憧れの出版社に就職できたものの、リモートワークが進んでいて、まだあまり先輩たちに直接会ったことがない、新人営業マン・フジタ。
「もっと本を作っている先輩たちのことが知りたいので、呼び出して話をききたい!」
営業先でのつぶやきが、書店『ペレカスブック』の店主・新井由木子さんにおもしろがられてスタートした、『先輩呼び出し企画』です。
フジタと新井さんが、先輩のお話を一緒に伺います。
絵:ペレカスブック店主・新井由木子
出版社の新入社員が先輩を本屋さんに呼び出して 本のことやその他諸々きいてみる
はじめに
ふたりめにお呼びしている先輩は、中根会美さん。
今回は、中根さんが担当された『くるみ割り人形 The Nutcracker』編集時のお話や、随所にちりばめられたこだわりの数々をご紹介します。
(中根さんが編集者になるまでのお話は、こちらから。)
「バレエダンサーを志す人たちに、踊りのテクニックを磨くことに加えて、作品の理解を深めてほしい」という想いのもと、Kバレエカンパニーの熊川哲也さんが芸術監修を務めた、ArtNovelシリーズ。『くるみ割り人形』は、『海賊 Le Corsaire』『白鳥の湖 Swan Lake』に続く第3弾です。
読みものとしてはもちろん、モノとしての魅力が満載の本作。Kバレエカンパニーの公演期間中は会場で販売されているので、バレエを観に来たお客様にとって思い出の品となるよう、ありとあらゆる工夫が凝らされています。
まずご紹介したいのが、独特な製本方法をはじめとするビジュアルについて。
ぜひ実物を手に取っていただきたいのですが、頑丈でしっとりとした重さがあります。
表紙、背表紙、裏表紙がボール紙で、製本してから断裁するのですが、印刷会社の方も初めての手法だったそうで、制作中には製本方法の名称がわからなかったほどでした。
調べてみると、洋書の判型の一種で、海外では図書館用の書籍に使われる『Turtleback binding(タートルバック・バインディング)』に近いようです。
本文とふりがなで文字の色が異なっていたり、文章のページの端には三角形の飾りがあしらわれていたりと、絵のないページにも華やいだ印象を受けます。
また、右ページの真ん中にまとめてノンブル(ページ番号)が表記されているのも、本作の特徴のひとつ。多くの本がそうであるように、通常はソフトが自動で番号を振ってくれるのですが、
「設定がうまくいかなくて、ぜんぶ私が手打ちで入れてるという涙ぐましさを知ってほしい!」
チェックの際も、気が抜けなかったそうです。
クリスマスの物語として広く親しまれているこの作品は、ぜひ多くの子どもたちに読んでもらいたいので、
「本を開いた瞬間に、児童文学だということがわかるように」
難しい言葉をなるべく減らして平易な言葉を使ったり、文字を大きめにしたり、デザイナーさんと相談を重ねて作っていったそうです。
同じシリーズながら『海賊 Le Corsaire』とは上下の余白の大きさが違っていて、それぞれの作品の雰囲気に合わせた誌面づくりが徹底されています。メインで使われている色や、絵の風合いの違いも、ほかの2冊と見比べて楽しんでみてください。
お話を担当したのは、ゲームのシナリオライターとしても活躍している藤田千賀さん。舞台では描かれていないところも膨らませて、情景がイメージしやすい素敵なストーリーに仕上がっています。
実際に読んでみて「絵本と小説の間」というような感じがしたので、中根さんにお伝えすると
「そんな印象になるよう藤田さんにお願いしたし、編集としても一番力を入れた部分だったかなと思います」
粟津泰成さんが手掛けた情感豊かなイラストが、読む人をさらに『くるみ割り人形』の世界へと誘います。気持ちよく文と絵を行き来できるよう、絵が挟まるタイミングも意識されたそう。
特に中根さんのお気に入りなのが、第2幕のいろんな国の人形が踊りを披露する、『ディヴェルティスマン』の場面にあたるところ。
「舞台を観たとき、この場面がいちばん好きだったので、絶対やりたいと思っていました」
それぞれの国の人形の絵が小さく入っていて、あまりにもキューティーです。ご覧になる際は、お気に入りを見つけてみてください。
わたしは、初めてこの本を見たときに一目惚れしてしまったので、中根さんに編集時のお話を伺うことができて幸せでした!
多幸感に満ちたストーリーと、部屋に飾っておきたくなるビジュアルが魅力の本作は、大切な誰かへのプレゼントや、自分へのご褒美にもぴったり。
ArtNovelシリーズ『くるみ割り人形 The Nutcracker』は、Kバレエカンパニー公式オンラインショップ「Stage Door」、および全国書店、ネット書店にて発売中。Kバレエカンパニー公演期間中は、会場でも販売しています。
『くるみ割り人形 The Nutcracker』の詳細ページはこちら。
『くるみ割り人形』『海賊』『白鳥の湖』この三部作は、特別なプレゼントをしたいときに選んでいただきたい本です。
美しい水彩画と金色印刷のタイトルと厚紙を使った、他にない造本。贅沢な技を駆使した装丁は、それだけでプレゼントとして仕立てられているレベルの豪華さ。手触りも重みも印象深いので、これらの本に関してはぜひラッピング無しで、大切なひとに手渡していただきたい!
本文は、色を変えて挟まれるルビの美しさたるや。画家・栗津泰成による挿絵が見開きに大きくたっぷり開くのは、まるで舞台の幕が開くようです。
お子さんと一緒にページを覗き込んで、声に出して読んであげるのも良し。
動画が溢れるこの時代に、大切な読書体験をもたらすきっかけの本としてプレゼントするのも良しです。
この本の良さがデジタルでは伝わりきれないのが悔しい!
かの熊川哲也氏のKバレエカンパニーの公演で手に入れることのできる本ですが、書店でも扱いがあります。ぜひ店頭で、お手にとってみてください。もちろんペレカスブックにもあります!
協力:
◆ペレカスブック/pelekasbook
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