『白鳥の湖 Swan Lake』出版記念 Kバレエカンパニー 小林美奈・栗山廉インタビュー
2021年3月24日(水)から東京渋谷のBunkamuraオーチャードホールにて上演される、K-BALLET COMPANY『白鳥の湖』。今回は、同日に発売される熊川哲也芸術監修ArtNovel第2弾『白鳥の湖 Swan Lake』の出版記念として、Kバレエカンパニーに所属するプリンシパルソリストの小林美奈さんと、ファーストソリストの栗山廉さんにインタビューにさせていただきました。インタビュアーにはフリーアナウンサーの神田れいみさんをお迎えして、おふたりに『白鳥の湖 Swan Lake』を読んだ感想や好きなシーンなどを語っていただきました。
美の秘訣はバレエをすること
初めてお目にかかったのですが、おふたりがまさに“美の爆発”という感じでお美しくて、驚いてしまいました。普段から何か身体のケアにおいて気をつけていることはあるのでしょうか?
僕はこのスタジオで普段fix TONE(フィックストーン)というクラスを担当しています。バレエダンサーが日々のコンディショニングの中で実践している動きを基に作られた体幹トレーニングです。誰でもできるような動きを取り入れたクラスなので、ぜひ神田さんにも挑戦していただければと思っております。
ぜひ後ほどよろしくお願いいたします。小林さんの美の秘訣はなんでしょう?
神田さんも一緒にバレエどうですか?(笑)
実は2年前に体験に行ったんですけれど、全くセンスがなくて(笑)
バレエって難しいイメージがあると思いますが、大人になってから始められる方も最近は多いんです。健康維持、体型維持、美容にもいいと思います。
そうなんですね。私も後ほどの栗山さんのご指導いただいて、バレエライフを始めてみようと思います(笑)
ダンサーから見たArtNovel『白鳥の湖 Swan Lake』
では早速本のお話に入りたいと思います。昨年10月に公演が行われた『海賊』に続き、3月24日から公演される『白鳥の湖』のArtNovel『白鳥の湖 Swan Lake』が同日に出版されます。おふたりは一足先に読まれたそうですが、率直な感想はいかがでしたでしょうか?
どのシーンもとてもどんな情景かわかりやすくて、テンポよく読める作品に仕上がっているなと思いました。普段舞台では表現されていない場面や、僕らダンサーが意識していなかった解釈もあって、とても興味深く、この本の解釈を自分の踊りに取り入れつつ、舞台に臨みたいなと思いました。また、ぜひこの本を読んで、実際に舞台を見に来てもらって、舞台と本の両方の相乗効果で、『白鳥の湖』の世界をより深くして楽しんでもらえたら嬉しいですね。
ありがとうございます。小林さんはいかがでしょうか。
私は今回の舞台でオデット・オディールの一人二役を踊らせていただきます。この本の物語と、公演の内容を重ね合わせながら読んでいたら一気に本の世界観に入り込んでしまって、気づいたら読み終わっていましたね。
そんなに長い物語ではありませんし、読みだしたら、止まらないですね。
私はオデット目線で本を読み進めていったんですけれども、オデットの心情がとてもリアルに描かれていたので、胸が締め付けられる思いになりました。また、絵のタッチが本当に素敵です。色使いも美しく、登場人物の表情が抽象的に描かれていることによって、読み進めるたびに、どんどん想像力をかき立てられると思いました。
本当にどの絵も素敵なのですが、こちらは前作『海賊 Le Corsaire』と同じ粟津泰成さんが描かれています。小林さん、特に好きな絵はありますでしょうか?
第四幕の、王子に裏切られたオデットが絶望と悲しみに暮れている後ろ姿の絵があるんですけれども、その絵は背中だけで、オデットの心情がよく現れていると感じました。もうひとつ好きな絵があります。第三幕の、オディールと王子の絵なんですが、本当に情熱的で、オディールが王子を誘惑しているのがよくわかる絵になっていて、とても印象的でした。
本のなかにしか描かれていないストーリー
物語についてはいかがですか?
多彩な文章表現を使われているので、すごく想像力をかき立てられましたね。また、本公演ではオデットがお花を摘んでいるシーンから始まるのに対して、本ではその前の段階のオデットの生い立ちから描かれています。これは、本公演が始まる前の役作りにもとても活かされると思いました。
小林さんもそのように思われるということは、バレエを習っている方やコンクールを目指している方にも非常に役立つ一冊だと思います。栗山さんはいかがでしょうか?
そうですね。コンクールは技術面が重視されがちですが、全幕作品の舞台では、それだけでなく役をしっかり理解して、芸術として表現しなければいけません。例えば第三幕の時の王子は、オデットと出会って初めて恋に落ち、喜びを表現している踊りなので、この本を読んで物語の芯をしっかり理解すれば、踊りに深みが増していき、より良くなると思います。
栗山さんが実際に演じている中で、本の内容を生かしてみたい部分はありましたか?
今まで僕はジークフリード王子役を演じてきたのですが、王子は宴のシーンでみんなに迎えられて登場するんですね。でもこの本では、実際に宴に臨むまでの王子の心情や気持ちの高揚なども書かれていて、今後また同じ役を演じる際に、この本の内容はすごく活きてくるんだろうなと思います。気持ちを高めた状態で登場すれば踊りがまた変わってくるので、王子役を演じる人には、この本を読んでもらいたいなと思いました。
小林さんはいかがですか?
私もそう思いますね。本の中に、その人の生い立ちだったり置かれてる状況なども細かく書かれているので、そういう部分は本当に踊りに活かされるなと思います。
バレエダンサー役として初のドラマ出演
おふたりは、BSプレミアムで放送されました『カンパニー~逆転のスワン~』というドラマで、俳優としてバレエダンサー役を演じられました。まず、バレエ団の協賛会社の社長令嬢で、バレエ団のプリンシパル有明紗良役を演じた小林さん、ドラマの撮影はいかがでしたでしょうか。
言葉で伝える演技、映像の仕事は初めての経験でした。バレエの舞台とはもちろん別物ですが、観ている人への「伝え方」というのはドラマも舞台も共通する部分がありました。「役を演じる」という意味では、とても勉強になりました。
大変だったこともありましたか?
ドラマは、スタジオでの撮影時間が思っていたよりも長くかかったことに驚きました。ひとつのシーンでも、何回もカット割りがあるんですよね。待っている間に、体が冷えてしまったり、筋肉もパンパンになってしまったりするので、そこが一番大変だったと思います。
ずっと待っている状態から、急にレッスンの最後の大きなジャンプをするシーンがあって、結構大変でしたね。
そうそう。普段私たちは、1時間15分のウォームアップをしてから踊るのですが、撮影ではその時間が確保できずに、いきなりトウシューズを履いて踊ることもありましたね。
そうだったんですね。そして、同じバレエ団の次世代を担う長谷山蒼太役を演じた栗山さんはいかがでしたか?
僕も初めてのドラマ出演でした。現場では、役者さんやスタッフのみなさんのバレエに対するリスペクトが感じられて、それが何より嬉しかったです。今まで真剣にバレエに取り組んできた結果、今回のバレエダンサー役としての出演に繋がったと思うので、出演できて、本当に良かったと思います。
なるほど。
そして長谷山蒼太という役は、自分と境遇が似ていると感じていました。蒼太は、主役を任されるなど、バレエ団を担っていく立場です。でも、ライバルが現れたり、他の人が抜擢されたりと、悔しい思いをするんです。僕自身も、少なからずそういう悔しい経験をしてきたので、その部分は自然に感情を込めた演技ができたと思います。
ご自身の経験も取り入れながら、演技に取り組まれていたんですね。実際に放送をご覧になった感想をお聞きしたいのですが、小林さんの演じた紗良はかなりストイックなダンサーでした。
自分で演じたんですけれど、映像で見ると怖いなって思いましたね(笑) 紗良役はバレエに対する情熱が人一倍あり、努力家なんですけど、プライドが高いのでそういう姿は誰にも見せられません。そのうえ、思ったことはズバッと言ってしまう性格なので、それが周りに怖さを感じさせるんですよね。本来の私は、実は紗良とは真逆の性格なんです。監督には「優しさはいらない、本当に怖くて良い」と言われたんです。だから、見た人にちゃんと怖いと思っていただけていれば、しっかり演じられたんだなと思います。
私もドラマの中での小林さんしか存じ上げてなかったので、実際こうしてお話ししてみると、そのギャップがとても魅力的でした。
ドラマを通して私を知ってくださった方も多いと思うので、ほんとうは違いますよ、とさりげなくアピールしておきたいと思います(笑)
栗山さんは実際に放送を見ていかがでしたか?
自分のシーンは台詞が少なかったので、リアクション芸じゃないですけど、できるだけ表情で演技しました。そこは、がんばれたかなと思います。オンエアを観ると、小林さんの演技はすごいと素直に感動しましたし、自分が出ていないシーンってこうなってたんだ!と毎回驚きがあります。純粋にドラマを楽しんでいました。
奥が深いからこそ難しい舞台での役作り
続いて、3月24日から始まるKバレエカンパニーの舞台についてうかがいます。栗山さんは今回悪魔ロットバルトの役を初めて演じられるそうですが、いつもの王子のイメージとはまた違ったかたちになりそうですが、いかがでしょう。
今まで演じてきた王子とは全然違い、ロットバルトはオデットを支配しているという目線で見られるのがすごく新鮮で、今までにない挑戦ができるのが嬉しいです。踊りの部分でも『白鳥の湖』の一番有名な旋律で踊るソロがあるので、曲の素晴らしさに感動しながら踊っています。
楽しみです! 小林さんは、白鳥のオデットと黒鳥のオディールを演じられるのは、今回で3回目とうかがいました。
そうなんです、ありがたいことに。『白鳥の湖』って本当に奥が深い作品で、役の作り方はリハーサルでも模索しています。オデットとオディールは全く違うキャラクターの持ち主なんですよね。オデットは一見はかないようですが、物静かで芯の強い女性です。オディールは悪魔ロットバルトに作られ、“愛”だけを残されたような女性で、情熱的に王子を誘惑するんです。そんな性格の中で、ふたりの人間味のある部分をより出すために、王子への歩み寄り方や、目線などの細かい部分も研究しながら、踊りたいと思います。
熊川哲也芸術監督から、オデットはこういう風に演じてほしいという指示はあるんですか?
音楽を感じてほしいと仰っていました。チャイコフスキーの音楽が全てを物語っているし、大切なことを伝えているから、音楽を感じるままに踊ってほしいと、指導していただきました。
なるほど。ご自身では、オデットの役作りはどのようにされているんですか?
オデットがどういう生い立ちで、どういう女性なのかというのはあらかじめ調べています。あとは、白鳥が飛ぶ瞬間の映像や、白鳥の写真を見たりもしますね。また、今回は本を読んでより細かい設定が描かれていたので、参考にしながら役作りをしていきたいと思いました。『白鳥の湖』の世界をしっかり自分の中に描いて、それをお客様に伝えていたきたいと思います。
本当に公演が楽しみですね! おふたりから最後にメッセージをいただけますでしょうか。
ぜひ、この本を読んでから、舞台を見に来てもらいたいですし、舞台を見た後にも読んでいただきたいです。そのことで、より深く『白鳥の湖』を理解して、楽しんでいただけたらと思います。ぜひ劇場にお越しください。
本当に、Kバレエカンパニーの『白鳥の湖』が、本になって再現されています。この本を読んで、その感動を持って劇場に足を運んでいただきたいなと思います。
本日はお忙しい中ありがとうございました!