子、黒須洋嗣、佐山こうた

日程
2021/7/18(日)〜7/25(日)

会場
東京・紀伊國屋ホール

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ライブ配信決定!
https://rappaya.jp/#online-live

【昼公演】
7月25日(日) 開演13:00 ◎アーカイブ(見逃し)配信は、7月31日(土)PM12:00まで
【夜公演】
7月25日(日) 開演17:00 ◎アーカイブ(見逃し)配信は、7月31日(土)PM12:00まで

CREDIT

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執筆・編集
303BOOKS編集スタッフ。コーヒーをいれることにハマっているけれど、ブラックコーヒーが飲めず、ミルクをいれたカフェオレしか飲めないことを、ちょっとだけ気にしている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。