夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

日本語を愛する学生 ケリー・オカンポ(3話)

この記事は約6分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ“丹波”ササジマが現地に暮らす市井の人々にインタビューしていく連載企画。今回も引き続き、ケリーちゃんさんのインタビュー。コロンビアと日本での文化の違いやコロンビア全国日本語弁論大会について話を聞かせていただきました。

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夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

ユースケは何しにコロンビアに?

ゆーすけたんばささじま
ユースケ“丹波”ササジマ

株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。

異なる文化、それぞれの良さ

こっちの人にいつも聞くことがあるんだけど、日本人と接する中で感じた文化の違いってなに。

笹島

なんだろうな~。例えば、愛情表現の仕方がコロンビアと日本では違うから、ホームステイしてた女の子はそういう違いにびっくりしてた、というか慣れてない感じでした。

ケリー

なるほどね、なんとなく想像つくけどどういう状況だったの?

笹島

私のお母さんは料理をつくってお父さんに食べさせるときはいつも、「あなた、美味しい?」って聞いて、お父さんが「今日もすごい美味しいよ」って言ってキスするんですけど・・・。

ケリー

まぁコロンビアではなんの変哲もない仲のいい夫婦の光景だよね。

笹島

そうなんですけど、その一連の流れを見てた日本人の子は「日本ではふつうそんなこと言わないしキスもしない!人前ではなおさらしない。」ってびっくりしてました。

ケリー

そういう文化に慣れ親しんでない日本人ならそうなるね。キスは日本でも愛情表現の1つだけど、一般的には他人の前でするものじゃないから目の前でしてる人がいると気まずくなるね。

笹島

らしいですね。だから、そういう反応してる日本人を見て「やっぱり日本では違うんだ」って実感しました。最初、そういう文化的な違いを知らないころは、日本人とハグしたときにすごくぎこちなくて「私とハグするのが嫌なのかなぁ・・・」って悲しくなったこともありました(笑)。

ケリー

そうなんですよ、我々日本人男性は女性にハグされちゃうとガチガチになっちゃうんですよね、体が。それは、たぶん日本ではハグというのは恋人間や恋愛感情のある人とするものっていう考えが強いからじゃないかな。だから、恋人じゃない女性とハグするとなると、そういうことしてもいいものかとかぎこちなくなっちゃうのかもね。

笹島

なるほど。

ケリー

だから、ハグしようってなったときに「自分とハグして相手の女性は嫌な思いしないかな・・・」とか考える人もいると思うよ。コロンビアの人からすると「こっちが嫌なら最初からハグしないよ」っていう感じだけどね。そこは習慣の違いだね。

笹島

日本に行ったときにある男性と友達になって、別れ際に「ハグしてもいいですか?」っていってハグさせてもらったときに「ありがとう」って言われたんですが、これは今でも意味が分からないですよ・・・。なんでお礼を言われたんでしょうか?

ケリー

それはちょっと僕にもわからないな・・・。

笹島

あと、日本人はあまり感情を表に出さなかったり、知り合ってから友人として打ち解けるまでが長かったりしますよね? もちろんみんながみんなそうっていうわけじゃないんですけど、そういう印象を受けました。心理的な距離が遠いっていうか・・・。

ケリー

一般的にはそうだね。こっちの人は心理的な距離が近いよね。見知らぬ人にも「Amigo(アミーゴ=友達)」っていって声かけるくらいだし。まあ、この場合の意味合いは日本語の「友達」とは違うけど。とにかく一般的には話すときの物理的距離も心理的距離も近い。

笹島

でも、日本に行ってみて、そういう控えめというか奥ゆかしい文化は他人に対する思いやりの1つの形なんだなって思って好きになりましたね。もちろんハグとかキスとかコロンビアの表現豊かな文化も好きですけど。たとえば、コロンビアだったらカップルが別々の場所にいたら「恋しいよ」とか愛の言葉をささやきあうけど、日本ではそういうのはあまりないですよね?

ケリー

ないね。人にもよるだろうけど、一般的には相手が仕事とかしてたら邪魔だからやめとこうって考えが働いてそういう連絡はしないんじゃないかな。こっちでは相手が何をしてるかとか考えずにバンバン電話とかメールするのは珍しくないもんね。それで返事がなかったら怒ったり・・・(笑)。

笹島

そうですね(笑)。だから、両方のいい面をお互いに取り入れられたらいいのかなって思います。

ケリー
ケリーちゃんさんと聖母マリアとキリストの像。
ケリーちゃんさんと聖母マリアとキリストの像。こうした像は住宅街やマンション、バス停の近くなど、至るところで見られる。

スピーチコンテストで日本へ

日本に行ったらしいけど、それは旅行で?

笹島

コロンビア全国日本語弁論大会っていうものがあるんですけど、今年その大会で優勝して、日本語や日本文化への理解を深める研修に参加させてもらって、2週間滞在しました。

ケリー

なるほど、研修旅行としていったんだね。スピーチではなにをテーマに話したの?

笹島

『湯島の白梅』っていう昭和歌謡に出てくる「筒井筒つついづつ」っていう言葉について話しました。

ケリー

歌も言葉も初めて聞いた・・・。「筒井筒」はどういう意味なの?

笹島

とても古い言葉で、幼なじみの男女って意味らしいです。昭和歌謡を探してたときに「湯島の白梅」に出会って、その歌詞の中に「筒井筒」っていう言葉が出てくるんですよ。それで意味を調べたら美しい言葉だなと思って、それで気に入って。

ケリー

そうなんだ。優勝ってことはかなり練習したんだよね。

笹島

そうですね。日本語の先生とかいろんな人に手伝ってもらって無事優勝できました。みなさんのおかげですほんとに。

ケリー

その弁論大会ってどういう流れで行われるの?

笹島

この大会は在コロンビア日本大使館とロス・アンデス大学の後援で行われるんですが、日本語のスピーチ原稿とそのスペイン語翻訳原稿を日本大使館に提出して、審査を通過したら本大会に出場できるって感じですね。

ケリー

※ロス・アンデス大学は首都ボゴタにある私立の名門大学。イギリスの大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ社 (Quacquarelli Symonds :QS)」が毎年発表している『QS世界大学ランキング』ではコロンビア国内で1位、ラテンアメリカ内では5位の位置につける。

なるほど。たくさんスピーチのために練習した?

笹島

もちろん。ただしゃべるだけじゃだめなので、ちゃんとスピーチに聞こえるために抑揚をつける練習とかしました。コンテストは初級・中級・上級に分かれてて、上級の部はスピーチのあとにスピーチに対する質問されるので、それに答えるための返答も考えないといけないですよ。

ケリー

そうなんだね。ちなみにケリーちゃんが出場したのはどの部?

笹島

わたしは上級の部でした。だからスピーチが終わったあとに、「ほかに好きな日本語の言葉はなんですか?」って質問されましたね。

ケリー

なんて答えたの? というかほかのお気に入りの言葉はなんなの?

笹島

「一期一会」です! 一つ一つの出会いを大切にっていう考えが好きですね。

ケリー

でも、我々は一期一会ではないことを祈ってます!

笹島
ショートヘアのケリーさん
日本に行った時に髪を切ってショートヘアに。髪型が『魔女の宅急便』に出てくる「キキ」に似ているので、お母さんから「キキ」と呼ばれることもあるんだとか。
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日本語を愛する学生 ケリー・オカンポ(4話)

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撮影・聞き手・執筆
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。