引っ越しの邪魔をする、ねこの絵本

『リッランとねこ』

この記事は約2分で読めます by 桑原るみ

引っ越しをするので、本棚の本をダンボールに詰めている。引っ越したあとのことも考えてジャンル分けをしていたら、ねこが出てくる絵本のコーナーができた。大好きなねこたちだ。ちょっとだけなら、と読みはじめて2冊目。

『リッランとねこ』
イーヴァル・アロセニウス 作 ひしきあきらこ 訳(福音館書店)

動物の背に乗って、好きなところへ走っていきたい。子どものころ、そんな想像をしたとき、ではなんの動物に乗っていたのだろうか。私にとって身近な動物は、飼っていたねこと、自分の干支である牛だった。動物の背中に乗るのなら、ねこではなく牛のほうだ、と考える常識があったと思う。

『リッランとねこ』のリッランは、ねこに乗った。ねこが、「どうぞ せなかに おのりなさい」と言ったのだ。背中に人を乗せようとするねこもねこなら、乗っちゃうリッランもリッランだけど、ふにゃあとした線で描かれたふたりの絵が、ページをめくるごとに頭をやわらかくほぐしていってくれる。

リッランを乗せたねこは、雄鶏やブタ、ガチョウを怖がらせながら、たったか走っていく。リッランも勇ましく、雄牛を追いやり、ワニを泣かせる。でも、怖いときはふたりで一目散に逃げる。

この本は、かつて三鷹台にあった、絵本と児童書専門の古書店で出会った。そのお店には、1、2か月に1回くらいで通っていたと思う。店主は絵本が大好きで明るい人だった。自分から本をすすめることはしないけれど、棚の本に手をのばせばタタタと寄ってきてくれて、「それ、いいでしょ」と言い、その作家にはほかにどんな作品があるのかなど、生き生きと話してくれた。

『リッランとねこ』は、表紙が見えるように置いてあった。表紙の無邪気さに一目惚れし、中を見て、リッランや動物たちの表情の豊かさに、あらためて心が惹かれた。

店主が、「私はここが好き!」と言ったページがある。ねこにある問題が起きたあと、それがもとにもどって、「まるで あたらしい ねこみたい」になるところだ。なにが起きても、新しくなって、また始められる。まるで店主のような、明るい表現だった。

もう何年も前になるけれど、そのお店が閉まるとき、再開したらお知らせを送れるようにと、住所を書くノートがあって、書きこんだ。お知らせはまだない。店主が健康でいてくれたらと祈っている。

絵本の紹介から脇道にそれてしまったが、リッランもねこも、やわらかそうなのに、つぶれることなく勇敢に走っていく。ねこにだって乗れるんだ。自分の常識がガラガラとくずれていくのは、気持ちがいいな。読んでよかった。

私の手元にある本は、1993年の第3刷。残念なことに今は絶版になっている。本当の初版はいつなのだろうと、作者の出身地、スウェーデン版をネットで調べたら、1909年だった!

CREDIT

クレジット

執筆
小学校中学年のときに『ひみつの花園』を読んで本が好きになる。まだインターネットが普及していなかったころ、雑誌の『フロムA』を見て当社の学生アルバイトに。以来編集に携わる。引っ越し先は緑が多いので散歩が楽しみ。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。