憧れの出版社に就職できたものの、リモートワークが進んでいて、まだあまり先輩たちに直接会ったことがない、新人営業マン・フジタ。
「もっと本を作っている先輩たちのことが知りたいので、呼び出して話をききたい!」
営業先でのつぶやきが、書店『ペレカスブック』の店主・新井由木子さんにおもしろがられてスタートした、『先輩呼び出し企画』です。
フジタと新井さんが、先輩のお話を一緒に伺います。
絵:ペレカスブック店主・新井由木子
出版社の新入社員が先輩を本屋さんに呼び出して 本のことやその他諸々きいてみる
はじめに
ひとりめにお呼びしている先輩は、小熊雅子さん。
今回は、小熊さんが担当した詩集『詩303P 内田麟太郎』ができるまでのお話をご紹介します。
(小熊さんが編集者になるまでのお話は、こちらから。)
発売に至るまで、3年半かかったという本作。
カエルのような、クマのような生き物がどーんと構える、インパクト抜群の表紙が印象的な仕上がりになっています。
そもそもの始まりは、303BOOKSの絵本『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』の発売記念イベント。
イベントの打ち上げで、著者の林木林さんが、ゲストでお呼びしていた内田麟太郎さんに、詩集を作りたいという話をされていました。
翌日、フェイスブックで内田さんが「一緒に詩集のシリーズを作りたい出版社はいませんか」という投稿をされ、303BOOKSが手を上げたことで、詩集づくりがスタートしました。
当時、ブログやフェイスブックで、毎日のように詩を投稿していた内田さん。
その姿を見て、
「内田さんにとって、詩を編むことは日常のいとなみのひとつで、ごはんを食べたり、歯を磨いたりするのと同じなんだと思った」
本作の構想中に小熊さんが出会った、『パターソン』という映画があります。
路線バスの運転手をしている主人公が、なにげない日常を送りながら、出来事を詩にして「秘密のノート」に書き留めていくというお話です。
この映画との出会いは、
「身近な場所に詩があれば、毎日がこんなに豊かになるんだ」
と感じるきっかけになったそうです。
詩を「身近なもの」として届ける方法があれば、いちばん内田さんらしい詩集になるのではないかと考えましたが、なかなか形に結びつかず、アートディレクター・寄藤文平さんのところへ相談に行くことに。
寄藤さんには、「詩集は従来アーカイブのような役割を果たしてきたものが多いので、書棚にしまっておきがちになるけど、テーブルにポンと置いてあったり、気軽に持ち歩けたりするものにしませんか」とペーパーバックの形を提案していただきました。
「それなら内田さんの詩に合っているし、新しい詩集の形にもなるのではないか」
と、今まで悩んでいたことがストンと腑に落ちる感じがしたそうです。
また、「なんだろうこれ!」「おもしろそうだな」と思ってもらえるような表紙にして、店頭で手に取ってもらえる本にしましょうということで、寄藤さんイチオシとして紹介されたのが、イラストレーターの杉野ギーノスさんでした。
初めて杉野さんのイラストを見たときは「内田麟太郎の詩に、この絵を!?」とびっくりしたそうですが、
「そこはかとないかわいらしさと、やんちゃな感じが、内田さんの『子ども魂』みたいなところと共通する印象があって、むしろ合うかも!」
と思ったそうです。
半年ほど前、入社したてで参加したミーティングで、初めて表紙を見せて頂いたときのワクワクした気持ちを、今でも覚えています。
個人的にもすごく楽しみにしていて、多くの人に届けられるよう、日々の営業活動に力を入れているところです!
303ページの中に、内田麟太郎さんの詩100篇が収められた本作。
パッと開いたところを読んでも、毎日1つずつ読んでも、すでに読んだものをもう一度読んでもいい。
「1日の楽しみになるような詩を、読者の方に届けられたら」
という小熊さんの思いがようやく形になり、準備が整いました。
詩集「詩303P 内田麟太郎」は、11月11日(金)全国発売です(一部地域によっては発売日は異なります)。
「詩303P 内田麟太郎」の詳細ページはこちら。
トボケているのに磨き上げられている言葉、読んだとたんに身体が宇宙の彼方に投げ出される文字の魔法、あるいは血のにじむ世界の痛みを描く内田さんの詩を腹いっぱいに詰め込んで、手のひらに心地よい体重を持っている本。
オモカワイイ(おもしろかわいい)表紙のキャラクターは、何を考えているかわからない友達みたい。
光るピンクのイラストページは、殴り書きのような勢いがありながらキュンと心に触れるフォルムを持っているから不思議です。
講義室の学生の机にボン!と投げ出されているところ。電車の中でカバーをかけられずに読まれて、ちらちらと周囲から視線を送られているところ。鍵を渡された恋人の部屋の炬燵の上で、夕日を浴びているところ。
無造作でありながら、日常の琴線のあちこちに、この詩集があるところが目に浮かびます。
不思議な友達を迎える気分で、是非この本に出会ってください。
協力:
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