そもそも本の編集という仕事ほど、わかりづらいものもありません。編集者はいつだって「ご存知編集者です」みたいな態度ですが、いったいどんな仕事なのか? この不思議な仕事の実態について、303 BOOKS代表・常松心平に、安部が聞きました。
編集プロダクション 株式会社オフィス303の代表取締役 兼 303 BOOKSのプロジェクトリーダー。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
パワハラまみれの編集部? 土下座する編集者?
長くこの会社にいますが、本の「編集」ほど、一般に実態が知られていない、あるいは誤解されている仕事もないような気がします。
たしかにね。僕は両親とも編集者だから、子どもの頃からなんとなくわかっていた部分もあるけど、世間の人と話すと「これほどカンちがいされているとは!」って思うよね。
人気業種だったときも、業界が縮小してからも、就職戦線では出版社は狭き門ですからね。
そうそう。出版社落ちて、うちを受けたりしてね(笑)
わははは。生々しいわ!
世間の人は、「編集」って女性同士のパワハラとマウンティングまみれのファッション雑誌の編集部か、原稿が欲しくてマンガ家に土下座するってイメージじゃないの?
あと、ドラマとかだと、やたら都心のおしゃれなマンションに住んで、イームズの椅子に座りがちな異常におしゃれな編集部みたいな。
実際は大手でも、事務机に、山積みの資料に、質実剛健な黒いウィンドウズ(笑)
うちはアップルだぞと(笑)
編集者は何もしない!?
出版社ごとに作法もちがうし、つくる本の種類によって、作業内容は全然ちがうんだよね。だから一般の人が、僕らの仕事がわからないのは仕方ないよね。僕も他社のことって意外とわからないもん。
あえて言うなら、編集業の核心ってなんなんですか?
僕はね。本の編集を音楽で例えれば、作曲家よりDJみたいな感じだと思うんだよね?
DJって、伊集院光とかジェーン・スーってことじゃなくて(笑)、音楽をかける方のDJですね。
そうそう。僕たちは、純然たるクリエーターじゃないと思っている。消費者とクリエーターの間に位置する存在じゃないかと思う。文章とか、写真とか、イラストとか、デザインとか、いい組み合わせを見つけるのが仕事なんだ。新しく素材をつくることもあるし、どこかから見つけてきてもいい。
なるほど。そういうところが、純然たる芸術家である作曲家より、すでにある曲を、絶妙な曲順でかけて、盛り上げるDJに似ていると。でも、編集者って現場じゃいちばんエラいんじゃないんですか?
雑誌の編集長なんかたしかにいちばんエラいし、エバっていると思うけど(笑)僕らがつくっている単行本なんかだと、意識は「裏方」だよ。
そんなに謙虚でしたっけ(笑)
ほんとだよ(笑)。いちばんいい編集者は何もしない人かもしれないよ。文章書けなくてもいいし、ましてInDesign※なんかさわれなくてもいい。才能あふれるメンバー集めて、気がついたら傑作できちゃいました、みたいな。
※InDesign=Adobeが販売する出版物のページレイアウトソフト。1999年に誕生し、徐々に他のレイアウトソフトを駆逐し、現在、出版物の制作ではデフォルトになっている。
そんな経験あるんですか!?
僕はない(笑)でも、単に一流のカメラマンやデザイナーやイラストレーターを組み合わせたらいいかというとそうでもないのよ。
最強×最強がいつもいいわけじゃないんですね。タケシムケン理論※だ。
※タケシムケン理論=志村けんとビートたけしが奇跡の共演をしたバラエティ番組「神出鬼没!タケシムケン」が、不思議とお互いの良さが相殺され、短命に終わったことから、最強×最強が、最強∞とは限らないことを言う。
絶妙な組み合わせがあるのよ。流行もあるし、ライバルたちの動向もある。そのクリエーターたちの「今」をどう評価しているかってことがとても大事だし、もちろん何をどう頼むのか?ということがいちばん大事だし。でも、なにもかもがうまくハマって奇跡を起こすことはある。
奇跡の組み合わせっていうと、いぶりがっことクリームチーズみたいな(笑)
で、ワイン飲んじゃったりするんでしょ?(笑)編集の核心を1つあげるなら、そこだと思う。ただ、うちのスタイルはだいぶちがうんだよね。なぜか・・・(次回へ続く)