「303 BOOKS」はじめました!

なぜ絵本だったのか?

この記事は約5分で読めます by 安部孝志

前回まで、現在の出版状況をどう見るか、その中で編集プロダクションという業態のあり方について話してきました。今回は303 BOOKSを立ち上げる経緯、なぜ絵本を出版することになったのかを代表の常松心平に詳しく聞きました。

つねまつしんぺい
常松心平

編集プロダクション 株式会社オフィス303の代表取締役 兼 303 BOOKSのプロジェクトリーダー。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。

リスクがあるようで無い!?

303 BOOKSを立ち上げる経緯はどんなものだったんですか?

安部

最初は2016年の7月に、日販IPSっていう取次会社(出版物の流通会社)の日販のグループ会社の人から連絡をもらって会うことになったんだ。そうしたら「オフィス303で出版してみませんか?」って。

心平

こっちで動いていたわけじゃないんですね。

安部

そうそう。正直当時は、出版はそのうちやめて、WEBだけでやっていく未来をちょっと想像していた時期だったんだよ。

心平

日販IPSが提案した仕組みってどういうものだったんですか?

安部

日販IPSは出版社以外の企業に、出版流通代行サービスを提供していて、取次会社に取引口座を持たない、持ちたくない企業の出版を手伝っているわけ。LINEコミックとかテレビ番組関連の書籍化とかね。倉庫も使わせてくれるし、取次会社との交渉もぜんぶやってくれる。しかも1冊ごとの契約でいいの。それなら、ほとんどリスクないじゃんと思って。

心平
『ハードボイルド園児 宇宙くん』(LINEコミックス)
『ハードボイルド園児 宇宙くん』(LINEコミックス)
『イッテQ! エブリデイ出川語録』
『イッテQ! エブリデイ出川語録』

今の編集プロダクションって業態と矛盾がないですか?

安部

ないと思うよ。編集プロダクションの仕事はあいかわらずたくさんしている。それに、ずっとこの形で出し続けるかはわからない。とりあえず最初の『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』はこの枠組みで行っただけだよ。

心平

そんな形でスタートしましたが、リリースまでずいぶん時間かかりましたよね?

安部

完成するまで、結構時間かかっちゃった。2年半くらい? 詳しくは担当者の小熊さんに記事にしてもらおう。苦労したのは、僕じゃないからね(笑) 僕は楽しみに待っていただけだよ。

心平

もともと、なんで絵本だったんですか?

安部

日販IPSの人と意気投合して、とりあえず1冊だそうということになって。社員に企画を公募したんだけど、そのときに最初から「絵本で考えて」って投げかけたんだよね。

心平

最初から絵本ってお題だったんですね。

安部

そう。うちはずーっと児童書やってきたから、みんな児童書つくるのが得意だし、好きでしょ。対外的にも児童書のイメージがある。でも、図鑑や学校図書はお金がかかりすぎるし、小説だとちゃんと読むまでおもしろさが伝わらない。絵本なら読者も書店の人も一瞬で読める。少なくとも絵さえ良ければ、その良さって直感的に伝わるでしょ。

心平

なるほどね。でも、絵本って実は今までそんなにつくってきていないでしょ。

安部

そうそう実はそんなにやってない。対外的には「できますよ!」って雰囲気出してたけどさ(笑)

心平

児童書得意って言っても、絵本は別物なんですか?

安部

やっぱり絵本って出版社と作家がいれば、編集プロダクションは入らなくても成立しちゃうんだよね。それでも今まで何冊かチャンスをもらって関わってきたよ。やっぱり、児童書の中でも、絵本は特別な感じはしたよね。絵本つくっている編集者はどこか誇り高いというか(笑) だって、「子どもの本つくってます」って世間の人に言ったら、たいてい「絵本ですか?」って聞かれるもん。王道中の王道ってことだよね。

心平
『新幹線のたび 〜はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断〜』
『新幹線のたび 〜はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断〜』
『決戦! どうぶつ関ヶ原』
『決戦! どうぶつ関ヶ原』
ともにオフィス303が編集に参加した。

『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』はハイカロリー!?

そうして『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』の企画が社内で選ばれ、スタートすることになったわけですね。はじめるにあたって、こだわってたことってあったんですか?

安部

ひとつは、絵本って、ひとりの作家が文章から絵まですべてひとりで担当するパターンが多いでしょ。それはもちろん、すごい能力だよね。出版社はそういう才能を常に探している。でも、音楽なら、作詞、作曲別の人がやるのって当たり前じゃん。だから絵本をつくるときも、編集者がきちんとコンセプト立てた上で、僕たちが大好きな作家と、画家を組み合わせるやり方でやってみたいなとは思っていた。

心平

音楽では当たり前ですね。基本的には別の才能ですもんね。小室みつ子・小室哲哉方式ですね(笑)。

安部

『Get Wild』とかね。あと、企画そのものは小熊さんが考えたんだけど、ストーリー勝負の本にしないという方向性がいいなと思ってた。

心平

※『Get Wild』=TM NETWORKの代表曲。アニメ『シティーハンター』のエンディングテーマだった。当時は小室みつ子・作詞、小室哲哉・作曲というクレジットから、兄弟説、小室哲哉の一人二役説などの噂があった)

ストーリー勝負の本にしないって、どういう意味ですか?

安部

僕たちって、パズルの雑誌や単行本たくさんつくってきたし、幼児ドリルもたくさんつくってきたよね。そこでは言葉遊びや、絵をつかった遊びみたいのをたくさんやってきたんだよ。そういうの得意じゃん。うちの会社。

心平

かつては「パズルの303」と言われたし、今も各社のドリルをうちでつくってますよね。

安部

だから今回の『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』みたいに、言葉遊びが楽しめて、探し絵の要素も入っていて、世界のことも知ることができる、一見開きごとにも完結している、そんなストーリー以外に魅力がたくさんある企画は、僕たちらしくて「いいな」と思ったよ。

心平
『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』表紙
『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』の1ページ
『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』。2019年4月18日に発売された。

しかし、完成まで2年以上かかっちゃったと。

安部

そうだね。とにかくカロリーの高い本にしてほしいと思ってた。僕たちがあえて出版する場合「どうしてもこれを世に問いたい!」って熱量は欠かせないと思ったんだよね。外部に対する発信力としても、内部に対する求心力としても。それは林木林さんも、こがしわかおりさんも、うちの小熊さんも、まちがいなくマックス熱量こめてやってくれたと思う。そんな熱量が生み出した時間だったから、すべて必要なものだったと思ってるよ。

心平

それで、ようやく一冊できましたと。さて発売するって段階になって、そこからどうやって売っていこうという、というビジョンはあったんですか?

安部

そこだよね・・・。

心平
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CREDIT

クレジット

執筆・編集
出版業界やゲーム業界を渡り歩いてきた風来のエンジニア 兼 WEBディレクター。かつて勤めていたゲームメーカーが発売したレトロゲームを数年前から収集し始めたが、数が膨大にあるのと、一部はプレミア価格が付いていて、すべて集めるのは無理と悟った。それでも直近1年間で20タイトルほど購入した。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。
撮影
某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。