「性教育デザイナー」Wayanが伝えたいこと

性教育後進国日本ー実体験を語る

この記事は約7分で読めます by 熊田和花

自身の実体験から、日本の性教育を変えたいという思いで活動を行う、性教育デザイナーのWayanさん。自身がLGBTQ+当事者として自覚をしたきっかけや、日本とカナダの「性」への意識の差を痛感した瞬間などを、赤裸々にお話ししてくれました。

バックナンバー

「性教育デザイナー」Wayanが伝えたいこと

性×デザインー1人でも多くの人が傷つかない社会へ

Wayan(ワヤン)
現在3社で経営に携わりながら、ブランディングやデザイン、企画、コンサルに従事。そのかたわら、デザインを通して性教育を身近にするべく、性教育デザイナーとしての活動も行っている。現在は、Adobe Creative Residencyに性教育を発信するデザイナーとして参画したり、「#SEOセックス」という、「セックス」と検索した時に正しい知識や安心して見れるサイトの検索順位が上がるよう政府へ働きかけているプロジェクトのイラスト制作、学校用の男女共同トイレに生理用品を置くプロジェクトの進行など、性教育に関わる多方面での活動を行っている。

性教育に携わろうと思ったきっかけは、カナダへの「ワーキングホリデー」

性教育デザイナーという仕事への理解は深まってきたんだけど、そもそもwayanちゃんが、性教育に携わろうと思ったきっかけはなんだろう?

熊田

始まりは、大学受験で希望の大学に落ちてしまったこと。小学生の頃から、絵画とか、芸術の類に興味があったから、鑑賞側としてもっと勉強したくてそういう学科のある大学を受けたんだけど、残念ながら。でもそれと別に、昔からいつかニューヨークに行ってみたいという夢もあって。そのとき、今なら叶えられるかも?って思って、18歳の時にカナダのトロントに1年間ワーホリに行くことにしたの。アメリカはワーホリがないから、カナダの中でNYに一番近くの都市、トロントに。

Wayan

そういう経緯だったんだね。

熊田

そうそう。それで実際にカナダへ行ってみたら、すごく「性」に対して、敏感な人が多い印象だった。敏感というのも、「それは間違っているよ」という出来事があったら、ちゃんと指摘をしてあげる人が、とても多い国で。逆に、自分の性をオープンにしている人もたくさんいた。そこで、「ゲイ」や「レズビアン」という言葉は、これまでの人生で知っていた言葉ではあったけど、実際に当事者として意識し始めたのは、カナダで、色んな人に出会ったことがきっかけ。

Wayan

ワーホリがきっかけだったんだね。例えば、トロントではどんな経験をしたの?

熊田

大きく印象に残った経験はふたつ。ひとつめの経験は、私が一番最初に仲良くなった友人のカミングアウト。その友達は、ある日突然、「今までずっと仲良くしてくれていたからWayanに言いたいことがある。実は私、トランスジェンダーなんだ。」と。その時私は、(あ、そうだったんだ。)とは思ったんだけど、それを聞いても、あなたはあなただから、と思えたし、そのとき初めて、LGBTQ+という言葉もちゃんと知ったの。

Wayan

それはすごく、大きな出来事だったね。

熊田

その友人は、性で悩んできたことを直接的に話してくれて。その時、それはすごく、真剣な面持ちで私に話してくれる姿を見て、勇気を出して伝えてくれたんだと思った。それに、カナダでもそれだけ言いにくいことだったら、日本ではLGBTQ+についての悩みを周りに言えないでいる人がめちゃめちゃいるんじゃないかってことにも、同時に気がついたの。

Wayan

自身のセクシュアリティについて

その出来事をきっかけに、自分の性についても探るようになっていって。そしたらだんだん、自分の性にも違和感を抱き始めたんだ。

Wayan

というと?

熊田

海外では、LGBTに代わる新たな呼称として、「LGBTQIA」というものがあるんだけど、Iは「インターセクシュアル」と言って、身体的な性別を男性、女性として分類できない人のこと。Aは、「アセクシュアル」と言って、他者に対して性的欲求を抱かない人のことを指す言葉なんだけど、私は、Aにあたる「アセクシュアル」なのかもと気づいたんだ。思い返してみると、異性に対して恋愛感情を抱いてこなかったなと。その代わりに、愛情が肥大化していくイメージ。相手を好きになることに、セクシュアリティは関係ないと考え他時に、パンセクシュアル(全人類愛者)でもあるなって気づいた。

Wayan

そうだったんだね。そう思うと私は、まだ性について考えたことは無かったんだなと痛感してる。その友人とは、女友達として、知り合っていたってこと?

熊田

いや、男か女かっていう判断をしていなかったの。気づいたら自然とそばにいたっていう感じで、そこに始めから性別の壁は無かったんだよね。

Wayan

なるほどそういうことか。

熊田

そうそう。その友人は日本の文化にすごく興味を持ってくれていたから、日本の文化っていうひとつのカテゴリを接点に、仲良くなったの。反対に私は、カナダの文化をたくさん教えてもらった。

Wayan
自身の体験や考えについて、NGは一切ないと語ってくれたWayanさん。性教育の分野で活動しているデザイナーとして、自分の悩みを理解してもらえない、身の回りに話せる人がいない人たちのためにも、自分の全てをさらけ出した方が良いと考えているという。

無意識の「差別意識」

それともうひとつ。カナダに行って、私ってこんなに差別的な考えを持っていたんだということに気がついた出来事があったの。

Wayan

というと?

熊田

現地の学校に1ヶ月くらい行っていたんだけど、クラスのグループでショッピングモールに行って、学校からの課題をこなしていく、スタンプラリーのような課外授業があって。その項目のひとつに、「メイクをしてもらう」というものがあったのね。それで私のグループからは、体験したことがないならやってもらいなよってことで、男の子が代表してメイクをしてもらって。

Wayan

うんうん。

熊田

そこで、今思うと本当に差別的な考えをしていたと思うんだけど、メイクをした男の子の顔を見て「ゲイみたい」っていう言葉を、何も知識がないままに言ってしまったんだよね。

Wayan

おお…。

熊田

それで、その時先生に、めっちゃ怒られた。「色んな性のあり方があり方がある中で、「見た目だけでジャッジすること」とか、「本人の触れられたくない部分部分に、触れてしまっている可能性があることを考えていないよね。」と言われて。すぐになんで私はこんなことを言ってしまったんだろう?って、すごい反省したんだよね。そしてそれは、あなたの国ではその考え方だったとしても、今カナダにいるなら、それは許されない考え方だよって。

Wayan

他人事には思えません。

熊田

確かに日本では、インターセクシュアリティの、肌が白くて華奢だとか、かわいい顔つきの男の子に対して、「ジェンダーレス」という呼称が広まっていたなと。私たちが勝手にジャッジしていいことではないのに、そう呼んでいたなって思ったり。性を決めつけてはいけないということを、怒られながら、徐々に、自分の差別的な意識に気がつきました(笑)

Wayan

でも、その先生の指摘の仕方も、とても的確だよね。

熊田

うん。でも、本当に怒ってくれる人がいてよかったなって思ってる。トロントって「モザイク国家」と呼ばれるくらい、色んな人種の人たちがいて、過去に差別されてきた人たちもいるから、差別をなくしたいと思っている人が多いんだ。例えば電車の中で、誰かが性的な差別を受けているとしたら、みんなでそれをちゃんと、なぜそれがダメなのかという理由も添えて注意する文化を、日常的に感じることが多くて。カナダにいる1年間で、それをすごく痛感したから、日本に帰ったら、この性教育に関してもっと伝えていかないといけないっていう「使命感」にどんどん変わっていったんだ。それが、性教育デザイナーとして活動をしようと思った、きっかけにもなるかな。

Wayan

それは、大きすぎる人生の転期だったね。

熊田

#3最終回は日本が抱えている問題や、性教育デザイナーWayanの作品、そのルーツを紹介していきます。


【取材協力】

吉祥寺第一ホテル 2階 アトリウムラウンジ

JR中央線・京王井の頭線「吉祥寺駅」から徒歩5分。2階中央のアトリウムに位置する、日当たりの良い落ち着いた空間で、軽食や喫茶を楽しめる。

https://www.hankyu-hotel.com/hotel/dh/kichijojidh

バックナンバー

「性教育デザイナー」Wayanが伝えたいこと

日本が抱える性の問題とは?

CREDIT

クレジット

執筆・編集
東京都世田谷区出身。ひょんなきっかけで編集者に。ファミレスはCOCOS派。千葉ロッテマリーンズの佐藤都志也選手を応援しています。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。