自身の実体験から、日本の性教育を変えたいという思いで活動を行う、性教育デザイナーのWayanさん。最終回では、自身がLGBTQ+当事者として感じる日本の問題や、今後取り組みたいことをお話ししてくれました。
「性教育デザイナー」Wayanが伝えたいこと
性×デザインー1人でも多くの人が傷つかない社会へ
性のラベルは、自分を理解するためのもの
LGBTQ+当事者として、日本で生きづらいと思う瞬間はある?
当事者として日本で生きにくいと思うことはたくさんあるけど、
まずは、性のラベルについて。前提として、私は「性はグラデーション」だと思っていて。簡単に言えば、「私はレズビアンです。」ってはっきり主張できる人は少ないと思うの。なぜなら、LGBTQ+という言葉にはさまざまな要素が含まれているから。
どんな要素なのでしょうか。
まずは、「生物学的な性」。身体的な特徴や染色体などより、客観的に判断されるもの。2つめは、「性自認」。自分自身が認識している性別のこと。3つめは、「性的指向」。恋愛感情や性的な関心が、どの性に向かっているかを示すもの。最後に、「性表現」服装や言葉遣い、振る舞いを、自分自身がどのように表現したいか。
私の解釈では、恋愛対象と性的対象は別れていると考えていて。性って本当に一人一人に違いがあるものだと思うんだ。
性は、一言では言い表せないんだね。
私自身の性自認は、女性、男性、どちらでもあるし、どちらでもない。性自認も性表現も、どちらでもあるしどちらでもないけれど、あえて自分にラベルを貼るとしたら、「Aセクシュアル」と「パンセクシュアル」というラベルが当てはまる。
うん。
これに関して私は、「性のラベルは自分の為にある」と思っていて。でも、性はグラデーションだからこそ、一つのラベルでは表しきれない。だから、人から「あなたはパンセクシュアルなんだよね!」と言われたりとか、相手の性を決めつけるような言葉は悲しくなるし、性のラベルは、あくまでも自分を理解するためにある、ひとつの手段なのかなと思う。
なるほど。だけど日本だと、LGBTQ+という言葉が先行してしまっている印象があるね。
そう。だから、「あなたゲイなんだよね?」とか、違和感なく使ってしまっている人は多いんじゃないかと思う。過去に私がしてしまっていたように…。そう言う面では、当事者としては生きにくい、カミングアウトしづらい社会だとと感じる人も多くいると思う。
性の問題に、関係のない人はいない。
次に、当事者たちの実害について。まずアメリカやEU諸国では、すでに、性別という概念で差別をいけないという法律があって。だからこそ、日本でもそういう法律が欲しいという動きを当事者の人たちはしてきていて、それが先日、国会の議題として上がることになったのね。
おお!
みんな期待を胸にその議会を待っていたんだけど、自民党内で「差別は許されない」という表現への了承が得られず、国会への提出が見送られることになったの。
どうして??
なかなか、LGBTQ+の人たちを差別しちゃいけないということを国民に浸透させるのは難しいから、差別をしないように推進していきましょう。っていうLGBT理解増進法が、代案として提出されて議論されたんだけど、最終的に、国会への提出が見送られることになってしまって。自民党の議員の中には「法が成立すれば裁判が乱立する」「道徳的にLGBTは認められない」「LGBTは種の保存に抗っている」という失言をしたことが話題になったの。
(唖然)
それって、LGBTQ+について理解していないからこそ、出てきてしまった言葉だと思っていて。それに、LGBTQ+の人たち以外に、子供を持てない、すべての人へ差別をするような発言だと捉えられたんだ。
自分の理解の及ばない範囲を否定するのは、道徳的にもしてはいけないことだよね。法律とは別に、パートナーシップ制度を取り入れている自治体もあると思うんだけど、やはりそれだけでは、制度として足りていない?
そうだね。実際に、パートナーが病気や怪我で入院した時に、面会できなかったり、同性同士のパートナーが命を授かったときに、法律上の親が亡くなってしまった場合、法律上親権のないパートナーは、子どもとの法的な関わりがないことで家族として認めてもらえずに、養子に迎え入れたり、叔父や叔母と名乗らないといけないという制約があったり。家族として認められないことで、生まれる実害や、悲しみは大きいと思う。だから結局、法律で認めて欲しいというのが現状なんだ。逆に、LGBTQ+に関係ない人たちには、否定も肯定も求めていなくて。とにかく制度を整えて欲しい、異性同士のパートナーと同じ権利が欲しいというのが、当事者たちの本音。
性教育デザイナーとして今後取り組んでいきたいこと
最後に、Wayanちゃんの今後の目標を聞きたいです。
私は今、性教育デザイン以外の仕事で、ブランディングや、アートディレクション、デザインをしています。かつ私は専門学校でファッションデザインのコースに通っていたので、服のデザインができるんだけど、そういう自分のスキルを活かして、性別に関係なく、好きだから着られる洋服や、学校制服を作りたいなと思ってるんだ。
どんなコンセプトの服を作りたいと思っているの?
せめてお家では、自分らしくいられるような洋服を作りたいなと思って、ルームウェアや、ランジェリーのような、自分のために、自分をさらけ出せるような服を作りたい。
感動しました。絶対に叶えてほしい。
性教育=人権教育
最後に、人々が性に関わらず、法律に守られる、日々の不安がなく暮らせる社会を作りたい。例えば、LGBTQ+という特定のセクシュアリティを指す言葉だけじゃなくて、「SOGI」と呼ばれる、どんな人にも当てはまる性の考え方の方を広めていきたい。すべてのセクシュアリティの人が平等に人権を持てるようにという目標もあるし、性教育に関わりたいと思ったきっかけが、カナダへ行ったことだったから。もっと世界の人たちと話をして、自分の考えを深めたり、世界をひろげていきたいと思っています。
今後、学校で講演を行ったり、質問や相談に応えたり。色々な活動ができそうだね。そして日本と世界の違いは、考えていたより何倍もありそう。
1948年に世界人権宣言が発令されたけど、50年以上経った今でも日本はまだまだ発展途上だし、世界基準でで考えた時にも、課題はたくさんあると思う。言い換えれば、性教育は人権教育だとも思ってる。
ひとえに「平等」と言っても、富裕層と貧困層のような関係だけではないということだね。今回Wayanちゃんのお話を聞いて、自分の知らなかったことがたくさんあって驚いたと同時に、少しずつ、Wayanちゃんのような活動家の人たちが増えているという、希望も感じました。
でも実際に、性教育に興味を持つ人たちが、増えていると感じてる。私が活動をし始めた3〜4年前は、周辺には顔見知りが数人程度しかいなかったんだけど、最近は私のTwitterをみてくれたりした人たちが、「こういう活動がしたい」って話しかけてくれるようになったりして。声をかけてくれる人は私より若い子がが多いのもあって、明るい未来を感じている(笑)
それはとても嬉しいね。学校教育の場でも、Society 5.0の社会を生きていく次世代のために、GIGAスクール構想がどんどん実現されていたり、10年後には、今はない職種に就く子どもたちがほとんどだとも言われているし。これまでの常識にこだわらず、社会の変化についていこうとする姿勢が、大切なのかなと思いました。Wayanちゃん、今日は本当にありがとう!
こちらこそありがとう!
【取材協力】
吉祥寺第一ホテル 2階 アトリウムラウンジ
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