本の編集とは何か?ということを探るこのインタビュー。最終回は、これからの時代に求められる編集者像を、303 BOOKS代表・常松心平に、安部が聞きました。
「編集」って何だ?
なぞの仕事「編集」
編集プロダクション 株式会社オフィス303の代表取締役 兼 303 BOOKSのプロジェクトリーダー。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
マルチロールの編集者
もうひとつ聞きたかったのが、そもそも出版の会社にエンジニアである僕がいることもそうなんですが、この会社は編集以外の能力をもった人が多いですよね?
カメラマン、デザイナー、エンジニア、あとイラストを描けるスタッフがたくさんいる。動画もつくるしね。
僕も開発の仕事だけじゃなくて、出版物の編集もしてましたよ(笑)
そうそう。某教育ビジネスの会社の子ども新聞ね。僕よりずっとスムーズに進行してた(笑)
なんでそういう人材を集めているんですか? もしくは育てているんですか?
まあ、単純には、いろんなことやりたいからだよね(笑) この時代に生きて、動画や、アプリの開発に興味持たずにいるって逆に難しくない? やっぱりファースト・マンが大事なんだよね。それがうちは誕生する風土があるんだ。
大事なファースト・マンって、ダヤン・ビシエド※のことですか?
※ダヤン・ビシエド=キューバ出身の一塁手。メジャーリーグを経て2016年から中日ドラゴンズへ。
それは、中日のファーストでしょ(笑) アポロ11号のアームストロングの方だよ。最初にプログラムを書いたり、動画を編集したり、デザインしたりする人はめっちゃ大変なんだ。でも1回誰かができると、なんだか、みんなできるような気がするし、ノウハウもすぐにシェアされる。みんなが短時間に同じスキルを獲得できる。
誰かがたどり着いた場所なら、続くものは必ずいけるってことですね。
そうそう。それは経験的にわかっているんだ。だからそれぞれに違うこと挑戦してもらっているんだ。
気がつくと、みんないろいろできるようになってますね〜。
あと出版のビジネス環境の変化からの要請ってのもあるよ。
どんな変化ですか?
出版がかつて大きなビジネスだったときは、司令塔たる編集者の下にたくさんのスタッフがいた。お金もいっぱいあるから外注だってバンバンできた。それが成り立つビジネス規模だったから。でも今はそんな予算も納期もない。だから今は少人数で、スピーディーに制作する必要がある。
そのために、ひとりひとりが複数の特徴を持つ必要があると。
そう。複数の特徴をもっているマルチロール※な編集者が少人数で機動力の高いチームを組んで、プロジェクトにいどむ。そして短い時間でバシッと仕留める。理想的に言うとそういうことだよ。だからDTPを含むデジタルの知識とスキルは必須だし、編集以外に何ができるかということが大事になってくる。
それがうまくいくと、まちがいなく納期は早くなるし、人件費は下がりますね。
うん。そうしないとペイしないしね。あと単純に自分も新しいことに挑戦したいし、みんなが新しい挑戦をしているのを見ているのが好きってのもあるけどね。そっちのが絶対楽しいじゃん(笑)
※マルチロール=装備を付け換えることで、さまざまな機能を果たすことができる戦闘機のこと。転じて、サッカーでは複数のポジションや役割ができることを言う。現代サッカーでは当たり前となっている。
「個」と「会社」と
それと、もう1つ聞きたかったのは、市販のツール以外にも、WEB上でスケジュールと勤怠を管理するシステムとか、ギガファイル便みたいに大容量データを送るシステムとか、パズルのデータの正誤検証した上でEPSで書き出すプログラムとか、WEB上でストックフォトを販売するとか、自前でシステム開発をしてますよね。20年以上前からやってましたね。
僕が経営者になる前からだけどね。すごいよね。一歩まちがえたら、大金持ちになってたんじゃないかっていう(笑)
せっかくつくって、基本自前で使うだけっていう、この奥ゆかしさ(笑)
DTPもそうだけど、常に最新のテクノロジーを使い倒して、やっぱり個人の作業をどんどんサポートしていかなきゃいけないよね。テクノロジーはいつだって人のためにあるべき。必要ならこれからもツールは自前でつくるよ。
つくるよって。つくるのは僕ですけどね(笑)
そうか(笑) コンテンツを創造する行為にこそ意味があるんで、単純な作業そのものには意味がないから。そういう時間は、ツールをつかって限りなくゼロにしていきたい。
どんな産業でも、ITの全面展開と、これからはAIをどれだけ使えるかですよね。伝統産業の出版でもまったく同じだと思います。
うん。AIに校正してもらうの楽しみにしている(笑)あともうひとつ思っていることがあって、今って「個」の時代だと思うんだよね。YouTuberだったら、ひとりで演じて撮影して編集している。LINEマンガにアップしているマンガ家もそうだし、ミュージシャンなんかもひとりで曲作ってPVつくってYouTubeにアップしている。
ツールやWEBサービスの発達で、クリエイティブの分野では、「個人ではできない」ことがほとんどなくなっちゃいましたからね。
会社の大きさや過去の実績ではなく、「今あなたは何ができるの?」ってのがひとりひとりに問われているよね。そして「それをあなたならどうやるの?」ってのも常に問われている。
そんな時代に、「会社」であり続けるって、難しくありませんか?
僕はこの場所に、なんらかの「学び」があるってのがポイントだと思うんだ。
「個の力」を伸ばせる場所であると。
そうそう。そうでないと、お給料の魅力だけって限界あるし、クリエイティブな仕事だって言っても、今は個人でなんでもできちゃう。やっぱりこれからの時代に「会社」であるならば、新しい技術や知識を身につけられる環境や機会があることがすごく大事だと思うんだよね。
新しい情報が飛び交って、常に自分たちのあり方の問い直しがある環境ですね。
今いる場所が、新しいことから逃げてないって確信は、働く人にとっては必要だよね。僕は社員のときはずっと、そこにこだわってた。
なるほど。僕も色々勉強しながらやってますよ。心平さんにも学びがありますか?
めっちゃあるよ。僕をスキルで追い抜いていったスタッフの背中から日々学んでるよ(笑)
さて、「編集」って何だ?シリーズお送りしてきましたが、次回こそは「303 BOOKSの働き方改革」(!?)をお送りしたいと思います。