「正しくない」生きものはいない 〜プライド月間に贈るどうぶつ豆知識〜

この記事は約5分で読めます by 深谷芙実

編集の深谷です。
編集者になってからいろいろな生きものの本に携わり、ちょっとした豆知識が少しずつ増えてきました。そこで、この場を借りて「どうぶつ豆知識」のコーナーを開きたいと思います。
楽しいどうぶつ豆知識を通して、一緒に生きものの世界に思いをはせてみませんか。

豆知識①ペンギン編

白黒の姿でおなじみのペンギン。上の写真はアデリーペンギン(takmat71/PIXTA)

ペンギン、かわいいですよね。

多くのペンギンは、オスとメスがつがいになり、交代で卵をあたためて子育てをします。(コウテイペンギンではオスだけが卵をあたため、卵を生んだメスは海へえさを取りに行きます。)

つがいはお互いに鳴き交わしたり、羽繕いをしたり、一緒に眠ったりと、一緒に行動することで愛を深めているようです。

ここで豆知識:オス同士、メス同士でつがいになるペンギンもいる!

南アフリカに生息するケープペンギン。(micbee/PIXTA)

オランダのアメルスフォルト動物園では、ケープペンギンのオス同士のつがいが卵を育てているとニュースになっています。その卵は同じ動物園のメス同士のつがいから奪ったもの。ペンギンでは、同性のつがいはめずらしくないといいます。

スペインのオセアノグラフィック水族館では、2020年、ジェンツーペンギンのメス同士のつがいが卵を育て、ふ化させたというニュースもあります。同性のペンギンのつがいは、イギリスやドイツなど世界各地の動物園のほか、日本の京都水族館やすみだ水族館でも報告されています。

動物たちは、必ずしもオスとメスでつがいをつくるとは限らないことがわかります。

豆知識②お魚編

豆知識:魚類では、性別が途中で変わるものがたくさんいる!

魚の世界では、性転換はめずらしいことではありません。性転換する魚は約400種いると言われています。

クマノミの仲間はイソギンチャクをすみかにします。写真はカクレクマノミ(インディ/PIXTA)

水族館でおなじみのクマノミの仲間も、そう。

クマノミの仲間は、成長にともなってオスからメスへと性転換ができます。最終的にメスになるまでは、オスにもメスにもなれる「雌雄同体」の状態です。

同じイソギンチャクでくらす群れの中で、もっとも大きい個体がメスになり、次に大きい個体であるオスとペアになって子供をつくります。相手の体の大きさなど、視覚からの情報をきっかけにして性転換が起きるそうです。

鮮やかなオレンジ色のオキナワベニハゼ。(LBM/PIXTA)

また、オスとメスのどちらにも性転換できる魚もいます。オキナワベニハゼはその一種です。

この魚は体内に精巣と卵巣の両方をもっていて、何度も性別が変わることがあります。

オキナワベニハゼの大きなメスと小さなメスを同じ水槽に入れると、大きいほうのメスがオスに変わります。そして、その水槽にさらに大きなオスを入れると、一度性転換をしたオスは、またメスへと戻るのです。

これらの性転換は、狭い空間の中でもうまく子孫を残すために起きているのかもしれないと言われています。

こうして魚の世界に目を向けると、動物の性別は、必ずしも「オス」か「メス」のどちらかにはっきり分かれているとは限らないようです。

豆知識③クラゲ編

ミズクラゲ。透明な体で漂う姿が幻想的です(teru7d2/PIXTA)

クラゲ、好きですか? こちらも水族館の人気者ですね。

ゆらゆら漂うクラゲたちの豆知識を紹介します。

豆知識:多くのクラゲは、有性生殖と無性生殖ができる!

なんのこっちゃと思われたでしょうか。私たちヒトは、精子と卵が合体して子供ができる「有性生殖」をします。

これに対して、分裂や出芽など、性別に関係なく行われる生殖を「無性生殖」といいます。

動物では無性生殖をするものは少数派ですが、クラゲの仲間の多くは、有性生殖と無性生殖のどちらでも繁殖できるのです。

ミズクラゲのエフィラ。エフィラについて下で解説しています(スフィア/PIXTA)

ミズクラゲの場合、オスのクラゲの精子とメスのクラゲの卵が合体すると(有性生殖)、プラヌラというクラゲの幼生が生まれます。

プラヌラは岩などに付着してポリプに変態し、自分の分身を増やしていきます(無性生殖)。

水温が下がると、ポリプは縦に伸びてくびれが入り、お皿を重ねたような形のストロビラになります。そしてお皿の1枚1枚がはがれ、エフィラとなって水中を漂いだし、やがてそれぞれがクラゲへと成長します。

このように、ミズクラゲは有性生殖の世代と無性生殖の世代を繰り返しているのです。

子孫の残し方は、オスとメスによる有性生殖だけではなく、生きものによって多様であることがうかがえます。


どうぶつ豆知識、みなさんはいくつ知っていましたか? それくらい知ってるよ、というものも、全然知らなかった、というものもあるかもしれません。

動物によって、そして個体によって、いろいろな生き方があるということがわかります。

今年5月、LGBTQ+の人たちについて、ある国会議員が「生物学上の種の保存に反する」という内容の発言をしたという報道がありました。

しかし上に挙げたように、動物の世界には実際にさまざまな愛や性の形があります。

そしてヒトを含めたどんな生きものでも、子供をつくる個体も、つくらない個体もいます。

男女でパートナーをつくらない人や、子供をつくらない人がいるからといって、それが生物学に反していることはありません。また生物学は、生きものの生き方を正しい、正しくないと決める学問ではありません。このような発言はまったくおかしなことです。

偏見や差別をなくすために必要なもののひとつが、知識ではないでしょうか。

セクシュアルマイノリティに関する知識、その他の分野の知識を学び続けて、差別のない社会を作っていけたらいいなと思います。

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執筆・編集
2014年入社。学校図書館書籍や生物の図鑑などの児童書を担当してきた。おもな担当書籍に『深海生物大事典』(成美堂出版)、『齋藤孝の どっちも得意になる!』(教育画劇)、『MOVE』シリーズ(講談社)など。