コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ“丹波”ササジマが現地に暮らす市井の人々にインタビューしていく連載企画。今回は大学で国語講師として働くベアトリスさんのインタビュー最終話。趣味の旅行の話のほかに、これまでの人生を振り返った心境なども語っていただきました。
夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―
ユースケは何しにコロンビアに?
旅は異文化理解への投資
お仕事を伺ったときに、普段あまり休みはないっておっしゃってましたけど、たとえば、学期が終わったごとにお休みがあるとかではないんですか?
大学が休みのときは、大学のエクステンションセンターで教えたり、前言ったみたいに企業で文章作法を教えたりしてるわ。だから、基本的に長期休暇っていうものはないわね。
そうですか、すごくお忙しいんですね。
そうね、でも、長い休みがある時は、旅行するのが好きね。あとは、読書ね。本はいつもカバンに忍ばせてて時間があるときは本を読んでるわ。
スポーツはされないですか? キレイなスタイルを保たれているので何か運動されているとお見受けするんですが・・・。
スポーツは大嫌い(笑)。
そうですか・・・嫌いじゃなくて大嫌い・・・。
あとは、puebliar(プエブリアール)※するのが好きね。
※Googleで検索することを「ググる」というが、こうした、名詞の動詞化はスペイン語でも見られる。「pueblo(プエブロ)」は、「村、田舎町(ほかにも国民や庶民という意味がある)」を意味する名詞だが、アンティオキアの人は「田舎に(散策しに)行く」ことを「puebliar(プエブリアール)」という。また、「映画」は「película(ペリクラ)」というが、「映画を見る or 見に行く」ということは「peliculiar(ペリクリアール)」という。ちなみに、「Googleで検索すること」は「googlear(ググレアール)」という。ただ、こうした動詞は標準のスペイン語ではない。Real Academia Española(レアル・アカデミア・エスパニョーラ、日本語ではスペイン王立アカデミー)という、多様すぎるスペイン語を規範化するための組織がある。標準的なスペイン語を決定する権威ある機関であるが、この機関の辞書ではいずれの単語も載っていない。ただ、「googlear(ググレアール)」はWikipediaに項目があったので、他の地域でも使われているのかもしれない。
海外に行かれることはありますか?
あるわ、これまでにメキシコ、アルゼンチン、グアテマラ、スペイン、オランダ領アンティルに行ったことがあるわね。アメリカ合衆国も行こうと思ったんだけど、ビザがおりなくて行けなかったわ。
結構たくさんの国に旅行されてるんですね。アジアの国は行かれないですか?
いずれ行ってみたいわ。想像するに、ラテンアメリカとかヨーロッパとは全てが違う世界だろうから、すごく興味あるわ。私はあまりお金はないから、旅行はただ行って珍しいものを買って遊んで帰ってっていうものじゃなくて、違う文化を学ぶ貴重な経験への投資って考えてるの。だから、アジアの国はそういう投資にはいいわよね。
そうですね、人によって旅行の目的はそれぞれでしょうけど、自分もどこか違う国に行くときは異文化の体験っていう目線で行きますね。私がラテンアメリカを周遊したのはスペイン語の勉強のためでした。
コロンビアの女性は耳で恋をする?
スペイン語はどれくらい勉強してるの?
ラテンアメリカで本格的に勉強し始めて2年半くらいですかね。でも、まだまだ chapurrear(チャプレアール)してます・・・。
なにそれ? どういう意味?
あぁ、外国語を下手に話すって意味ですね。あれ、これもしかしてどこかの方言かな・・・。
(スペイン王立アカデミーの辞書を見ながら)あぁ、そうね。たぶんそうだわ。ここ見て、脇に小さく「話し言葉」って書いてあるでしょ? だからこの言葉は標準的な言葉じゃなくて、どこか特定の地域の口語で使われる言葉ね。コロンビアでは使われないんじゃないかしら。
たしかにコロンビアで聞いたことないですね。これがスペイン語の魅力でもあり面倒くさいところでもありますよね。
そうね、すごく多様性があって美しいけど、その多様性のせいで理解できないことがあるから。でも、スペイン語お上手よ。
ありがとうございます。たくさんの女性を口説くために今も勉強頑張ってます!
同席してる奥さんに聞こえてるけど大丈夫なの?(笑)
冗談です冗談です(笑)。それにしても、スペイン語は女性を褒める表現が豊富ですよね。まぁpiropo(ピロポ)※のことですけど。
※piropo(ピロポ)とは、辞書的な定義では「外見に対する褒め言葉」であるが、ざっくりいうと、異性の気を引くために、相手(おもに女性)がどれだけ美しいか、自分がどれだけ相手に惚れ込んでいるかを表現するロマンティックなセリフである。紙幅の都合上でここでは詳しくかけないが、日本人からすると、とにかくロマンティックかつキザである。スペイン語圏の国では、ピロポは愛情表現として恋人の間でよく使われる。また、男性が街で見かけた綺麗な女性の気を引くために使われる。しかし、そうした男性の中には粗野で品のないピロポ(関西弁で表現すると「ごっつかわええなぉー姉ちゃん」など)を使う人が多く、こうしたものはセクハラと見なされ、女性からは嫌悪されている。ところで、以前こうしたピロポについて妻から興味深いことを聞いた。彼女も街で品のないピロポを言われるようで、やはり嫌な思いをするらしい。だが、なにも言われずに家路についたときは、「おかしいわね…わたし今日はそんなに綺麗じゃなかったのかしら…」と思うらしい。これは彼女の場合であり、全ての女性がこう思うわけではないが、なかなかおもしろい心理である。しかしながら、いずれにせよ下品なピロポはセクハラであることは間違いない。街で見かけた女性に声をかけたいスペイン語学習者の殿方には、くれぐれも気をつけていただきたい。
私たち女性は耳で恋するからじゃないかしら。誠実な心と美しい言葉に弱いわよね。
美しいピロポは比喩がこれでもかとばかりに盛り込まれてて、スペイン語の表現を学ぶ上でとても勉強になります。
日本にはピロポはないの?
一般的にはないですね。全くないっていうこともないと思いますけど。
じゃあ、奥さんに日本語でピロポなんか言ってみてくれない?
では、最後の質問に移りましょうか!
えぇー(笑)
全ての夢がかなった幸せな人生
もう20年近く講師として働いて来られたということですけど、将来夢みたいなものはありますか?
私の夢は、国語の講師になること、大学で教えること、経済的に自立することだったの。だから、もう自分の夢といえるものは全て叶えたわ。
全て叶えられましたか、素晴らしいですね!
ほかには、そうね、大切なパートナーを見つけて一緒になることも、物質的じゃなくて精神的に豊かな暮らしをもつことも夢だったけど、それも叶えたしね。だから、今はとても幸せよ。
もうやり残していることとかありませんか?
ないわ。たとえば、他の国に旅行してみたいとかはあるけど、それは夢じゃないわよね。別に旅行できなくても、これからも私が幸せであることに変わりはないわね。
ちなみに、お子さんはいらっしゃいますか?
子どもはいないわ。昔から子どもをほしいと思わなかったし、母親になるっていうことは重要じゃなかったの。だから若い頃に避妊手術※したわ。
※避妊手術とは卵管結紮術のこと。ちなみに、コロンビアでは国が(男性ならパイプカット、女性なら卵管結紮術)を無料で提供することを法律で定めている。
コロンビアでは、子どもは欲しくないっていう女性で手術している人はそんなに珍しくないですよね。私も何人か知っています。じゃあ、とにかく今はもうご自身の人生に満足されてますね。
もちろんよ。もし神様が天国に連れていってもなんの後悔もないわ。幸せな女性として人生を終えられるんだもの。
どうか神様には今すぐではなく、70年後ぐらいに迎えにきてもらえるとありがたいです!
120歳ぐらいまで生きられるかしら(笑)。
ぜひ頑張っていただきたいです(笑)。 ではインタビューはこの辺で。長々とお付き合いいただきありがとうございました!
いえいえ。これから会議に行ってくるわ。元気でね。