講談『本多劇場物語』から溢れる表現者たちの熱量

役者・荒川良々、初披露の講談を鑑賞して

この記事は約4分で読めます by 加藤季余乃

私は以前にyoutubeチャンネル『神田伯山ティービー』で公開された、
神田伯山の講談『畔倉重四郎』の鑑賞をきっかけに、講談の世界に足を踏み入れた! (『前回のコラム』
それからも『神田伯山ティービー』が提供してくれる講談を鑑賞して、”おうち時間”を充実させて頂いている。
気軽な外出がまだまだ難しい日々ではあるが、
表現者たちが面白い作品を発信し続けてくれるおかげで、私達は家にこもって退屈するどころか、新しい感動にワクワクすることができる……!
ある日、また興味深い企画が公開され、私は目を輝かせた。
役者・荒川良々による講談『本多劇場物語』である!

コロナ禍に奮迅する芸能

コロナ禍が世にもたらした影響はとてつもなく大きい……

劇場も例外ではなく、「密」を避けるために公演の延期や中止が相次いだ。

前例のない事態に直面して、世の中のムードに陰りが帯び始めていたが、表現者たちの創作の熱は冷めてはいない……!

活気を失って弱まる劇場の輝きを取り戻そうと、2020年にWOWOWにて『劇場の灯を消すな!』というオリジナル番組が放送された。「観客が訪れることができない」そんな劇場でこそ実現できる作品を、演劇人たちが作り上げる演劇プロジェクトだ。

『本多劇場物語』

講談『本多劇場物語』は、プロジェクトの一つとして本多劇場で披露された。

台本を書き下ろしたのは、脚本家の宮藤官九郎。

個性的な世界観のドラマや舞台作品を数々世に送り出し、多くの人の心を掴んできたヒットメーカーだ。

宮藤はこれまでも『落語』や『能』などの日本の伝統芸能と、奇抜なアイデアをかけ合わせた斬新なストーリーを生み出してきたが、講談の台本を書き下ろすのは、本作が初!

そして、宮藤の書いた講談を語るのが荒川良々だ。

バラエティ豊かな演技と表情を見せる個性派俳優である。

役の幅が広く、落語を披露したこともある荒川だが、講談に挑むのは彼も初!

荒川が「とんでもない企画」とコメントしたように、講談への挑戦は、数多の舞台に立ってきた役者にとっても分厚い壁だ。

講談師が語りによって織り成す「凄み」は、簡単に再現できるものではないだろう。

しかしだからこそ、この「初」の多い講談への挑戦は、今までにない新鮮な期待を巻き起こして、見る者の胸を弾ませる!

『本多劇場物語』は、顔田顔彦という役者の失態から始まる。

役者としてなかなか評価を得られず悩むばかりか、失態を演じて座長から無茶振りを命じられ、うなだれる顔田……

そんな彼のもとに現れたのが、本多一夫という男だ。

本多劇場グループ代表として、下北沢に多くの劇場を開いてきた本多一夫の軌跡と、無茶振りにこたえてスポットライトを浴びたい顔田の顛末、予想がつかない要素をかけ合わせたストーリーが、荒川の語りで紐解かれていく!

荒川は見事、完成度の高い講談を披露してみせた!

日本芸能の持つ独特の味わいを醸しながら、個性を発揮させた荒川らしい講談が、舞台上で産声を上げたのだ。

講談『本多劇場物語』(『大人計画チャンネル』にて公開)

神田伯山の快進撃の波紋

私は今まで役者が『落語』や『歌舞伎』を披露する姿を目にしたことはあったが、『講談』は初めてだった。

このようにさまざまな場面で講談を目にする機会が増えたのも、神田伯山の快進撃の影響が大きいだろう……!

伯山は本作にも指導として関わっている。道具の扱い方や講談の語り口調などを、詳しく指導している姿が見られるのはとても貴重だ。

神田伯山による講談指導の様子(『神田伯山ティービー』にて公開)

冒頭でも述べたが、このような作品がyoutubeなどの配信サービスを通して、どこでも鑑賞できる恩恵は驚くほど!大きい!

宮藤の描いた『本多劇場物語』は、現在も活動を続ける劇場や劇団にスポットを当てた、人間的なユーモアを感じる作品だ。幅広い世代の心を揺るがして、講談がさらに世に拡大するきっかけになることを期待している。

多種多様なコンテンツを通じて「芸」の面白さが広く浸透していけば、私達が気軽に外を出歩ける頃には、以前より増して劇場や寄席が華やいでいるはずだ。

大人計画チャンネル
『大人計画』所属の俳優が披露する朗読も必見!
神田伯山ティービー
2020年に『神田伯山ティービー』は、第57回ギャラクシー賞のテレビ部門フロンティア賞を受賞した。youtubeチャンネルがギャラクシー賞に選ばれたのは史上初である。

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執筆・編集
303BOOKS編集スタッフ。コーヒーをいれることにハマっているけれど、ブラックコーヒーが飲めず、ミルクをいれたカフェオレしか飲めないことを、ちょっとだけ気にしている。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。