SHIBUYA全感覚祭 – Human Rebellion –
2019.10.13 人間は反乱した
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台風19号“ハギビス”が上陸した翌日、2019年10月13日に行われ、僕たちの心に深く刻み込まれたSHIBUYA全感覚祭 – Human Rebellion -。あの夜に渋谷で一体何が起こったのか。その祭に「参加」した常松心平がレポートする。
全感覚祭 19
-NEW AGE STEP-
怪物ハギビスが
我々の楽園を蹂躙し、
桜の紋章の勇者たちが
人間同士の戦いに
勝利したあの夜──。
全感覚祭は、
GEZANが主催するレーベル
「十三月」が
2014年から開催しているイベントだ。
2019年は第6回、
「全感覚祭 19 -NEW AGE STEP-」。
大阪の堺と千葉の印西で
行われるはずだった。
事前にクラウドファンディングが
実施されていたものの
入場もフードも(!)自由料金。
会場で、スタッフの持つ箱に
「投げ銭」が集められるという
この規模のイベントとしては
異例の形態だ。
全感覚祭では、音楽だけでなく、
様々なアーティストたちが展示を行う。
農家など多くの人の協力で
参加者の腹を満たす温かいフードも
たっぷり提供される。
これは単なる音楽フェスではない。
文字通り全感覚の祝祭を
実現させるというわけだ。
GEZANのフロントマン
マヒトゥ・ザ・ピーポーは言う。
最低な時代、最低な国、最低な街にも
http://s-scrap.com/3147
最高の空間が存在できることを
証明したい。
千葉の印西の会場は
トレーラーハウスのビレッジ。
千葉と言っても幕張メッセじゃない
十三月のスタッフが
地元と交渉し、草をむしり、
車を運転し機材を運び、長い時間をかけ、
彼ら自身の手でつくった会場だ。
9月21日、雨が危ぶまれていたものの
大阪は、無事開催された。
千葉の開催日は10月12日だった。
そう、ハギビスが本土に上陸すると
予想された日だった。
ハギビスはその名の通り「素早く」
日本に近づいてくる。
その勢いはとどまることを
知らなかった。
10月10日、
ついに開催中止が告知された。
彼らがこの日に向けて
費やした時間、流した汗の量、
培ってきた信頼、ならした大地を
思うと胸が締めつけられる。
しかし、一度ハギビスが上陸すれば
参加者の「命すら」奪われかねない。
しかし10月11日
渋谷の7つのライブハウスを使って
13日深夜に「全感覚祭」が
開催されると発表された。
タイトルは
SHIBUYA全感覚祭
- Human Rebellion -。
「人間の反乱」と名付けられた。
SHIBUYA全感覚祭
– Human Rebellion –
これは代替開催じゃない、
もう1つの祭が始まったのだ。
ハギビスよりも素早く。
10月12日、ついにハギビスが上陸した。
伊豆半島から本土に姿を現した怪物は
家屋の屋根を剥ぎ取り、川を氾濫させ、
橋を落とし、人々を孤立させた。
「まずまずで収まった」
どころじゃない痛みを与え続け、
三陸沖に消えていった。
10月13日、東京は晴れた。
まぶしいほど青い空ってやつだ。
喪失感にその青さが沁みる。
午後になると
鉄道も徐々に平穏を取り戻し、
都市に鼓動を刻んでいく。
マヒトゥ・ザ・ピーポーは、
こう書き記した。
わたしたちがかけてきた
http://s-scrap.com/3335
この全感覚祭という祭がなんなのか。
今、泣いたり笑ったりしてサバイブしてる
この時代が何なのか。
これで滅びる定めなら
喜んで受け入れよう。
全ての感覚を、この命すらベットする。
勝負だ。
10月13日23:30
CLUB QUATTROのGEZANと
La.mamaのFAAFAAZから
この夜の火ぶたが切られた。
渋谷はカオスになった。
ラグビー日本代表の勝利に酔いしれる者
エイジアやハーレムで
“日常”を享楽する者
全感覚祭には果たしてどれだけの人が
集まったのだろうか。
1万人を超えていたと思う。
会場に入れなかった人だけで
3000人もいたのだから。
ついに警察も出動した。
十三月のスタッフ
ボランティアは戦っていた。
ゲートには常に人が押し寄せる
混乱の極みの中、
かろうじて導線を確保し、
かすれる声で投げ銭を呼びかけ続ける。
僕にとって真の勇者は
赤い箱を持った彼らだった。
あの夜集まってきた
ミュージシャンたちは
覚悟を決めていた。
多くが参加を表明したのは、
ハギビス上陸直前。
究極にリスクのある決断だったはずだ。
マヒトゥ・ザ・ピーポーの
この言葉にすべてが現れている
台風がくる前だからこそ
http://s-scrap.com/3335
あらかじめ言っておく。
この台風が仮にどんな被害を
引き起こし、
仮に自粛モードが街の底をはびこっても、
このイベントは開催する。
ミュージシャンたちは
たった3日間でこの夜を創り出した
十三月に感謝の意を表しながら
圧巻のパフォーマンスを繰り出した。
すべての音に奇跡があふれていて
すべての生命を祝福していて
すべての感覚が開放されていた。
ハギビスが残した爪痕は、
これから長く僕たちを苦しめるだろう。
渋谷はあいかわずクソみたいな日常を
垂れ流していた。
千葉で見られるはずだった美しい景色は
そこにはなかった。
それでも、あの夜確かに、
Human Rebellion =
「人間の反乱」があった。
WWW XでGEZANのステージが
終わったときに、そう確信した。
今年は「取材」という形で、
この祭に「参加」した。
来年の全感覚祭には、
もっと踏み込んだ形で
加われないだろうか。
僕個人でも、303 BOOKSでも。
やっぱり
祭は見るもんじゃない。
一緒に踊るもんなんだ。
マヒトゥ・ザ・ピーポーの言葉は晶文社 SCRAP BOOK「懐かしい未来」より
写真はすべて「SHIBUYA全感覚祭 – Human Rebellion -」を撮影したもの。