編集者コメンタリー 『ほんを よむ いぬ』
担当編集者:西塔香絵
『ほんを よむ いぬ』
(さく=キム・ミヌ / やく=わたなべなおこ)
韓国の絵本が縁を繋いでくれた一冊。
昨年、韓国の絵本『ドロシーマンション』を出版した際に、著者のGAHEEZY(カヒジ)さんが来日し、神保町のチェッコリさんでトークイベントを開催しました。その際に通訳を務めてくださったのが、ソルレム韓国語多読の会で活動されている渡辺奈緒子さんでした。
イベントのときに渡辺さんから「おすすめの絵本がほかにもありますよ」と声をかけていただき、後日あらためてお会いしたんです。そこで紹介してくださった絵本のなかに『ほんを よむ いぬ』の原書『책 읽는 개』がありました。もともと作者のキム・ミヌさんは、渡辺奈緒子さんが訳された『かたつむり』の頃から注目していた作家さんだったため、この作品を紹介していただけて嬉しかったですね。日本版がまだ出ていないことがわかり、ぜひ303BOOKSで出版したいと思いました。

最初にこの絵本を見せてもらったとき、まず絵のかわいらしさに惹かれました。絵本は絵の役割がとても大きいため、翻訳作品を選ぶ際には「日本の読者に親しんでもらえそうな絵かどうか」を、私は特に意識しています。この作品は日本人の感覚に通じるものがあるように思い、日本の読者にも受け入れられやすいのではないかと感じました。
そして何より、「犬が本を読む」という設定が魅力的でした。犬も本も好きな私にとっては、「好きなものと好きなものが合わさっているのだから、楽しくないわけがないよね!」というのが最初の印象です。

「ぼく」に込めた、ワンワンらしさ。
あらためて訳者の渡辺さんとお会いしたのは、ちょうど昨年の今頃、2025年6月でした。その後、303BOOKSで出版することが決まったのは2025年の8月の終わりごろでした。途中で他社さんも手を挙げていると聞いていたので、半分諦めていたんです。なので、303BOOKSでの出版が決まったときは「え、本当に!? 」と驚きと喜びがいっぺんに押し寄せました。多分ダメだろうと思っていたので、嬉しかったですね。

ご紹介いただいた時点で、作品の内容は大まかに教えてもらっていたこともあり、渡辺さんに翻訳にあたってお願いをすることは特にありませんでした。ひとつだけ、小さな子どもでも自分で読めるように、漢字を使わない方針に定めて翻訳を進めてもらいました。この作品は小さな子でも十分に楽しめる内容なので、対象年齢は低めに設定して、小さな子にも「ワンワンのように、本の楽しさに出会ってほしい」という思いがあったからです。
韓国版との大きな違いとしては、お話に登場する「ユニ」という子は、実は原書では「ドゥニ」という名前なんです。渡辺さんから「ドゥニ」は韓国でも珍しい名前であるし、子どもは発音がしづらい音なので「ユニ」に変えてはどうかと提案してもらい、キム・ミヌさんに許可をいただき、日本版は「ユニ」に変更しています。

また、この物語ではワンワンの成長とともに時間が流れていきます。前半は元気でやんちゃな犬ですが、後半では老犬となり、落ち着いた雰囲気へと変化していくんです。そうしたワンワンの成長に伴う変化も大切に表現してくださっています。渡辺さんはまず、ワンワンの一人称があるバージョンとないバージョンの2パターンの訳を提案してくださいました。この絵本の文章は全体的にすっきりした語り口なのですが、物語の冒頭はワンワンが元気でいたずらっ子な年頃なので、一人称の「ぼく」がある方がそれが伝わると感じました。あとは、ワンワンのあどけなさがもう少し立ってくるといいなと思ったので、語尾や言葉遣いの細かなニュアンスの調整をお願いしました。本の中の時間の流れを、そういった部分でも感じてもらえたら嬉しいです。

原書の魅力を、そのまま届けたい。
翻訳絵本を出版するにあたって、毎回苦労するのが原書の色の再現です。海外と日本とでは、紙もインクも異なるため、どうしても同じ色にはならないんです。それでも、できるだけ原書に近づけられるよう頑張っています。
また、日本語と他言語で文字数も変わるので、行数が増えてしまったり、原書と同じ場所には文字を配置できなかったりすることもあります。『ほんを よむ いぬ』では、渡辺さんが翻訳の段階から文字数を意識し、できるだけ行数が増えないよう言葉を選んでくださいました。やむを得ず文章を移動しなければならない場合でも、デザイナーさんが絵を邪魔しない場所に文字を置いてくださっています。

日本版のデザインはアルビレオさんにお願いしています。注目ポイントはズバリ、絵の中にある「描き文字」です。絵の中に出てくる文字も日本語にする必要があるのですが、原書の雰囲気によせてデザインしてくださっています。アルビレオさんは描き文字もすごく上手で、作中に登場するあいうえお表やユニがノートに書いた文字なども、キム・ミヌさんの絵のトーンに合わせてつくってくださり、もともとそうだったんじゃないかと思うくらい自然な仕上がりで感動しました。これについては、作者のキム・ミヌさんにも喜んでいただけたので、本当によかったです。

やり取りを重ねるたび、完成が楽しみになった。
アルビレオさんは、絵本に限らず、いろんな本のデザインを手掛けていらっしゃいますが、いつも本の内容や持ち味を的確に汲み取り、デザインで見事に表現されるので、以前から大好きなデザイナーさんなんです。実は以前にも翻訳絵本のデザインをお願いしたことがあり、そのときも作中の描き文字含め、とてもすてきに仕上げてくださいました。だから今回もぜひお願いしたいと思ったんです。
デザインが上がってきたときの第一印象は、もうシンプルに「さすが!! デザインしてもらえてよかった〜!」でした(笑)。まず、原書の雰囲気によせつつ、この作品の持つかわいらしさや落ち着いた優しさをすくい取った書体選びをしてくださっていて、思わずニンマリしてしまいました。そして表紙の題字の素晴らしさといったら! キム・ミヌさんの絵にある、光が揺らぐような線や、色のにじみが見事に表現されていて、もう拍手です。最後に忘れちゃいけないのが、帯。こちらもすてきなんですよ。ワンワンの耳の内側と同じコーラルピンクで、包装紙みたいな少し透け感のある薄い紙を選んでデザインしてくださっています。あたたかみがありつつもおしゃれでスタイリッシュな仕上がりが、作中の世界観と良いギャップになっていて、お気に入りです。ワンワンの魅力が伝わる印象的な場面の絵も入れてくださって、嬉しくなりましたね。

色については、色校が出てからが本番です。どうしても原書とは色味が変わってしまうため、デザイナーさんといっしょに色校と原書を見比べて、じっくり確認します。ここは、印刷所との連携も大切な局面です。こちらが気にしている部分をいかに印刷所に正確に伝えられるかが重要なので、デザイナーさんのちょっとした言葉も漏らさず書き留めて、印刷所に伝えました。おかげさまで、原書にかなり近い仕上がりになったと思います。こちらの細かいリクエストに印刷所の方々も全力で応えてくださって、ほんとうに頭が下がる思いです。

ほんをよむ楽しさに、震えてください!
今回、帯のメインコピーは本書のワンワンの言葉を選びました。文字が読めるようになり、本の世界を知った場面の「おもしろい おはなしが こんなに たくさん あったなんて! 」というワンワンの心の叫びです。ここは、ワンワンが目を見開きながら夢中で本を読む姿に、新しい世界がパーンと開けたときの感動や喜びがものすごく表現されていて、「めちゃくちゃ、わかるよ〜〜〜!」と気持ちがたかぶりました。最近では、初めてハングルが読めたときに似たような感動と興奮を覚えて、それも思い出しましたね。本が好きな人たちなら、きっとこの気持ちに共感してくれるはずだし、そのアンテナにも引っかかってもらえるはず。そう思って、この言葉は絶対帯に入れようと決めました。
これからこの本に出会うみなさんはワンワンと一緒に、ほんをよむ楽しさに震えてください! そしてこの本をきっかけに、これからもたくさんのおもしろいおはなしに出会ってもらえたら嬉しいです。

特典しおり、わんわんともじをおぼえよう!ポスター付き
303BOOKSTORE
https://303books.official.ec/items/135481101
