「文光堂くん」と「おうちくん」
「絵本日和の本棚@文光堂」の、ひとやすみに寄せて
丘の上に並んで建っている、仲良しの「きいろいおうちくん」と「あかいおうちくん」。
楽しく暮らすふたりに、悲しい別れのときが訪れました。
あかいおうちくんが売りに出され、取り壊されてしまったのです。
希望を失いかけたきいろいおうちくんを、最後に待っていたのは…
303BOOKSの営業、フジタです。
2022年10月、303BOOKSから刊行された『おうちくん』(作・カワダクニコ)。
この絵本と、不思議な出会いを果たした本屋さんをご紹介します。
愛されてきた建物
京成線 臼井駅から歩いて3分もすると到着するのが「文具 文光堂」。
趣のある文房具屋さんの一角に、本屋さんがあります。
「絵本日和の本棚@文光堂」、店主は佐藤由美さん。新刊の絵本以外にも古本やレトロな雑貨も扱っていて、小さいながらもこだわりが詰まった、佐藤さんの世界がいっぱいに広がっているお店です。
「文具 文光堂」は実に42年もの間、佐藤さんのご両親が経営されているのですが、建物の老朽化のため2023年3月20日での閉店が決まっています。
それに伴って、「絵本日和の本棚@文光堂」も一旦お休みすることに。
知らせを受けて、上司と一緒にご挨拶に伺いました。
この日、注文頂いたのは2冊の絵本。
佐藤さんと303BOOKSの出会いのきっかけとなった『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』と、「なんだか気になって」とご注文くださった『おうちくん』です。
鮮やかな茶色い煉瓦が目を引く建物の1階は文房具屋さんと本屋さん、2階には読書会を開いたり佐藤さんが子供たちを教えたりする教室と、今は営業していない「喫茶 MEMORY」があります。
ここまででお分かり頂けるかと思いますが、情報量の多い、魅力満載の場所なのです。
「喫茶 MEMORY」は、昭和50年代後半のオープン当初、イオン(当時はジャスコ)の工事現場の作業員や家族連れ、若者たちで大にぎわいだったそうです。
メニューを見てみると、最近ではお目にかかれないほど品数が多くて、行ってみたいなぁという気持ちになります。
近くのパン屋さんから仕入れた「イギリスパン」を使ったトーストのメニューだけで16種類もあったり、ブランデーを垂らした角砂糖に火をつけて楽しむ「カフェロワイヤル」というコーヒーまで提供していたり…
聞いているだけでワクワクする「喫茶 MEMORY」のお話を、たくさん伺いました。
わたしは喫茶店が大好きなので、テンションが上がってしまい、図々しくもコーヒーカップとソーサー、手描きのメニュー、お店のロゴが入った領収書などを頂きました。
いろいろお話して、嬉しいような悲しいような気持ちになった訪問後、佐藤さんにメールを頂きました。
売りに出され解体される、あかいおうちくんと店の建物がかぶってしまい、そしてフジタさんに持ち帰ってもらった喫茶店の物たちが、あかいおうちくんのかけらのように、別の場所で生き続けてくれるように感じました。
カワダクニコさんとの出会い
後日、「絵本日和の本棚@文光堂」のツイッターで入荷のつぶやきを見た『おうちくん』の作者、カワダクニコさんがお店を訪問。『おうちくん』にイラスト付きのサインを入れ、文光堂の建物を描いてきてくださったのです。
『おうちくん』はすぐに売れてしまったそうで、
お店にとって大切な1冊となったこの絵本を読者に届けたい気持ちと、自分自身にも1冊と思いまして、追加注文をお願いいたします。
カワダさんがサイン本を作るため、もう一度訪問されるとのことだったので、わたしも同じタイミングで伺うことにしました。
「絵本屋さんになる」夢を叶えるまで
当日、少し早く到着したので店内で待っていたところ、製本テープを探すお客さんがご来店。
大きなお店や雑貨屋さんには扱いがなく「やっぱりここでないとね」とおっしゃっていました。閉店することを知ると「これからどこで買ったらいいんだ」と悲しそうで、地元の方々に愛されてきた歴史を感じました。
カワダさんがいらっしゃって『おうちくん』にサインを入れてくださっている間、佐藤さんに「絵本日和の本棚@文光堂」を開くまでのお話を伺いました。
元々は、カフェで赤ちゃんに絵本を読んだり、小学校で読み聞かせしたり。原画展があると都内に観に行って、読書会を開いたりと、本を楽しむ生活を送っていたそう。
ぼんやり子供が「ウルトラマンになりたいよ〜」と言うような心持ちで「絵本屋さんやりたいよ〜」とは思っていました。
子供と一緒に、スーパーの七夕の短冊に「絵本屋さんになりたい」と書いてみたり。でも、本当にやるとは思っていませんでした。
ご縁が広がって、古本市にも参加するようになっていた佐藤さんに転機が訪れたのは、2020年の春のことでした。
箱に本を詰めて古本市の用意をしていたけど、コロナで延期になってしまって。
緊急事態宣言でシーンとしてるし、文光堂の棚を片付ければスペースができたので、両親に相談して、本を置き始めたのが最初です。
はじめは古本のみを扱っていましたが、だんだんと新しい本も増やしたい気持ちが膨らんできたそうです。
真っ先に相談したのは、画家で絵本作家の山﨑優子さん。「小さい書房」さん、「きじとら出版」さんなどのツテを辿って、新しい本を仕入れ始めました。
きたじまごうきさん、すぎうらえいかさんも、スタート当初からサインを入れて直接送ってくださって感謝しています。
コロナの時期に開催されていたWeb商談会も、佐藤さんの背中を押したきっかけのひとつになりました。
こんな小さな所が参加して良いものかとドキドキしながら申し込みましたが、ご協力くださる出版社さんに多く出会い、パネル展を開催することもできました。
佐藤さんが教えてくださった絵本たち
「絵本日和の本棚@文光堂」には、自分で探し出すのは難しいけれど、出会えてよかった!と必ず思える作品が、数多くラインナップされています。
その中から、わたしが実際にお店で出会った絵本をご紹介します。
『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)
初めて佐藤さんにお会いしたとき、ちょうどお店に届いた絵本です。
こんちゃんが、歌声が素敵な歌手にお手紙を書くことから始まるこのお話は、作者のくどうれいんさんが、小さい頃、実際にファンレターを出したことのあるみやざきひろかずさんが、絵を担当されています。お話はもちろん、絵本ができるまでの背景も、映画のように魅力的です。
『とっておきのカレー』(絵本塾出版)
千葉県生まれの作家、きたじまごうきさんの絵本です。
山小屋にいるカレー好きなおじさんが、子供たちに、今までおじさんのカレーを食べにやってきた珍しいお客さんのお話をしてくれます。
小学校で読み聞かせをしたとき、どの学年でもどのクラスでも反応が良く、佐藤さんも楽しみながら読めたそうです。カワダさんとわたしにも読んでくださり、意外な展開に夢中になりました。
毎日たくさん新しい本が出ているから、良い本があっても埋もれていってしまう。
出会えて、楽しんでもらえる本だから、ずっと届けていきたいと思っています。
そして、最後の「今月のイチ推し本」として選んで頂いたのが『おうちくん』。
気になって直感で仕入れましたが、当店の建物ともお別れが迫るこの時期に、呼ばれたように思えてなりません。運命を感じるほどです。
ちょうどお店には、お孫さんへのプレゼントを探すお客さんがいらっしゃっていました。お孫さんのとは別に、サインが入ったばかりの『おうちくん』をご自身用にと購入されました。
お客さんと『おうちくん』が出会う瞬間に立ち会えて、嬉しくて胸がいっぱいになりました。
最後に
佐藤さんに、絵本に対する想いを伺いました。
お店の前をお客さんが通って「絵本は良いけれど、もう子供が大きいのよね」というようなことをおっしゃって。読む人の年齢は関係なくて、まずはページを開いてみてほしいです。
「絵本」と聞いて「子供のもの」という捉え方をしている人が多いことに、もどかしい気持ちがあります。絵本ほど多様な表現ができる世界って、他にないんじゃないかと思っています。
「絵本日和の本棚@文光堂」は一旦お休み期間に入りますが、次の展開に向けた準備が進められています。
303BOOKSはこれからも、「絵本日和の本棚@文光堂」と佐藤さんを、全力で応援します!
絵本日和の本棚@文光堂
【TEL】070-6520-9021
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【住所】千葉県佐倉市王子台1-27-22
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