本屋B&B主催で行われた『新装版 そらのうえ うみのそこ』発売記念オンライントークショー「人類が目指した”そらのうえ・うみのそこ”」。ここでは、その模様を再現いたします。今回が第3回。本書監修者の長沼毅先生と、芸人の木場事変さんが国際宇宙ステーションや、はやぶさ2について語ります。絵本作家、大橋慶子さんもゲストで登場します! 今回も宇宙について語ります!
『新装版 そらのうえ うみのそこ』発売記念トークショー 「人類が目指した”そらのうえ・うみのそこ”」
長沼毅×木場事変 ゲスト大橋慶子 #1
どうなるはやぶさ2、どうする宇宙ゴミ
宇宙飛行士のイメージってISS(国際宇宙ステーション)の中で無重力のなかを飛びながら暮らしているって感じなんですけど、宇宙飛行士ってそのISSで暮らすだけじゃなくて実験とかもしてるじゃないですか。でも、以前に先生からISSの実験で得られた科学的知見が活かされたことがないって聞いてビックリしたんですけど、今もそうなんですか?
最近はそうでもなくて、有用な実験がされてるんですよ。たとえば、宇宙ではタンパク質の結晶がとてもきれいな形でつくられることがわかりました。
結晶がきれいにできる……それはどうやってで活かされるんですか?
タンパク質の結晶を研究するとタンパク質の構造がわかります。タンパク質の構造はそのはたらきと関係しているので、「こういう構造をもっていればこういうはたらきをする」ということがわかってくるんですよ。
なるほど! そういう部分はまだわかっていないんですね。
同じことがウイルスにもいえて、ウイルスの結晶も宇宙でつくるときれいにできるんですよ。今度の新型コロナウイルスも宇宙でつくっちゃったらどうかと思う。
それは抗ウイルス薬をつくるのに役立つっていうことですか?
その方面からの攻め方もできますね。
宇宙での実験がタンパク質やウイルスの研究の進歩につながるって考えるとすごいですね。その流れでいうと、今は宇宙探査も行われてて、日本からは「はやぶさ2」が2019年に小惑星リュウグウに着きましたが、この探査の意義っていうのはどういうものなんですか?
「はやぶさ2」が探査した小惑星リュウグウは、前身の「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワよりも全然面白いんですよ。イトカワは専門的にいうとS型小惑星っていうんですが、Sとはストーン(Stone)、つまり石です。僕は口が悪いのであえて言いますけど、あれはただの石なんですよ(笑)。
ただの石…(笑)。ということはイトカワを探査しても地球の先祖云々の解明につながるっていうことでもない…?
そうですね。まあ、解析しても想像通りの結果だったってことです。一方リュウグウはC型小惑星といいますが、このCはカーボン(Carbon)、炭素のことです。このC型小惑星は太陽系の起源と進化を理解する上で物質的にとても重要なので、探査する価値が大いにあります。
前回のはやぶさは地表に弾丸をぶつけてその破片を取るっていう方法でサンプルを採取しましたよね? 今回のはやぶさ2はどうやってサンプルを取るんですか?
今回はあらかじめ表面を爆薬でふっ飛ばしたあとの内部のサンプルをとったんですよ。こうすることで、紫外線や宇宙放射線にさらされていないフレッシュなサンプルが採れるんです。こういう地球以外の地下物質はこれまで採取されたことがないんで、世界初のサンプルが今年の12月に地球に届くんですよ。
もうすぐだ! そのミッションが終わったらはやぶさ2はどうなるんですか? 前のように大気圏で燃えてなくなる…?
今回はサンプルを地球に落とすだけで本体はそのまま宇宙空間にいるんですよ。燃料がまだ残っているので、新たなミッションに再利用される予定です。
そうなんですね。ところで、運用が終了した人工衛星とかが宇宙ごみ※としてたくさん漂って問題になってますよね? 実際のところ宇宙ごみってどれくらいあるんですか?
※地球周回軌道にある運用を終えた人工衛星やロケット、またそれらの破片などのこと。英語では「スペースデブリ」という。
今のところ使い古した宇宙船とかロケットとか燃料タンクの残骸とか、そういった大きいものだけでも2万個以上あって、小さいものも入れると何個あるかわからないくらいですよ。1970年以来、5000回以上もロケットや人工衛星を打ち上げてるんで、そのたびに宇宙に残骸が放置されていったわけですからね。
そうやって宇宙ごみが増えていったら『ゼロ・グラビティ』※みたいに国際宇宙ステーションにぶつかるとかいうことにもなりかねませんよね。
実際、そういう話はあって…。
え、そうなんですか⁉
今年に入ってISSは2回も宇宙ゴミから逃げてるんですよ。
ISSって自分で動けるんですね…。今のところ、宇宙ゴミを減らす方法はないんですか?
いろんな案は出てるんですけど、決定的なものはないですね。宇宙ゴミはゴミ同士がぶつかって破片がまた散らばってっていう感じで増えるから増殖するゴミって言われているんだけど、このまま増え続けると人間が宇宙に出れなくなります。
地上も宇宙もゴミ問題は喫緊の問題ですね…。
プロフィール
1961年、人類が初めて宇宙へ飛んだ日に生まれる。 1989年、筑波大学大学院生物科学研究科修了。深海から宇宙、北極から南極、砂漠から高山まで、あらゆる極地で、生命について研究する。科学界のインディ・ジョーンズの異名を持つ。JAMSTEC研究員、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校研究員を経て、現在は広島大学大学院統合生命科学研究科教授。
1993年12月7日、長崎県波佐見町出身。プロダクション人力舎所属、お笑いコンビ「大仰天」のメンバー。日本史・ベースが趣味で、月1回、日本史のトークライブを開催している。樹海に行って歩いたり、不思議な街歩きをしたり、幅広い分野への興味や好奇心が旺盛。
岐阜県大垣市出身。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業。イラストレーター、絵本作家として活動。東京都在住。
主な絵本に『もりのなかのあなのなか』(福音館書店)、『にんじゃタクシー』(フレーベル館)、『そらのうえうみのそこ』、『きょだいなガチャガチャ』(教育画劇)など。
構成:常松心平、笹島佑介