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さる2020年12月12~13日、福島県双葉町JR双葉駅前でアートプロジェクト「FUTABA Art District」の壁画制作が行われた。双葉町は東日本大震災から9年間、帰還困難区域に定められた。2020年3月に一部区域の避難指示が解除、2022年春頃の住民帰還に向けた環境整備が進んでいる。同プロジェクトは、さまざまな壁画を手がけてきた「OVER ALLs(オーバーオールズ)」代表の赤澤岳人さんが三軒茶屋で飲食店「JOE’S MAN2号」を営む高崎丈さんと出会ったことから動き出した。ふたりは、街をアートで活性化するArt Districtについて語り合い、意気投合。高崎さんは、自分の故郷である双葉町のアートによる再生を願い、赤澤さんにその想いをぶつけてみた。そしてOVER ALLsが動き出した。
株式会社OVER ALLs
「楽しんだって、いい」を合言葉に「楽しい国、日本」という作品の完成を目指すアートカンパニー。 画家・山本勇気と社長・赤澤岳人を中心に、壁画やオーダーアートの企画制作、アパレル制作を行う。 東京・目黒にて【OVER ALLs STORE】をオープン。
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HERE WE GO!!!
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赤澤さんは、2020年8月にオーバーオールズ副社長・画家の山本勇気さんと実際に双葉町へ足を運んだ。そして「やるからには魂に響くレベルの本物の壁画を」と感じた。そして、ここに来たという証だけ残して帰ろうと”第0弾”の壁画『狼煙・Graph Balcony』を制作する。翌日、裏側の壁に第1弾の作品を描くことを決めた。
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「何を描いたら双葉町のみなさんによろこんでいただけるのだろう」と頭を悩ませた赤澤さんは、高崎さんの墓参りに同行し、被災地の現実を目の当たりにした。墓に花と線香を備えて手を合わせている高崎さんが後ろ姿は、「ごめんなさい」と言っているように感じた。震災後、原発事故があり、故郷に帰れなくなってしまったことに、後ろめたさがあり、つらい思いをしているのではないかと。
赤澤さんは、自分が同じ境遇にあっていたら、故郷に帰ってきて何を思うだろうと想像し、双葉駅の改札から外までを何度も往復した。そして、「ここが僕たちの場所だ」と宣言することが必要だと感じた。そして、高崎さんの指をモデルに「HERE」と描いた。そうすれば、故郷に帰ってきた人がメッセージを見れば、勇気づけられるのではないか。加えて、ここから狼煙をあげるぞという意味を込めてタイトルは『HERE WE GO』にした。
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ファーストペンギン
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2020年10月に第2弾の壁画に着手。高崎さんが、幼少時代に通っていた「ペンギン」というファーストフード店に真っ赤な髪の毛が印象的な女性がいた。当時のやんちゃ坊主たちの”お母さん”のような存在だった。
赤澤さんは、「そのお母さんの顔をドーンと描いたらどうですか」と提案。帰省してくる地元の方々が、駅前に降り立つとペンギンのママの顔が出迎えるのだ。駅につき、パッと顔を上げた時に一瞬笑いが生まれれば、そこに奇跡が起こっている。それが次の力に変わると赤澤さんは信じている。それが「WOW!」の力だ。
ペンギンのママを壁画にしてから、これをきっかけに帰省をする方もでてきた。いろいろな輪が広がりつつある。壁画タイトルは「ファーストペンギン」。「ペンギン」は、双葉町で唯一復活して産業交流センターで現在営業を行っている飲食店であるためそう名付けた。復活した店は、ママから娘さんが引き継いでいる。
赤澤さんの強い気持ちから、プロジェクトの本質が見えてくる。
「”HOW”=方法論だけで考えたらもっとお客様が多く来る場所で飲食店を営業すべきでしょう。でも俺たちがやらなきゃ誰がやるんだ、という衝動で動いている。この”WOW!”から始まるパワーを全世界に示す挑戦として、壁画プロジェクトをやらせていただいています。”WOW!”があれば”HOW”はあとからついてくる。高崎さんや地元の方々のご縁で、未来を向いてる者同士が共に歩んでいるんです」
※ファーストペンギン=群れから、魚を求めて危険もある海へ最初に飛びこむペンギンのこと。転じて、リスクを恐れずに挑戦する者のことを言う。
FUTABA
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今回、第3弾はもともとブティックだった店の壁に展開した。第1弾“HERE WE GO”は現在、第2弾“ファーストペンギン”は過去、第3弾”FUTABA”は未来を描く。この建物のオーナーに当時2歳のお子さんがいた。「10年経って写真を見ると別人のようだった。10年の間、時が止まっていたと言うけれど、子どもはちゃんと成長している。止まっているように見えただけで止まっていないのだ。このことを壁画に示すことができたら」と赤澤さんは話す。
山本さんはこう語りました。
「第3弾は建物のオーナーの息子さんを描きました。彼がまだ双葉にいた2歳児の姿と12歳になった現在を描いたんです。2つでひとつの作品になるように。子どもは親、地域や学校、友達に育てられて大きくなっていく。双葉町はこの10年の間それがなくなってしまった。でも、子どもたちは成長して未来へ進んでいる。過去と今、これからの双葉を表現できたらという思ったんです。僕たちの世代で、双葉が完全に元通りになるのは難しいかもしれないという話を聞きました。でも、子どもたちの世代ではそれが叶うのではないか、彼が震災後初めて帰ってきて、この絵に出会うことに、壁画プロジェクトの意味があると思っています」
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赤澤さんはOVER ALLsの次の一手を示唆しました。
「来年音楽フェスをやって、ここに人を集めたいと思っています。双葉町に人があふれる光景というのを10年ぶりに再現できたら人々の心も動くと思う。ずっと人の出入りがなくて、凍りついている空気を人々が訪れた熱で奪って持って帰ってもらう。それができたら、双葉の空気が変わるんじゃないか。ここを壁画だらけにして、その後にフェスをやるんです」
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HOWではなくWOW! OVER ALLs
アート界の"ドン・キング"赤澤岳人インタビュー
CREDIT
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