前回まで、どのようなきっかけでアートの道へ進んだのか。そして学生時代の創作についてうかがいました。今回は稲葉怜さん独自の技法で描く「繊維画」を生み出すまでの経緯を詳しくうかがっていきます。
アーティスト稲葉怜の『New season』
アートに出会う
『音吐』が繊維画の最初の作品ですか?
そうですね。厳密に言うと卒業制作でつくった3つの繊維画のうちのひとつです。版画専攻なのに、卒業制作で繊維画を提出して先生を困らせました(笑)
なぜ繊維を貼り付けようと思ったのですか?
もともとモノつくりとは別の所で収集グセがありまして、ハギレや、革、ビーズ類などを集めていたんです。そのなかに好きな色や柄の着物の 「はぎれ」がありました。あるとき、その着物のはぎれからほつれた糸がホワホワの繊維になってたくさん出ていまして、本来捨ててしまう部分なのですが、どうにも魅力的で、そのまま目の前にあったキャンバスに載せてみたんです。それが繊維を貼り付けるきっかけでした。
キャンバスにのせてみて、これで描けるな! って思ったのですか?
そうなんです。繊維で造っていったときの表情が、表現したいモノにしっくりきたことと、絹の繊維は柔らかくて、扱い易いと思ったんです。
怜さん着物をおめしになることが多いので、てっきり元々「和」に興味があるから使ってみたんだと思っていました。
そうじゃないんです(笑)。宮大工や仏像など日本の伝統文化は昔から落ち着くし好きでしたが、着物は高校生の頃お正月に着るくらいで、よく着るようになったのはここ5、6年なんです。
つぎに、『音吐』という作品のイメージについて聞かせてください。
イメージは「音がない振動だけの世界」。
「音がない振動だけの世界」?
はい。「音がない振動だけの世界」というのは、真空に近いと考えています。
真空に近い世界ですか・・・。なぜそのようなイメージに辿り着いたのですか?
大学に耳が不自由な友人がいて、その子から音がない振動だけの世界についての話をたくさん聞いていました。それから、自分の耳には、とめどなく音が入ってきてしまうような感覚が出てきて『音吐』という作品が生まれたんです。
この作品には、静寂と鼓動、沈み込むものと溢れ出るもの、ふたつの対立するものが表現されているように感じました。
この作品は製作期間も長くて、半年くらいを費やしました。
モデルはいるのですか?
特にいないんです。
なるほど。いろいろな意味で特別な作品なんだと思いました。以降の作品についてもうかがいたいと思います。
「旅慣れたトラヴェラーにも愛される宿」をコンセプトに2015年6月に赤坂にオープン。以来、世界から集まった約1万人以上が宿泊した。1階のバーでは定期的にアーティストの展覧会が開催されている。