本の編集とは何か?ということを探るこのインタビュー。前回は、編集者の核心は、奇跡の組み合わせを探ることだという話を聞きましたが、今回はそれとはだいぶちがう303 BOOKSの制作現場について、代表・常松心平に、安部が聞きました。
「編集」って何だ?
なぞの仕事「編集」
編集プロダクション 株式会社オフィス303の代表取締役 兼 303 BOOKSのプロジェクトリーダー。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
DTPって何だ?
前回までの話を聞いていて、編集者としての核心の部分、クリエーターたち、あるいはそこから生まれたものの「奇跡の組み合わせ」を探ること以外に、どんなことやっているのか?ってことを聞きたいと思いました。
うちの場合の最大の特徴はDTP(デスクトップパブリッシング)※を制作現場に全面的に組み込んでいるってことだよね。
※DTP(デスクトップパブリッシング)=すでに業務用機器によってデジタル化していた出版物の制作を、印刷以外のすべての作業をパソコン内で行うこと。1990年代から日本でも試みがはじまっていった。
それいつ頃からなんですかね?
たぶん1989年の創業してまもなく、1990年代の初め頃からだと思う。僕が入社した1999年にはうちの会社では当たり前になっていた。当時はPhotoshop、Illustratorと、QuarkXpress※だったね。
※QuarkXPress=1989年に発売されたレイアウトソフト。単ページやロゴの制作などで強みを発揮するIllustratorに対し、大量のページを扱えること、ルビに対応していること、低解像度のプレビューを表示して、軽い動作を実現するなどして、かつては日本のDTP界では圧倒的なシェアを誇った。1999年に登場したInDesignに徐々に逆転を許し、今ではユーザーを見かけることは少なくなった。
QuarkXpressありましたね。なつかしい!!
1999年当時は、うちはDTPでは日本の最先端だったと思うよ。めちゃくちゃスキルが高くて驚いたもん。QuarkXpressの機能はすみずみまで使い切っていた。当時はイラストや写真のスキャンニングをして、レタッチしてから完全データをつくって入稿する会社はほとんどなかったと思う。この会社はすでにそれができてたからね。
最初は大変だったみたいですね。
そうそう。データ入稿したい!って言ったら出版社や印刷所からダメっていわれたり、デジタルじゃなくて、ポジフィルムで撮影※するように強要されたり、いやだったなあ〜(笑)あれ。もう21世紀ですよね? ってね。
理解した上で否定されるならともかく、風習にあっさり負けるっていうね(笑)
※携帯電話やデジカメが普及する以前は、フィルムを使用するカメラで“アナログ撮影”するのが一般的だったが、世間一般では主に「ネガフィルム」と呼ばれる、被写体の明暗や色が反転した画像がつくられる写真フィルム(茶色っぽいやつ)が使用されていた。一方、商業印刷を扱う業界や映画業界では、被写体の見た目がそのままの状態で画像になる「ポジフィルム(リバーサルフィルム)」が使用されていた。撮影には技術が必要で、かつ、フィルム代や現像代が高かったが、鮮やかでリアルな色再現性や解像度の良さが重宝された。現在は業界問わず、ほとんどが“デジタル撮影”へと移行し、ポジフィルムが使用されている場面を見かけることもほとんどない。
参考:リバーサルフィルム(Wikipedia)
参考:富士フイルム社のリバーサルフィルムラインナップ
プロデューサーが多すぎる!?
なぜ、DTPという考え方が必要だったのですか?
昔ね、Adobe Creative Suite※が出た頃のCMでこんなのがあって。ベッドに寝てて、夢の中でアイデアが浮かんできて、パッと飛び起きて、すぐにMacを開いて、そのアイデアをすぐに形にするの。そのCMがすごく気に入っていて。本をつくるためのツールを一通り使えればさ、自分のやりたいことがいつでも表現できる。特別な才能があるわけではない僕たちでも、誰かの力を借りなくてもできる。Mac1台あれば、なんでもできるじゃん! まさにデスクトップパブリッシング、サイコー!って思ったのよ。まあ、僕の夢には何も降りてこないんだけどさ(笑)
※Adobe Creative Suite=Photoshop、Illustrator、InDesignなどのAdobeのDTPソフトが入った統合パッケージ。2003年のCS1から2012年のCS6まで販売された。
確かに企画段階から、InDesignガシガシ使って、原寸フルカラーの誌面イメージを作って、議論を重ねていくのは当たり前ですよね。うちの会社では。
そうだね。とくに若手は最初からデジタル・ネイティブだから、企画を立てるところから、校了するまで、Adobe CC※などの製品を、すべての局面で使いながら進めていくよね。
※Adobe CC=Photoshop、Illustrator、InDesignをはじめとするたくさんのAdobe製品が月額定額制で利用できるサービス。2012年に開始された。出版物の制作現場なら必須のサービス。
まったくAdobe製品を使いこなせていない編集者も、世間にはいっぱいいるんですかね?
少なくとも、日本の編集者は、そっちの方が多いはず。WordとExcelくらいしか使わない人が主流だと思うよ。必要ないんだろうね。
最後は紙に印刷することもあって、出版の場合、編集者はデータそのものにあまり興味がないのかもしれないですね。
なのかな〜。現在のコンテンツづくりって、映像だって、音楽だって、みんなバリバリデジタルでつくっているからさ。出版物も最後は紙だったとしても、つくる過程は全部デジタルだからね。
それも20年前からですよね。
僕は、編集者がデジタルワークフローの外にいるのはへんだと思うけどね。むしろ、ど真ん中にいるべきと思うよ。だって文字通り素材(データ)を「編集」する仕事なんだからね。
他社は編集者以外の誰かがDTPをやっているわけですよね?
もちろん、今はどの本も完全にデジタル化されて、制作しているけど、印刷会社や、DTPの専門会社、デザイナーなんかがデータの取りまとめをしていて、編集者はかやの外なことも多いのよ。
なるほどね。なんかゲームやテレビでいう、プロデューサー的な関わりに感じますね。
たしかにそう感じる。出版の世界って、ディレクターがいっぱいいて、優秀なプロデューサーが少しいればいいと思うんだ。産業の構造としては。でもなんか「出版界ってプロデューサーが多すぎるかも」って気がするんだよね。最前線で戦っている人が減っている気がするんだ。体感的にそう感じる。
さて、これ以上しゃべりすぎると、業界の先輩たちに怒られるかもしれないので、今回はこのへんにして(笑) 次回は、これからの編集者のあり方について、話を進めていきたいと思います。